ふたたび巡りくる朝陽へ

 冒険者はオルシュファンの部下と共に、先行してウィッチドロップへと向かった。ここキャンプ・ドラゴンヘッドより北東、『神意の地』と呼ばれる一帯にある谷間。異端者の疑いを掛けられた者は、ここで戦神ハルオーネの審判を受けるのだという。
 出遅れてしまったアトリは、自分も追い掛けようとオルシュファンへ真剣な眼差しを向けた。

「オルシュファン、私も冒険者様の後を……」
「待て」

 だが、オルシュファンから止められてしまい、アトリはまさかここで待っていろとでも言うのかと身構えてしまった。今回に限っては、オルシュファンの意思を無視してでもフランセルを助けに行きたいと思っていた。
 だが、アトリの不安は杞憂に終わった。

「嫌な予感がする。ここは過剰でも装備を整えるべきだ」

 オルシュファンはそう言って一度部屋を後にすれば、暫くして部下や使用人と共に戻って来た。彼らの手には、槍術士の装備が携えられていた。

「反対しても聞かんのだろう? ならば、お前が傷一つ負わないよう、出来る限りの事をせねばな」
「オルシュファン……」

 ごめんなさい、と口をつきかけたが、謝罪は後だ。今はフランセルを助けに行く事を最優先に考えなければと、アトリはオルシュファンに向かって頷いた。きっと彼も今すぐにでも駆け付けたいに決まっているのだから。
 アトリは部下たちから装備を受け取り、使用人に促されるまま別部屋へと向かった。



「ありがとうございます、あとは一人で着替えられるので大丈夫です」
「時は一刻を争います。こういう時くらいは我々に甘えてくださいませ」
「は、はい……」

 フォルタン家の使用人は、慣れた手つきでアトリの服を脱がせば、キャンプ・ドラゴンヘッドに保管されていた女性向けの槍術士の装備を、頭から足先まで丁寧に、かつ迅速に付け替えて行く。

「アトリ様、きつくはありませんか?」
「大丈夫です、ぴったりです! ありがとうございます」

 アトリが纏った装備は、今まで着ていたものよりも頑丈で、それでも動き難さを感じさせなかった。これなら多少無茶をしても大丈夫だと思った瞬間。

「アトリ様、くれぐれも無茶は厳禁ですよ。あなた様に万が一の事があれば、オルシュファン様が悲しみます」
「うっ……そうですね、細心の注意を払います。それにオルシュファンが私を庇って大怪我をしたら、皆様に合わせる顔がありませんし」
「御言葉ですが、未来の奥方を守る事をも出来ないほど、フォルタン家の騎士は柔ではありませんよ」

 この使用人は随分と長い間オルシュファンを見て来たのだろうか。要するに絶対に大丈夫だから心配するなと言いたいのだろう。アトリは『未来の奥方』という言葉に赤面しつつ、絶対にフランセルを救い、無傷で帰還すると決意したのだった。





 アトリはオルシュファンや彼の部下たちと共にウィッチドロップへと向かった。正直アトリの頭の中で道順が定かではなかった為、一人で先走らず良かったと内心思っていた。

「アトリ、着心地はどうだ?」
「サイズも合っていますし、思っていたより動き易いです!」
「うむ、だが無茶は控えるのだぞ。『神意の地』はイクサル族の棲家と化している。我々の前に出て来る事はないだろうが、用心するに越した事はない」
「……心しておきます!」

 アトリはストーンヴィジルにてオルシュファンに庇われた事を思い出し、身を引き締めた。もうあんな事――オルシュファンが己を庇って怪我をするなど、二度とあってはならない。装備は万全ではあるが、一人で突っ走るのではなく周囲と連携する事を第一に考えようと決めた。なにより、戦場にはあの冒険者がいるのだから。これほど心強い事はない。
 アトリは冒険者に対して複雑に思う部分はあれど、その実力は充分認めていた。寧ろ、本気の戦いを見てみたいとすら思い始めていた。今となっては、オルシュファンの気持ちが少しだけ分かったような気がしないでもない。そんな風に素直に思えるのは、フランセルを助けるという目的があるからに違いなかった。



