ハリポタ 人を愛した死神 番外 | ナノ
6周年企画:訪問蛇
カーテンを全開にして光をいっぱい取り込んで温まっていた部屋が少しずつ寒くなってくる。机に広げたドリルも夕日を浴びて見づらい。もうすぐ日が暮れる。
でももう少し。あと少しだけドリルを進めよう。キリが良い所までは進めたい。算数の計算が沢山のっているドリルに目を落として鉛筆を動かしていると、コンコン、と控えめな音。
ここは僕の部屋で、三階だ。きっと猫が壁を叩いたか何かだろう。そう思って無視すると、またノック音。
音のほうを見ると、窓に長細い何かの影があってギョッとする。
なに!?
『ヘイ兄弟、寒いんだ、開けてくれよ』
「誰?」
『俺だよ』
窓に張り付いた長細いものは、近付いてよく見れば、蛇だった。
蛇が僕に、話しかけてきた。
「誰?」
『蛇には名前は無いんだ。ただ、俺は寒いと動けなくなってしまうから、お願いだよ、部屋の中で今晩を過ごさせてくれ』
「……」
窓越しに居る蛇は濃い緑色の体でとぐろを巻いて、首だけ伸ばして窓ガラスをコンコンと叩いている。キリーは他人を入れてはいけないと言っていたけれど、これは人ではないから良いだろう。
窓を開けてあげると、喜んでするりと入ってきた。一緒に入ってきた風が冷たくて、きっと蛇も人を頼るほどに寒さが辛かったのだろうと思い、窓を閉める。
「何で僕に話しかけてきたの?」
『蛇の世界では有名なんだぜ?前に何処だったかな、遠いところで、草むらに隠れてた奴と話しただろ?』
「草むらに……?あぁ」
孤児院に居たときの話だ。庭に蛇が居て、声が聞き取れたから話した記憶はある。誰も信じてくれないし、僕自身疲れて妄想したのかもしれないと自分を疑っていたから、まさか今になってその話をされるとは思わなかった。
「あれ、現実だったんだ」
『おいおい兄弟、そりゃないぜ。お前みたいなパーセルタング持ちの人間はそういないんだ。俺達にとっちゃ本当に嬉しいことなんだぜ?』
「ふぅん」
『何だよ反応薄いなぁ』
ぱーせるたんぐ、というのはきっと人間以外の生き物と話が出来る、という意味なのだろう。不思議な力もあることだし、何か出来るのだろうなぁとは思っていたけど、まさかそんな力も持っていたなんてね。自分を疑ってしまったのが悔しく思える。
『しかし兄弟、その能力について人に言っちゃあ駄目だぜ?』
毛布に顔以外を突っ込んで暖を取る蛇は、陽気な声で言ってくる。
「何でさ」
『そんなのは簡単だ。不思議な力を持つ存在を欲しがる奴は必ず居る。だからもし知られたら、お前は狙われて、攫われちゃうかもしれない』
「こんな力を求める奴が居るの?居ないと思うけど」
『視野が狭いぜ?よく考えてくれよ、サーカス団で蛇使いはとても客引きになる。蛇と意思疎通が取れるお前は喉から手が出るほど欲しいのさ』
「そんなの、僕が蛇を使って何をするか分からないじゃないか」
蛇を使って人間を襲わせる事だって出来る。人間に飼われている蛇なら、人間に不満もあるだろう。甘く誘惑してやれば、蛇はあっという間に僕の指揮に従うだろう。
『そんなの薬漬けにして、依存させて従順にさせりゃあ問題ないさ。なぁ兄弟、人間はとっても危ないんだぜ?』
薬漬け、と言う意味がいまいち分からないけれど、きっと僕が僕でなくなるような仕打ちを受ける、と言うことなのだろう。そうでなければ僕が従順に従うはずがないのだから。
「それで?君は何を言いたいの?」
『なぁに、お前と一緒に居て、お前を危険から守ってやるって言っているんだよ』
「……君が?」
『おう』
蛇は自分の温かい寝床確保を目的に提案をしているのだろうけれど、常に蛇を連れている自分を想像してゾッとした。僕自身は蛇が嫌いではないけれど、蛇は好かれる生き物ではない。どちらかと言うと、嫌悪される存在だ。
それにキリーが蛇を嫌いな場合だってある。
そうなったらこの家には住まわせてやれないし、かといって寒空の下、犬みたいに庭に放置するのはこいつにとってとても辛い仕打ちだろう。人間の僕だって寒空の下は辛かったのだから、服を着ない寒がりの蛇は死んでしまうかもしれない。
