ハリポタ 人を愛した死神 | ナノ
act.34 生存戦略
いつもならばキリーを待っている間は勉強をしたり、面談の世界を空想して練習してみたり、おやつや夕食を食べたりして過ごす時間だ。
今日であれば、本当は家庭教師が来て、最初に勉強をした後、キリーが帰宅したら一緒に面接練習をする予定だった。それが、家庭教師が予定の時間に来なくて、代わりに強盗が三人。
先生は無事なのだろうか?彼はなかなか教えるのが上手だったから、失うには惜しい人材だ。
この強盗達が先生からこの家に行く時間、ノックのリズムを聞いてきたのは確実だから、生きているかは怪しい。こういう奴等は、先生のような身なりも良く泥水を啜った事などないという人へ当てつけのように過剰に暴力をふるう傾向があるから、もしかしたらもう死んでいるかも。
さて、僕はどうやって生き延びよう。
話を聞く限り【紅い瞳のトム】を探しているのは明白だ。
今の僕の瞳はアーモンド色にしているから、強盗達は僕をトムだとは思っていない。
それでも生かされているのは、武器を持っていないからかもしれない。だって僕を拉致する予定だったのだ。子供一人に大人三人いれば、武器なんて必要ないだろう。だとすると殺される場合は暴力か、溺死か、絞殺。
どれも最悪じゃないか。
今から僕がトムです、とでも言う?それはよろしくない。僕だと分かれば強盗達は僕を何処とも知れない場所へ連れて行ってしまうだろう。
それならば、せめてもの抵抗としてキリーが帰宅してくるのを待ったほうが良い。
キリーの事だ、異変に気付かずに悠長に二階に来てしまうかもしれない。でも一応キリーも大人なわけで、少しは抵抗できる……とは思えないな。どうしよう。
でもキリーが騒げば近隣に声は聞こえるだろう。そうすれば、近隣が何事かと家に来るかもしれない。そうなったら僕が拉致されることはない……かもしれない。近隣が動くより強盗の動きが早ければ、僕は助からないだろう。
運にかけるなんて、不確定で不安要素ばかりだ。自分でどうにか出来ないだろうか。
魔法を使えば体を拘束するこの紐くらいは解けられる。でも、紐を解いたとして、その先は?
大人の男三人に子供の僕一人だ。走ってもすぐに捕まるのは目に見えている。
キリーが帰ってきたタイミングで紐を緩めて、キリーに男達の意識が集中している時に逃げる?
頭の中で色々とシミュレーションをしても、安全なルートは見つからない。
キリーを盾にすればどうにかなるかもしれないけれど、僕は部屋の奥に転がされているわけで、扉から入ってくるキリーを盾にできるような距離ではない。
いっそヒーローみたいに窓から入ってきてくれれば、僕は助かるのに。
溜息をはくと、口を開けっぱなしのせいで唾液が少し漏れる。口に噛まされているタオルも濡れて不快だ。
キリーが帰ってくるまで後もう少しなのに、時計が全く進まない。
「おい大丈夫か、坊主」
細身の男が床に転がっている僕を起こして、床に寝てたら痛いだろ、と言う。
じゃあ床に転がすなよ。と言いたいが言えず、睨めば反抗的だと思われるだろうと、怖がるように目を伏せれば男は溜息をついた。
「巻き込まれちまって、同情するよ。本当に。お前は何も関係ないのにな」
「おい、ガキに構うな」
「でもよ、こいつ俺たちに捕まってから水分も取ってないんだぜ?なぁ坊主、喉は乾かないか?」
首を振れば、そうか、と返される。
「お前の友達が帰ってきたら、お前が何も話さないと約束すれば、俺たちはお前を殺したりしない。約束する」
そんな約束したところで、人の口に戸は立てられないのだ。この細身の男は本気で言っているようだけれども、奥にいる中肉中背の男は冷えた目をしてこちらをただ眺めている。
確実に僕を殺すつもりだ。
でも、それならどうしてさっさと殺さない?