 アトリの視界に飛び込んで来たのは、何人かの者たちが戦いを繰り広げる状況であった。先行して駆け付けた冒険者や騎兵たちが神殿騎士と剣を交えており、オルシュファンの部下のひとりであるウルリネが声を上げた。

「あれは……きたぞ、オルシュファン様だ!」
「待たせたな。ひとまずこの場を収めるぞ!」

 オルシュファンは冒険者たちの元に駆け寄って、神殿騎士たちに剣を向けた。アトリは注意深く周囲を見回すと、フランセルと異端審問官であるギイェームが少し離れた場所にいるのを把握した。

「フランセル様! ご無事で良かったです!」
「オルシュファン、アトリ! 気を付けて……!」

 フランセルの声に、審問官ギイェームは戦場に目を向けて顔を顰めさせた。

「フォルタン家の騎士……自ら家名を汚しに来ましたか。しかも東アルデナード商会の余所者まで介入するとは……」

 どうやら異端審問官にもアトリの存在は知れ渡っているらしい。五年前に帝国のスパイ疑惑で連行されかけた事があり、現在は商人として正式に皇都を出入りしているとはいえ、快く思わない人間もいる事をフランセルは把握していた。それだけに一抹の不安が脳裏を過ったのだが、まずはこの戦いがどうなるか――冒険者やオルシュファンたちが、ギイェームの護衛である神殿騎士を抑える事に成功するのを願おうと、フランセルは険しい顔つきで彼らの戦いを見守る事にした。



 アトリはあまり前に出過ぎず、オルシュファンと対峙する神殿騎士の背後から槍を突き、動きを封じようとした。
 だが、アトリの背後に別の神殿騎士の刃が襲い掛かり、間一髪で冒険者が剣でそれを打ち払った。激しい音がして、思わず振り返ったアトリは状況を把握して、冒険者へ向かって声を上げた。

「ごめんなさい! 私……」

 冒険者が気にするなと返そうとした瞬間、対峙していた神殿騎士のひとり、アルドゥリクが忌々しそうに呟いた。

「チッ、こうなったら……今こそ来たれ……!」

 刹那、神殿騎士の増援とともに、遠目でもはっきりと分かるほど大きなものが空を舞い、こちらに向かっている事に誰もが気が付いた。
 紛れもなくドラゴン族であった。徐々に近づくにつれてそれがワイバーンだと分かり、オルシュファンは驚愕の声を上げた。

「ドラゴンだと!? 馬鹿な、周辺の警備は万全のはず!」
「異端を助けにきたのでしょう。やはり、罪は明白なようだ」

 ギイェームは眉ひとつ動かさず、しらじらしくそう告げた。まるでこうなる事が予測出来ていたかのような落ち着きに、アトリは違和感を覚えつつも、オルシュファンや冒険者、騎兵たちと顔を見合わせて、神殿騎士相手に戦いを続けた。

 アトリは槍を持っている己こそ、あのワイバーンを足止めすべきだと思ったのだが、正直言って無傷で済む自信はなかった。オルシュファンは己が怪我をする事は望んではいないだろう。
 だが、誰かがあのワイバーンを止めなければならない。
 アトリは反対されるのを覚悟で、オルシュファンに申し出た。

「オルシュファン、私があのワイバーンを足止めします」
「待て、アトリ! 早まるな!」

 神殿騎士と対峙しているのもあり、オルシュファンは力尽くでアトリを止める事が出来ずにいた。とにかく今は己の言葉を受け容れ、踏みとどまって欲しい――そう思いつつも、ワイバーンを放置していては己たちが被害を受ける事は明白であった。
 そんな中、思わぬ助け船が現れた。
 冒険者が、「万が一アトリが怪我をしそうになったら、自分が助けに行く」と言い切ったのだ。
 その言葉に、オルシュファンは一瞬目を見開いた後、苦笑いを零した。