別にこいつが生きようが死のうがどうでも良いけど、さっき言っていたぱーせるたんぐ、とか言う話をもっと聞いて、僕のような奴についての知識が欲しい。
そのためにも、こいつを良い気分にさせて口を軽くしなくてはならないのだ。
「キリーに確認してみるよ」
『この家の女主人か?』
「何だ、知っているの?」
『まぁ、俺はお前に声かけたくて観察してたからな』
「悪趣味」
『俺だって生きるのに必死なんだよ、許してくれよ兄弟』
首をゆらりと揺らして、へこへこと頭を下げるような仕草をする蛇。随分と人間観察をしてきたようだ。
「ところで、その兄弟って何?」
『だって話が出来るんだぜ?異種族で。こりゃもう、知り合いとか友人よりもっと近い存在だろ?だから兄弟さ』
「……僕は蛇を兄弟に持った覚えはないよ。持つならペットだね」
『連れないこと言うなよ、兄弟』
蛇はケラケラと笑って、それから腹が減ったなぁ、と言った。
『なぁ、何か食べ物はないか?ずっと食べてないんだ』
「食べ物?二階に行ってみないと分からないなぁ」
『二階か、行ってみるか』
蛇はするりとベッドから出て、扉の下の隙間から廊下に出て行ってしまった。僕も廊下に出ると、階段も器用に下りている。
蛇って段差をものともしないで這い動けるのだから、不思議な生き物だ。
『お!兄弟!これくれよ!』
「どれ?」
蛇が食べたいと示したのは僕の夕食のお皿に乗っていたハムだった。いいよ、と応えて一枚渡すと口を大きく開けて、飲み込んでしまう。
「本当に丸呑みなんだ」
『ああ、やっぱり人間のご飯は美味しいな』
「他にも食べる?」
『良いのか?』
「いいよ、キリーは僕がお腹空いたって言ったら追加で作ってくれるし」
そのほうが、温かい食事を食べられるから僕としても嬉しいし。とは言わない。テーブルに置いたままで少し冷めた夕食を蛇に与えていると、蛇は今度はアレを飲みたい、と言った。
見れば、茶色のビンに入っている飲み物らしき液体。
台所にあるものだけれど、キリーが飲んでいるところを見たことがない。これは飲み物なのだろうか?
「いいけど、飲み物か知らないよ?」
『あれは飲み物だよ、兄弟。酒って言うんだ』
「おさけ?へぇ、うちにもあったんだ」
お酒をキリーが飲むとは思って居なかったから、少し驚く。まぁ、キリーも大人だし、お酒くらい少しは飲むもかもしれない。僕の前で飲まないのは、僕が興味を持っては困るからなのかな。
そんな事に注意をしなくたって、子供の僕がお酒を飲みたいというわけがないのに。馬鹿なキリー。
「蛇ってお酒飲んで平気なの?」
『心配要らないさ。俺はお酒が好きなんだ』
「なら良いけど」
踏み台を使って、お酒の入った茶色のビンを取る。その中身はほとんど飲まれていないのだろう、蓋は空いているけれど中身はまったく減っていない。
「お皿に入れれば良い?」
蛇は嬉しそうに頷いて、僕は床にお皿を置いて茶色の液体を注ぐ。お酒特有の臭いにウッとなって、すぐに立ち上がる。
『ありがとうよ、兄弟』
顔をお酒に浸すような状態で、舌で舐めとるというよりも沈んで口の中いっぱいに含むような飲み方をしている。犬猫のように飲むと思っていたのだけれど……これならコップに入れてあげればよかった。
「そんなのが美味しいんだ」
『俺達にとっては極楽なんだよ』
「蛇のくせに」
『蛇だって酒が好きなのさ』
僕はお酒なんて臭いからして美味しそうだと思わないし、飲んでいる大人も嫌いだ。もしかしたらこのお酒大好きな蛇は僕の嫌いなタイプなのかもしれないと思う。
けれど、酔わせて口が軽くなって僕の体質とかそういうのに関する情報が聞き出せるなら、それに越したことはない。キリーはお酒飲んでいないだろうし、この家にお酒があるのも不愉快だ。蛇にどんどん飲ませてしまおう。
「まだいるだろ?」
『ありがとうよぉ、兄弟』
へらへらとした声に、早速酔ってきているのだと気付く。
