ハリポタ 人を愛した死神 | ナノ
act.33 侵略
午後になって雨が降ってきた。
キリーの鞄が雨の日用の大きなものに変わっていたから降るのかな?と思ってはいたけれども、本当に降るのか。
あいつ、天気を予測する機能でもついているのかな。
勉強をして、用意されていたおやつを食べて、少し休んで、としているとあっという間に夕方になってしまった。しけった紙にペンを走らせるのは得意ではなくて、どうしてもペンを置く頻度が増えてしまう。
以前、キリーからお金を受け取って、初めて自分で買った小さな手鏡を引き出しから出す。
キリーにいくらと聞かれたとき、鏡の相場なんて分からなくて口籠ってしまったけれども、大目に渡されたのだろう紙幣を使って自力で買えたものだ。
小さな鏡の中には紅い瞳の自分が居て、ふうと息を吐く。
目を閉じて、また目を開ける。
そこにはアーモンド色の瞳の僕が存在した。
キリーには内緒の僕の生きる術。瞳の色で怖がられるならば、瞳の色をこの秘密の力で変えてしまえと思ったのだ。生活圏が変わる今が絶好のタイミングだと思った。
手鏡があればどこでも自分の瞳の色を確認できるから、この秘密の力を練習できた。キリーが仕事に行っている日、一日中練習をして瞳の色を変えては戻してを繰り返していたら、さすがに疲れてその日はクタクタになってしまった。
クタクタにはなったけど、瞳の色を意思で変えられるようになった。
キリーの前では紅い瞳のまま、外ではアーモンド色に変えている。外でキリーと対面している時は紅に戻したりアーモンド色にしたりとややこしくなるけれども、それも熟練度を上げるための練習の場だと思ってやってきた。
それにキリーはどこか抜けていて、少しミスしても僕の瞳の色の変化に気付いていなかった。おかげで、昨日だって先生と話しているところに来たキリーは瞳の色の変化に気付きもしなかった。きっとキリーにとって、僕の瞳の色はとるに足らないことなのだろう。ほんの少し前髪を切っても気付かれないのと同じくらいの出来事なのかもしれない。
手鏡を引き出しに戻して、少し目を擦る。昨日は先生が長くいたから長時間秘密の力を使って瞳の色を変えていたから、少し疲れてしまったのかもしれない。
でも、学校に行き始めたら瞳の色を変える時間のほうが圧倒的に長いのだ。家にいる時間は朝と、帰宅後、寝ている時間。日中の活動時間はほとんど色を変えている状態になる。
「早く慣れないと」
はぁ、と勝手に漏れてしまう溜め息。
そろそろ先生も来る時間だ。今日は夕方に来て、キリーの書いた内容を確認して、キリーが帰ってくるまで勉強して、帰ってきたらキリーの作った内容で面接練習だ。
進まない課題のページを少しでも進めようと机に向かう。
しけた紙にペン先が引っかかって、文字がぐにゃりと曲がった。
コン、コンコン、コン、と先生とのルールを約束したノックオンが家に響く。防犯を考えてノック音を決めたのだ。のぞき穴は大人の背丈の位置だから僕は外の人を確認できない。だから、この音の時は玄関を開けていい。他の音の時は居留守をする。
一階に降りて、玄関の鍵を開けた。
「先生、いらっしゃ……」
上に向けた瞳に映ったのは、見たこともない男たちだった。
いけない、と思った時には相手の足がおなかを蹴り上げてくる。シスターから受けた痛みとはまるで違う。足が宙に浮いて、ずっと奥にあるはずの壁に背中がぶつかった。
肺から全部の空気が抜けたみたいに息が出来ない。何が起きた?なんで?
「おい、殺すなよ」
「命があって、欠損が無ければ良いんだろ?」
「顔は傷付けるなよ」
ばたん、と玄関扉が閉じた音がして、合わせてカチャリと鍵がかかる音。
男三人が僕を見下げてにやりと笑った。
「っ!」
髪を掴まれて持ち上げられる。睨みつければ、男は表情を変えた。
「おい、こいつ目が赤くないぞ」
「は?」
「家はあってるはずだぞ」
男たちが僕の頬を掴んで、瞳を覗き込んでくる。汚い顔を僕に近づけるな、と言いたいが、顎骨を固定されていてろくに喋れない。
「小僧、トム・リドルか?」
こいつ達は僕を探しているのか?僕の瞳の色を知っていて、それを頼りに僕を探していた?
今の僕はアーモンド色だ。だから男たちは戸惑いを見せている。
相手の顎を掴む手を叩いて、喋れないと訴えれば床に落とされた。
打った尻が痛い。
「僕は……」
さて、なんて答えればいいだろう?どうすればこの窮地から抜け出せる?
「僕は、トム君ではないです。彼は遊びに出かけていて、その間僕が家でトム君のふりをしているんです」
これで逃げられるとは思わないけれども、瞳の色が違うという時点で普通の人間は僕がトムだとは思わないだろう。トムでなければここから先こいつらは動きようがない。でも、トムじゃないなら僕を殺そう、と言う流れになるかもしれない。
「じゃぁトムが帰ってくるまで待つか」
中背の男が僕の前に座り込んで、にっこりと人当たりのいい笑みを向ける。こんな状況でなければ友好的に受け取れなくもないのだが、今そんな笑顔を向けられても恐怖しかないよ。
「なぁ君、トムはいつごろ帰ってくる?」
「18時より前には……」
「どうやって帰ってくるんだい?玄関の鍵は持っているのかな?」
「持っています」
男はニッと笑って、僕に興味がなくなったようですっと立ち上がるとこちらに背を向けた。
「とりあえずこいつ縛っとけ。騒がれたら困るから口も塞いどけよ」
「分かったよ」
一番下っ端なのだろう男が縄で僕を縛り、口にタオルを噛ませてくる。
冗談だろう?ずっと口を開けておけっていうの?
男は僕を廊下に置いたまま、一階を物色し始める。客間兼キリーの寝室だ。
「へぇ、いい暮らししているな」
男は金目になる物を見つけたのか、引き出しから出したものをポケットに入れていた。
一階の物色が終わると、僕は担がれて、二階へ連れていかれた。
冷蔵庫の中を見て、勝手に飲食を始める男三人を床に座らされたまま、よく観察する。
顔は似ていないから血縁関係ではないだろう。食事の癖もバラバラだから、昔から一緒に過ごしてきた関係でもなさそうだ。
一人は大柄な男だ。最初に僕を蹴ったのはこいつだろう。
もう一人は中肉中背で人当たりよさそうな顔をしているが、先ほど細身の男に指示を出していたのを考えるとこのチームのリーダー的存在なのかもしれない。
最後の一人は細身の男で、三人中では一番食べ方は綺麗だけれども、キョロキョロと落ち着きがない。強盗のようなことをしているのに、小心者のようだ。だから中肉中背の男に指示を出されて、僕を縛り上げたのだろう。
18時まで時間がまだある。
その間にこいつらの気が変わって殺されることだけはどうにか避けたい。
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