「全く……それは私の台詞なのだがな」

 そして、神殿騎士のひとりを倒せば、オルシュファンはアトリに向かって笑みを浮かべた。

「アトリ、冒険者殿と私がお前を助けに行こう。だが、無茶をしても良いという事ではない。危ないと思ったら待避するのだぞ」
「はい! お二人とも、ありがとうございます!」

 アトリはオルシュファンの言葉を噛み締めて、ふたりに迷惑を掛ける事態は起こしてはならないと言い聞かせ、ワイバーンに向かって走り出した。
 ふたりが己を助けに来るという事は、その分神殿騎士と対峙する戦力が欠けるという事になる。特にあのアルドゥリクという騎士は強い。ふたりのうちどちらかが欠けただけでも厳しい戦いを強いられるだろう。
 ただ、無茶をして己が怪我をするのも駄目だ。自分が傷付く事よりも、あのふたりが責任を感じる事があってはならないからだ。
 今の力で、出来る限りの事をする。そう心の中で言い聞かせて、アトリは空高くジャンプし、空中でワイバーンに槍先を向け、そのまま垂直に一気に落下した。
 アトリの持つ槍先がワイバーンの身体に突き刺さり、のたうち回る――と思いきや。

「そんな! 手応えが……」

 ワイバーンはアトリの力で一度地面へと落ちたが、まるでダメージを受けている様子がなく、槍先もその身体を貫くどころか、抉る事すら出来ていなかった。
 そして、ワイバーンの矛先が、いったん距離を置いたアトリへと向かう。

「くっ……こうなったら、少しでも足止めを!」

 再び空へと舞い上がるワイバーンが、アトリに向かってブレスを吐こうとする。
 とにかく皆を巻き込まないよう戦場から距離を取り、アトリは再び空高く舞い上がってブレスを回避し、空中で再度ワイバーンに向かって槍先を向ける。
 また同じ事の繰り返しとなるが、今は足止めが出来れば良い。そう思い、アトリは空中から槍先と共に落下しながら戦況を見遣ると、アルドゥリクが倒れている姿が目に入った。

「この恨み、我が同胞が……必ず……」

 アルドゥリクが倒れると、ワイバーンはどういうわけかアトリなど見向きもせず、突然向きを変えて来た方向へと帰って行った。

「え?」

 行き場を失ったアトリの槍先は、そのまま勢いよく雪原を抉り、その衝撃で雪のかたまりが辺りに飛び散った。
 粉と化した雪がはらはらとアトリの周りを舞う。呆然としつつも顔を上げると、幸い誰も怪我はしていなかった。神殿騎士たちは全員雪原に伏しており、オルシュファンと冒険者はアトリに顔を向けて「よくやった」と言いたげに笑みを浮かべていた。
 皇都でエマネランを助けた時といい、もう少し上品に落下できないものかと、アトリは恥ずかしさで頬を朱く染めつつも、ひとまずフランセルを助けるという目的を達成する事が出来て安堵したのだった。



「ギイェーム審問官殿……我々は、教皇のご意志に背くつもりはありません。ただ、この審問は間違っている。神の騎士として、神聖なる審問が汚されることを見逃すわけにはいかないのです」