そんなにこのお酒は強いというものなのだろうか?それとも、やっぱり蛇にお酒は駄目だったのかな?死なれるのは気分が悪いけど、好きなものを好きなだけ飲んで死ぬのはこいつの勝手だから罪悪感はない。
「ぱーせるたんぐ、だっけ?それって持っている人は多いの?」
『いいや、兄弟。実際はとても少ないんだぜ。それこそ、こんな何も出来ない人間たちの中では、国に一人いるか二人いるか、ってところだろうよ』
「何も出来ない人間?」
『おいおいおい、兄弟。気付いてんだろう?自分が普通の人間と違う、不思議な力を持ってるってことぐらいにはよ』
「……」
相手は蛇だから、言っても良いのだろうか。けれどこいつはパーセルタング持ちの人間を数名知っていて、そいつに僕の情報を与えるかもしれない。蛇だからと言って言葉が通じる存在ならば、そして知能を持っている奴ならば注意すべきだ。
「不思議な力なんて知らないね。僕が他の奴らと違うのは蛇と話せるくらいだよ」
知らんふりをすれば、蛇はカラカラと笑いながらぐねぐねと動いて僕に這い寄ってくる。気持ち悪いったらない。
『本当は魔法ってやつが使えるんだろう?』
「僕には君が言う魔法っていうのが何を示すのか分からないね。君は何を持って魔法だというの?」
『そんなのは簡単さ。人と違うことが出来るって事さ。兄弟は人の物を奪えるし、物を浮かすことだって出来るんだろう?』
見てきたような言葉に、返答に詰まる。僕が孤児院に居た時からこいつは、もしくは蛇たちは僕を監視していたのだ。
なんて嫌な存在だ。でも、僕が僕のことを知るためには必要な存在でもある。
ここは嫌いだからと切り捨てるのではなくて、情報を得ないと何のために家に招き入れて、キリーが作った料理まで与えて、お酒まで飲ませたのか分からない。
「それを……」
階下でガチャ、と言う音。時計を見れば、キリーが帰ってくる時間だった。
いったんこの話は終わりだ。キリーは僕が魔法使いだということも、蛇と話しが出来ることも知らない。どうやって蛇を家に招き入れて、ペットにしたいというのを納得してもらおうかな。
話が出来ると言えたら楽なのに。
「此処に居てよ」
『分かっているさ、兄弟』
蛇は相変わらず酔っているようで、ケタケタと笑いながら尻尾を振って僕に行ってこいという合図を出してきた。
いつも通りに見えるように、廊下に出て一階の玄関を見る。普段と同じ格好でキリーが帰宅していて、僕を見上げてただいまの言葉。
「おかえり」
「今日も良い子にしていたかな?」
「ああ、まぁ、うん」
少し言い淀めば、キリーはすぐさま二階の踊り場にやってきて、僕の顔をまっすぐに見てきた。本当にキリーは僕の事になるとあっさりと騙される。こんな簡単な僕の演技ですら見抜けないなんて、馬鹿だね、キリー。
「どうしたの?何があった?」
「ねぇキリー。キリーは爬虫類って平気?」
僕の問いにキリーはぱちりと瞬きをする。珍しくポカンとした表情だ。
「……平気、だけど?」
「じゃぁ、リビングに入っても驚かないでね?」
「うん?」
キリーは分からないという表情のまま、僕に手を引かれてリビングに入る。
そして僕が指差した先を見たキリーの表情は明らかに驚いたものに変わって、すぐに僕と蛇の間に立って僕を守る姿勢をとった。
「トム、噛まれてない?」
「噛まれてないよ。凄く穏やかな奴なんだ」
「穏やかって……」
キリーはジッと蛇を見て、それから眉間に皺を寄せる。
「トム、コレは何?」
「蛇」
「……どうして此処にコレが?」
驚きはなりを静めたのか、とても落ち着いた声だ。キリーであっても家に蛇が居ればもっと驚くと期待していたのに、残念に思う。
「窓辺で寒そうにしていたから入れてあげたんだよ」
「そう……トムは優しいね」
決して蛇から目を離さずに、キリーは僕の頭をいつもの優しい撫で方ではなく、少し優しさが欠けたような手つきで撫でてくる。
そこまでして撫でなくたっていいのに。
「でもトム、私はちょっと、関心は出来ないなぁ。知らないものを招き入れるのは、危険だよ?」
「危険って、ただの蛇じゃないか」
