ハリポタ 人を愛した死神 番外 | ナノ
6周年企画:糸を伝う
「さて、これは何でしょう?」
そう言ってキリーが僕に見せてきたのは、コップと糸。
「コップ二つに糸だね」
「うん。では、これは?」
次にキリーが見せてきたのは、先に大きい針が付いた武器みたいな物。
「くるくる回して穴をあける物のだね」
名前が分からないから用途を言えばキリーは頷いて、よく知っていたね、と言う。孤児院でシスターが使っているのを見たことがあるからだよ、と返せば、なるほど、とまた頷いた。
「これの名前は錐だよ。さて、トム。これらで何が出来ると思う?」
予測していたけれど、また始まったキリーお得意の謎かけ。
何をするか?そんなの、知るわけないだろ。
だってコップに、キリに、糸。これで何かをするのを見たことない。
「何をするの?」
キリーに意地を張っても意味がないのは学習済みだ。知らない事を知らないと言うのは、キリーに対しては恥ずかしいことではない。
むしろ知ったかぶったほうが後で恥ずかしい思いをするから素直に問えば、キリーはニッと笑って、キリの先端の尖った部分をひっくり返したコップの底に当てた。
そして、突き刺してしまう。
「え?」
底に穴をあけたら、コップはその機能を失うんじゃないの?何を考えているんだ、キリーは。
ポカンとする僕なんて全く気にした様子もなく、キリーは穴があいているのを確認している。
「トム、この穴に糸を通して」
「良いけど……」
安っぽいコップを渡される。中を覗けばやっぱり穴があいていて、このコップはもうコップとしての役割を果たせないな。
底に穴をあけられるなんて、このコップは思いもしなかっただろうに。覗いた先にはキリーが居て、キリーはもう一つのコップにも同じように穴をあけていた。
キリーの種明かしは、きっとこれらを組み合わせて何かを完成させてからなのだろう。
僕はそれまでこれが何をする為の物かはさっぱり分からないから、今はキリーが言うとおりにコップの穴に糸を通すしかないのだ。
「キリー、出来たよ」
「ありがとう」
キリーはもう片方にも、糸の端を通して何かをしている。そして、僕が糸を通したほうのコップにも何か仕掛けをして、完成!と言って満足そうに笑った。
「では、トム。これを持って、三階の踊り場に居て」
「何なの?」
「良いから」
言われたとおり、コップの片方を受け取って階段を上がると、キリーは一階に降りていった。さっきキリーがコップの中に何をしていたのか気になって中を見ると、糸が抜けないように止められているだけだった。
これで何をするつもりなんだろう。
「コップを耳に当てて」
一階から飛ばされる指示。最初階下を見たままに耳に当てると、キリーが違う違うと言った。
糸をピンと張らないと駄目なんだと言っていて意味が分からない。
仕方ないから横を向いて、耳にコップを当てる。
「こう?」
「そう、そのままね」
糸がピンと張られる。
下に居るキリーは、何をしようとしているのだろう。横を向いているから、キリーが何をしようとしているかさっぱりだ。
『トム、聞こえる?』
耳元で聞こえたキリーの声。
びっくりして声のしたほうを見ると、誰も居ない。下を見れば、一階にいるキリーが手を振っているだけだ。
あんなに近くに声が聞こえたのに、何で?
どういうこと?
一瞬で移動したの?
「え?」
「トム、聞こえた?」
「聞こえたけど……え?」
何でこんなに距離があるのに、キリーの声があんなに近くに聞こえたの?意味が分からないんだけど。
キリーが階段を上って、僕の一段下までやってくる。
驚いたままの僕に、トム?と声をかけてきた。
「キリーは魔法使い?」
「え?魔法?」
「だってキリーの声、さっき耳元で聞こえたよ」
知らなかった。
特別な力は僕だけが持っていると思っていたのに、キリーも持っていたなんて。こんな事なら、力の事を隠さずにいれば良かった。
「これはね、コップとコップで声が伝わるっていう遊び道具なんだよ」
「遊び道具?」
「そう。糸をピンと張ると、コップの中で言った言葉が、糸を伝ってもう一つのコップの中に伝わるんだよ」
「それは魔法ではないの?」
「魔法ではないね。物理的に証明されている事象だから、これを作れば誰でも出来るんだよ」
「……凄い」
キリーはふふ、と笑う。
だって、凄いじゃないか。魔法を使わなくても遠くの声が近くに聞こえるんだ。
こんなの、魔法と言われたら信じてしまう。
「楽しめたみたいで何より」
「ねぇ、僕の言葉もキリーに届くの?」
「勿論」
「じゃぁ、僕もやってみたい」
「分かった」
キリーはまた一階まで降りていく。軽快な足取りに、キリーも楽しんでいるのだと分かった。
さて、何て言おうかな。
僕が驚いたんだから、キリーも驚かせてやりたい。
何を言ったらキリーは驚く?
キリーはいつも飄々としていて、掴みどころがないから驚かせる方法が分からない。
キリーは一階でコップに耳をつける。
さて、何て言う?
「……」
他の誰にも聞かれない、このコップを持った相手にしか聞こえない言葉。それは内緒話をするみたいで、こそばゆい。
息を吸い込む。
いつもだったら外にいる鳥や猫に聞こえたら恥ずかしいと思って、言えない言葉をこの中で言おう。
「キリー、これからも一緒だよ」
横を向いたキリーの体が震えたのが、一階と三階の距離でも分かった。
キリーの顔がこっちを向く。
その表情は、何を考えているのか分からないもので。
僕とじっと見つめ合うキリー。
無表情だったキリーの顔は、蕾が開花するように綻んだ。
僕の言葉がキリーを喜ばせたのが嬉しい。
僕の大事な秘め事は、糸を通してキリーに伝わった。
***
祥さん、この度はお祝いのメッセージ及び「人を愛した死神の日常」のリクエストをありがとう御座います!
ほのぼの日常を書かせていただきました。
トムはまだまだ子供なので、知らない事が沢山です。
それを一つ一つ、キリーさんが教えていけたらいいなと思っております。
もし他にも「こんなのが読んでみたいよ!」と言うのがあったら仰って下さいませ。
飽和する世界の番外も、こんなのが読みたい!というのがありましたら、仰っていただけましたら執筆したく思っております。
もう気がついたらサイトが6年目に入っていて、ふと思えば古株と言われても仕方ないポジションになっていました。
閉鎖せず、ここまでやってこられたのは祥さんのように話しかけてくださり、時には激励をくださるお客様あってのことです。
もしお客様が居なかったらとっくに閉鎖していたと思います。
それが6年間も運営してこられたのは、縁のおかげです。
祥さん、日頃より嬉しい言葉の数々を本当にありがとう御座います。
今後も変わらずのんべんだらりと運営していきますが、何卒よろしくお願い致します。
リクエスト、本当にありがとう御座いました!!
以下、私信
↓
まさかの同日にディズニーでに行っていたですと!?
私はシーだったのですが、すぐ傍に祥さんがいらっしゃったと気付いてビックリしました。
ランドとシーでの距離が憎い……!
是非一度お会いしてみたいものです。
まぁ、私を見たら祥さんガッカリするでしょうが。
一度シーに行ってみてくださいませ。
ランドほどの夢の国ではないですが、シーもそれなりに夢の国です。
大人っぽいと思われる世界観ですし、落ち着いてみていると夢の世界へ入ったと言うよりタイムスリップした雰囲気を味わえます。
今度祥さんが居る時にランドに行きたいものです。
是非お声かけ下さい!!
2013/11/24
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