 オルシュファンはギイェームに向かって、毅然とした態度でそう言い放った。当然だが、異端審問官たるギイェームは受け容れられずにいた。

「我々が過ちを犯していると……?」

 アトリはフランセルを介抱していたが、冒険者があのアルドゥリクなる神殿騎士の傍でしゃがみ込んでいる事に気付き、フランセルに断りを入れて冒険者の元へ駆け寄った。

「冒険者様、どうかなさいましたか?」

 アトリが声を掛けると、冒険者は手に握ったアクセサリーをアトリに掲げてみせた。

「これは……」

 冒険者はこれが『竜眼の祈鎖』だと告げた。
 アトリは息を呑んで、冒険者とどちらともなく頷き合えば、すぐにオルシュファンの元へ向かった。

「オルシュファン! あの神殿騎士の所持品から、異端者の証拠のものが……!」

 アトリが声を掛け、冒険者が竜眼の祈鎖を差し出すと、オルシュファンもギイェームも驚愕の表情を浮かべた。

「『竜眼の祈鎖』だと……!? これが、神殿騎士の懐から見つかったというのか!」
「なんですって? どうして私の騎兵たちが、異端者の証を……!?」

 さすがに冒険者やアトリが細工したとは思えなかったようで、ギイェームは漸く考えを改める事にしたようだ。

「……オルシュファン卿、あなたの言葉には一理あるようです。私は急ぎ帰還し、真実を知らねばならないようだ。今回の件は不問としますが……」

 だが、ギイェームは去り際に冒険者に向かって忌々しく言い放った。

「冒険者よ。占星台での忠告を、今一度、心に刻んでおくように」

 それが何を意味するのか、アトリの知るところではなかったが、このイシュガルドという国が排他的である事は、彼女もその身を以て痛感している。見当違いかも知れないが、アトリは満面の笑みを冒険者に向けた。

「あんなの、気にする必要ないですよ」

 冒険者は苦笑して、アトリもオルシュファンと恋仲になるまで、あるいはその後も色々と苦労して来たのだろうと、なんとなく察したのだった。



 ギイェームが去り、漸く肩の荷が下りたフランセルは、オルシュファンたちに向かって頭を下げた。

「なんと礼を言ったらいいか……」
「敬虔なお前のことだ。ためらいなく飛び降りるのではないかと、焦ったぞ」
「汚名が雪げるのならそうしたさ。だが……」
「ああ、ともかくキャンプ・ドラゴンヘッドへ戻ろう。恩人を雪の中に立たせておくのは忍びない」

 オルシュファンは冒険者に向かって声を掛けた。

「キャンプに戻り、落ち着いたら私を訪ねてくれ。今回の働きに、誠意をもって応えたい」

 まず冒険者はアルフィノやシドの元に戻る事が先だと判断しての言葉であった。冒険者は頷けば、踵を返してその場を後にした。
 今のフランセルから出て来る言葉は謝罪ばかりであろう。そう思い、アトリは笑みを作って言葉を紡いだ。

「とにかく、フランセル様が無事で、しかも身の潔白も証明されて本当に良かったです!」
「……アトリも、ありがとう。ドラゴン族と戦うなんて怖かっただろうに」

 心配するように力ない笑みを浮かべるフランセルに、アトリはきっぱりと告げた。

「オルシュファンとあの冒険者様が絶対に守ると送り出してくれたのです。恐怖心はどこかに飛んでいきましたよ」

 アトリはあくまでフランセルを心配させないように言ったのだが、オルシュファンは眉間に皺を寄せた。

「アトリ、今回だけだぞ。もう二度と危険な真似はしないで欲しい」

 早速調子に乗ってしまった、とアトリは肩を竦め、フランセルと顔を見合わせて苦笑してしまった。
 オルシュファンの言い分はわかるのだが、もし己があの冒険者のように圧倒的な強さを持っていたら、こんなに心配させる事はなかっただろう。この時のアトリは意外にも、冒険者に嫉妬するよりも、もっと鍛錬を積もうと前向きに考えていた。





 キャンプ・ドラゴンヘッドへ帰還したオルシュファンとアトリは、冒険者が顔を出すのを待っていた。アトリはすっかり冒険者を信頼していたのだが、残念ながらこの後のオルシュファンの発言で、また振り出しに戻り掛けてしまった。
 アルフィノとシドと合流した冒険者が顔を出すや否や、目を輝かせるオルシュファンに、アトリは嫌な予感を覚えた。

「戻ったか、ふふ……いや、お前の戦いぶりを思い出していてな。実にたぎる共闘だった……あの熱気……すごくイイ!」

 己がひとりでワイバーンを足止めしている間に、ふたりは熱気あふれる共闘をしていたのだ。ただそれだけなのだが、アトリは妙に胸の奥がもやもやする感覚を覚えてしまい、それが顔に出ていたのか、冒険者は慌てて「アトリが頑張ってくれたお陰で、神殿騎士を倒す事が出来て本当に有り難い」と話を変えた。
 さすがにアトリも冒険者が己に気を遣っていると察し、なんとも言えない気持ちで俯いた。