『そうだぜ、俺はただの蛇なんだ、なぁ兄弟』
蛇が相変わらず上機嫌に話す。
煩いな、お前と話が出来ているって言ったところで信じてもらえないんだから、ちょっと黙っていてよ。じゃないと、僕が独り言を言っているようになってしまうじゃないか。
「随分と上機嫌なようだね」
「よく分かったね、お酒を飲みたそうにしてたから、あげたんだよ」
「お酒?」
「うん。駄目だった?」
もしかしたらとっても高級なお酒で、キリーもたまにしか飲まないものだったのかもしれない。そうだとしたら、申し訳ないことをした。
お酒なんて飲まないで欲しいから、もっとあげておけばよかったとも思うけれど。
「あれは来客用で買ったものだからね、まったく困らないよ。でも、よくお酒が欲しいって分かったね」
「……それは」
なんて言おう。蛇が欲しがっているのが分かった理由。
「駄目だぜ兄弟、話しちゃぁ」
蛇は笑いながら言う。黙っていろよ。お前に話しかけられると、僕は見えない誰かに話しかけられているようになるんだ。
「随分と煩いね、アレは」
「酔っぱらっているんだよ」
「そうだろうね」
キリーはじっと蛇を眺めて、それからおもむろに近づいた。
ちょっと、僕には危険だと言いながら近づくの?丸腰で?
「トム、コレをどうしたかったの?」
「えっと、ペットにしたかった、かな」
「コレを?」
「そりゃあ蛇だけど」
「蛇……ね」
キリーは蛇に近づく。
「お、おい兄弟。こいつ大丈夫か?素手で蛇を触ろうとしてるぞ?」
「キリー、危ないよ」
「大丈夫、何も問題はないよ」
キリーはしゃがむと蛇が逃げるより前に蛇の頭としっぽを掴んで、蛇に噛まれないように、そして絡みつかれないようにした。キリーは医者だから手術もしていていろんな状況に対応して生きてきたからかもしれないけれど、肝が据わりすぎだよ。
「トム、残念だけれど、コレは蛇ではないよ。蛇の姿を借りた何かだね」
「な、なに言ってやがる!」
「証拠に、ほら、人語を喋った」
「……人語?蛇語だろう?」
「でもさっき、何を言っている、と言ったよね?トムにも聞こえたでしょう?」
トムにも、ということはキリーにも蛇の言葉が聞き取れていたということ。
もしかしたら、キリーもパーセルタングの人間なのかもしれない。
だから蛇の言葉が理解できてしまって、過去に何度か蛇と話したことがあるから順応した僕とは違って、蛇が蛇ではないと思い込んだのかもしれない。
「キリーもパーセルタングなの?」
「ぱーせるたんぐ?」
蛇は暴れることもせずに硬直した様子だった。僕が話すと思わなかったのだろう。でも、同じパーセルタング持ちなら言ったって良いだろう?
「蛇と話せる能力だよ。僕はそれを持ってて、だから」
「そういうふうに、コレに言われたんだね」
キリーは冷ややかに蛇を見た。蛇は、蛇に睨まれた蛙のようにじっとしている。蛇なのに。
「蛇も何か喋りなよ。キリーもパーセルタング持ちだよ」
「残念ながら、トム、それは違うよ。コレは人間だ」
「……え?」
何を言っているのだろう、キリーは。
蛇の人間?そんなの居るはずがないじゃないか。
『兄弟、助けてくれよ』
「キリーも君の言葉を理解しているんだから、普通にしていれば良いじゃない」
『そうじゃないんだ、兄弟』
「トム、コレは何て言っているの?」
キリーも聞こえているはずなのに、問うてくる。何だって言うのさ。茶番なら僕がいないところでやってよね。
「キリーだって分かっているんだろ?何で僕に聞くのさ」
「私はさっきの言葉は分かったけれど、今の言葉は分からなかったよ」
「……どういうこと?」
「私は人語しか分からないという事だよ」
キリーは蛇を持つ手に力を入れたのか、蛇がぐえっと潰されたヒキガエルのような声を上げる。
さすがに痛そうだよ。何てことをするのさ。
「トムを騙して、何をするつもりだった?」
冷ややかな声を蛇に投げかけるキリー。
意味が分からない。キリーはどうしてしまったのだろう?蛇をまるで犯罪者みたいに言うのだろう。蛇が本当は大嫌いで、おかしくなった?