今殺して揉め事を起こしたくないから最後に殺すつもりか?この細身の男がいるから僕の命は長らえているのか。
ガチャ、と聞きなれた帰宅の音が鳴ると、男たちの纏う空気が一斉にピリリと殺気立った。
細身の男は僕の口が塞がれているのを理解しているのに、シーと人差し指意を口の前に持っていく。
「トムー、ただいま」
いつもの声音。返事がないことに異変を感じているだろうか。それとも、気付かない?
「あれ?寝ているの?」
返事がないのをそんな簡単な理由だと思わないでくれ。僕がこの時間に寝るわけがないだろう。何よりリビングの電気がついているじゃないか。
ギ、ギ、と階段が軋む音を奏でる。いつもなら一階の部屋に荷物を置いてくるのに、何で素通りなんだよ。部屋を見なよ。部屋が物色されてるって、気付かないの?
「ただい……」
「動くな」
キリーに期待した僕が馬鹿だったよ。
普通に二階のリビングに入ってきやがった。
キリーはちらっと僕を見た後、強盗達に目を向ける。
「金品をお求めですか?」
「それもあったら嬉しいが、俺たちはあんたが養子にしている子が欲しくてね」
「……?」
キリーは再度僕を見る。そして、目が合った。僕の瞳の色が違うことに気付いただろうか?一瞬訝しげな顔をしてから、目線を強盗に戻した。
「トムをどうするおつもりで?」
「やんごとない方が欲しがっているのさ」
「ルビーの瞳が綺麗だからですか?」
「さぁ?俺たちゃ金貰って言われたことをするだけだ。何で欲しがっているかまでは知らねぇな」
「金で動くのならば、話は早いです。いくら貰いました?」
「は?」
「私はその倍払いましょう。紙幣で払ったら足がつくというならば、黄金を差し上げます」
「おいおいおい、ただの医者にそんな金あるわけねぇだろう。ふざけるのも大概にしてくれよ」
「一階のソファの下に、床下倉庫があります。どうぞ、そこを確認してください」
パスワードも口にするキリー。その言葉にリーダー格の男が持つ銃が揺れた。
「……おい」
リーダーが、僕の近くに居た細身の男に確認してこいと顎で指示を出す。
細身の男はキリーの隣を抜けて、一階へと駆け下りて行った。
「ソファがいくつかあるぞ!どれだ」
「一番大きいやつです。あれは重いので、二人がかりで動かさないと無理だと思いますよ」
「お前細いんだから下に潜り込めるだろうが!」
「無理だよ。足が短いソファなんだ!」
リーダー格の男と一階の男が声を交わす。一階の男の情けない声に呆れたのか、リーダーは腰につけていた鞄から何かを出して、キリーに突き付けた。
銃だ。
何で銃なんて持っているんだよ。
銃を持っているなら先に教えてよ。飛び道具を持っているなんて知っていたら、悠長にキリーの帰りを待ったりしなかったのに。
「動くなよ」
「動きませんよ」
「おい、行って手伝ってやれ」
「ッス」
小さな声を出して、大柄な男は扉に近づく。
キリーがちらりとリーダーを見ると、リーダーは銃口を向けた手を少し振って、横にずれろと合図をした。
キリーが塞いでいた扉から大柄な男は階段を下りていく。
部屋には縄に縛られたままの僕と、僕に背を向けてキリーに銃を向ける男と、銃を向けられているキリーがいる。
逃げるなら、今しかないかもしれない。
階段を降り切った音がして、今だと縄を解く。立ち上がろうとしたらカタっと音がして、驚いて足元を見ると木の棒が置かれていた。
僕が動いたら音が鳴るように仕掛けられていたのか。しまった。
慌てて男のほうに目を向けると、男と目が合った。
銃口がこっちに移動するのと、キリーが僕の名前を叫ぶのは同時だった。
大きな破裂音が、耳をつんざいた。
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