「ゆっくりと語らいたいところだが、まずは礼だな。感謝するぞ。お前がいなければ、私はかけがえのない友を失くしていた。これでは、どちらが助けるほうやら」

 オルシュファンはそう言って苦笑いを浮かべたが、すぐに気を取り直して本題を切り出した。
 冒険者がここに来た目的が、漸く達成されそうなのだ。

「私にできる精一杯の謝礼として、伝令を走らせておいたぞ。念願の、飛空艇の情報だ! 目撃者はもう外に着いているはず……さっそく、話を聞いてくるといい」



 冒険者が話を聞きに行った結果、飛空艇の居場所はストーンヴィジルだと判明したのだという。アトリは驚いてオルシュファンへ顔を向けた。

「あの時はあくまで入口付近で『力試し』をしただけだったからな。飛空艇らしきものが見当たらなかったのは、致し方あるまい」

 とんだ力試しだったとアトリは溜息を吐いたが、この冒険者ならば、ストーンヴィジルでも上手く立ち回る事が出来るはずだ。
 これを機に、冒険者一行が『暁の血盟』の盟主ミンフィリアや他の皆と合流する事が出来れば、アトリも肩の荷が下りるというものだ。己の雇い主であるロロリトから釘を刺されてはいるものの、ミンフィリアたちに悪い印象はなく、また元気な姿を見たいと思うのも事実であった。
 アトリは爽やかな気持ちで冒険者たちを送り出そうとしたものの、オルシュファンの何気ない言葉でその感情は一気に地面へと叩き付けられた。

「……ところで、どうだ。発つ前に、せめて今夜はゆっくりと……」

 今夜はゆっくりと、一体何をするというのか。これまで散々ゆっくり過ごしたではないかと、アトリは毒づきたくなったが、その前に冒険者は即座に首を横に振り、拒否の意を示した。

「……む、ダメか。忙しいのだな。その気になったら、いつでも歓迎するぞ。なんといっても、お前は最高にイイからなっ!」

 アトリを気遣ってなのか、一刻も早く飛空艇の奪還に向かいたいからなのか、その真意は冒険者以外は誰も分からない。



 ストーンヴィジルに向かう三人を、オルシュファンに代わってアトリが途中まで送る事となった。

「ストーンヴィジルは、私にとって色々な思い出のある場所で……かつて未熟な頃に挑み、その結果、オルシュファンは私を庇い、怪我をしてしまいました」

 アトリは過去、ストーンヴィジルで痛い目を見た事を簡単に説明した。話が長くなっても良くないと、それがアイメリクの策であり、異邦人を遠ざける為とまでは言わなかった。

「ですが、冒険者様ならきっと大丈夫です。飛空艇を無事見つけ、『暁の血盟』が復活する事を、心から祈っています」

 それは嫉妬心など欠片もない、アトリの本心であった。冒険者も快く頷き、この子はオルシュファンが絡まなければ非常に頼りになる存在だと感じていた。正しくは、『オルシュファンがアトリを放置して己に妙な目線を向けなければ』全く害がない、と言ったところか。

「『暁の血盟』が復活した際は、アトリ、君もこっそり顔を出してくれると嬉しいよ。暁の一員にならずとも、ミンフィリアの力になれる事はきっとあるはずだからね」

 優しい笑みを浮かべてそう告げるアルフィノに、アトリは複雑な感情を抱きつつも、笑みを作って頷いた。
 一先ず、アトリは彼らとは暫しの別れとなった。この後『暁の血盟』の復活、そして、マーチ・オブ・アルコンズというエオルゼア三国による帝国軍との戦いが繰り広げられ、冒険者がエオルゼアの英雄と呼ばれる日が来るなど、アトリはまだ知る由もなかった。
 そして、このイシュガルドという閉鎖的な国でアトリたちが再会する日は、意外にも近い未来の話であった。

2022/10/15

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