「何もしねぇ!何もしねぇよ!」
「正直に吐いたほうがいい。今のお前なら私は首を絞めるのなんて容易いのだから」
「キリー!何をする気だよ!」
まさか殺すの?蛇を?そんな目覚めが悪いことやめてよ!
思わず体が動いて、キリーに体当たりする。
キリーはすぐに蛇を離して僕を抱きとめて、蛇はそのうちに逃げるかと思ったら、逃げずに黒い煙をまき散らした。
何?撒き散らすなら毒ではないの?
煙の奥に見えたのは、煙のマントを羽織った成人男性。
まっすぐに僕を見て、すぐに姿を消してしまった。
「……え?」
「トム、怪我はない?」
尻もちをついたキリーに覆いかぶさる僕を、キリーは優しく撫でてくれる。
その手つきも、表情も、口調も全部僕が知っているキリーだ。さっきのとはまるで違う。
「キリー、今の見た?」
「見たよ」
「蛇が男になった」
「そうだね」
「なんで?」
「世の中には知らない不思議がいっぱいあるってことだよ」
あっさりとそう言って、それからさっきの変な奴を触った手で頭を撫でてしまってごめんね、と謝ってくる。
「多分外を自由に這い回っていたから汚いと思うんだよね……お風呂でちゃんと髪の毛を洗おうね」
「そんなことより、蛇が人間になったんだよ!?何でキリーは冷静なの!?」
「どうしてって。そういう生き物がいる世界もあるのだと思うからかな」
「ファンタジーにも程があるよ!医者の癖に、非現実的なことを認めちゃうなんて」
なんであんなありえない存在をすんなり認めるのさ。
信じられない。不思議な力がある僕ですら驚いているのに、何もないキリーがこんなに平然としているのが信じられない。
「ところでトム、あの蛇男に変なことはされていない?」
「夕食のハムと、お酒を上げただけだよ」
キリーは夕食の皿を見て、じゃあ何も食べていないんだね、と言った。
「せっかく早く帰られたのだし、夕食作るよ。温かいのを食べたほうが良いからね」
「これはどうするの?」
「さっき蛇男が黒い煙を発生させていたからね、料理にどんな影響があるか分からないから作り直すよ。勿体ないなんて思っては駄目だよ?」
普通、勿体ないと思うだろうに、キリーにはその普通が通用しない。キリーは料理に関しては、まったく勿体ないと思わないみたいですぐに捨ててしまうのだ。
「あ、夕食の前に、トム」
「何?」
「動物に変身してくる人間もいるから、もし何かを家に招き入れたいなら、まず私に教えてね」
「キリーだって見分けられないだろ?というかさっきはどうやって見分けたの?」
「普通に人語を話したからね」
途中、蛇が人語を話したのだという。
「トムは蛇の言葉が分かるようだからずっと普通に聞き取れてしまっていて気付かなかったのだろうけれど、私は人語しか分からないからね」
そう言って、僕が蛇の言葉が分かると言った言葉を鵜呑みにしたキリーは洗面台で手を洗ったあと、台所に立つ。
キリーはどんなに非現実的なことであっても、僕が言うことや、自分が見たものをすんなりと受け入れてしまうのだと、思い知らされた。
***
紅様へ
この度はご参加いただき誠にありがとうございます!
リクエストにありましたのは「動物を拾ってくる話」でしたが、動物が自分から寄ってきたうえに実は変身術で蛇になった人間だった、というオチで大変申し訳ございません。
トム視点で、まだキリーが死神だと分かっていない状態のため、上のような小説になりました。
以下、小説の端々に合った内容を説明します。
1. キリー がすぐに蛇をおかしいと思った理由
見えている寿命が蛇のものにしては明らかに長かった、また人の寿命の蝋燭が見えたからです。
2.あっさりと蛇男を受け入れた理由
自分のような生き物がいるのだから、こんなのが居ても不思議ではないと考えています。
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