闇と光は虚空を睨む


!)暗いです死ネタ注意!!
・第二次世界大戦後の緊張した時代のパロ、場所はイギリス
・紫苑(英人)は連合国側の暗号解読者
・ネズミ(国籍不明)は暗殺者
・紫苑30代、ネズミ20代
・「耳打つ懺悔は哀と呟く」の続き、ネズミ視点


名を、呼ばれた。切なげな声音で、ネズミ…と。
ああどうしようと、ネズミの心は震える。

今夜自分は、愛しい彼の命を奪いに来た死神にも等しい暗殺者だった。
このドアを開けたら最後、彼を殺す道しか残されてはいない。

まだ間に合う、紫苑に会う前に、今すぐ踵をかえして屋敷から逃げろ。

臆病な声が耳元でそう囁く。
ネズミは頭を振ってそれを振り切り、紫苑がいるであろう部屋のドアを開けた。





「……ネズミ」

また、名を呼ばれる。
紫苑は大きな椅子に深く腰掛けていた。窓からの月明かりがその白髪を照らし、美しく煌めいていた。だが逆光のため、紫苑の顔の表情までは見えない。

「紫苑」

小刻みにぶれた、みっともない声が喉から零れた。
懐に忍ばせたナイフを取り出し、サックを外す。切っ先が月光を反射して光らないよう、すばやく背後に隠す。

「紫苑」

一歩進んで、もう一度言い直す。今度は確信を込め、かけがえのない想いを声に乗せて。

紫苑が立ち上がる。彼は腕を大きく広げ、ナイフを背中に隠し持ったままのネズミを抱きすくめた。

「ネズミ!」

ネズミの手からナイフが滑り落ちる。
かつん、と乾いた音をたててそれは床を跳ねた。

…紫苑。

懐かしい温もりの中で、唐突にネズミは理解する。
自分にはこの仕事の遂行は不可能だということを。

じわり、と肩があたたかくなった。
涙だ。紫苑が、ネズミを抱き締めながらむせび泣いていた。

「紫苑」

ネズミは紫苑に静かに話しかける。

おれにはあんたを殺せない。
それくらいなら、この命を捧げ、おれがあんたの代わりに死のう。
でも、なあ、まだ諦めるには早いだろう?
すぐに逃げ出そう、追っ手はおれが返り討ちにしてやる。
そして、二人で一緒に、…あの頃のように暮らさないか。

あんたの命を狙って、刺客の訪ないは絶えないかもしれない、だが、そうだとしても、おれが必ずあんたを守るよ。
あんたと一緒ならもう、何も怖くな────

「う、…ぁっ」

紫苑の体が痙攣する。

「え?」

ごとん、と何かが足元に転がってくる。
それはリンゴだった。一口分、皮ごとかじられている。

「…あ、…っ、かは…っ」

紫苑がネズミもろともに、その場にくずおれる。

「し、紫苑!?」

倒れた紫苑の下から這い出し、その顔を見る。
やけに血色の良い顔、ガラス玉のような目。

「紫苑、紫苑っ!!おい、あんた、」

首の下に手を入れ、助け起こそうとする。そこではっと気付く。

紫苑はもう、息をしていなかった。

ネズミは呆然とその顔を眺める。
死してなお美しく気高い紫苑。

「…なん、で……、紫苑」


何故おれを置いて逝った、…紫苑。


end.

この後ネズミは紫苑に口付けて、紫苑の口内に残った青酸カリで死ぬ。
折り重なるように死んでる二人を、ネズミの属する組織の人(力河とイヌカシ)が発見して、ネズミの死体のみが回収された。

…という展開があったんですが。
途中で力尽きましたよね。あまりに暗くて…。
あ、やっぱり私には重い話無理っぽいです、ごめんなさい。
ちなみに、ネズミの言葉は途中から紫苑の耳に入ってません。
ネズミさんがかわいそう…。

この話はアラン・チューリングという実在の人物がモデルって前に書きましたが、チューリングが死んだ部屋にリンゴ、本当に転がっていたらしいです。

以下、Wikiからの引用。

1954年6月8日、自宅で死んでいるのを発見された。検死の結果、青酸中毒による死であることが判明。ベッドの脇には齧りかけのリンゴが落ちていた。リンゴに青酸化合物が塗ってあったのかの分析はなされなかったが、部屋には青酸の瓶が多数あった。彼の死は自殺であるという説がある(注1)。 しかし母は、実験用化学物質を不注意に扱ったために起こった事故であると主張している(注2)。 その他、事故に見せかけた暗殺ではないかと言う説もある(注3)。

1.同僚によれば、映画『白雪姫』を見た直後の彼が「魔法の秘薬にリンゴを浸けよう、永遠なる眠りがしみこむように」と言っていたのを耳にしており、白雪姫のワンシーンを真似てこのような死に方をしたのだという。
2.食器を自身で金メッキ・銀メッキする趣味を持っており、メッキに使用する青酸が常時、家にあった。母はメッキ作業をした後は手を良く洗うようにと息子にいつもいっていたという。すなわち、作業後に手に残存していた青酸を誤って口にした事故とする。
3.戦後も政府の暗号解読などについてのコンサルタントをしており、政府の機密に多く接していたからとする。

引用は以上です。

タイトルは、さまよりお借りしました。


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