ハリポタ 人を愛した死神 | ナノ
act.25 面接練習
面接の練習をするには、リビングは生活に慣れすぎていて気を抜く場所になっているし、トムの部屋はトムにとって寝る場所になっている。
では何処なら雰囲気を変えて気を引き締めることが出来るのかと考えた結果、消去法で一階にある客間兼私の寝室を使う事にした。
模擬の面接をするならば、オフィスチェアのようなものが良いのだろうけれど、生憎この部屋にはソファしかないし、テーブルと椅子はダイニングのものしかない。
流石に毎日飲食をしている場所で面接練習をしても気分が乗らないだろうから、この部屋のソファとローテーブルを使うしかないだろう。
「キリーの部屋でやるの?」
「そう、元は客間だけどね」
リビングのソファでくつろいでいたトムに声をかけると、少し思案するように視線を外して、そう、と呟いた。一応、掛け布団や毛布、仕事の書類等は隠して生活感は消したつもりだけれども、他人の寝室で面接練習というのは嫌なのだろうか。
客間を見せたことはなかったから、三階のトムの部屋を想像しているのかもしれない。それならば目線を彷徨わせるのも分かる。
「まだ一階を見せた事は無かったから、想像がし難いでしょう。まずは見てごらん」
二階、三階は生活重視で壁紙もシンプルにしているし、家具も機能性重視だ。対して一階は壁紙も家具も煌びやかにしているから、少しは気の持ちようも変わるだろう。
私の足音の後に続く小さな足音を聞きながら階段を降りて、部屋の扉の前で足を止める。
「トム・マールヴォロ・リドル君。どうぞお入りください」
「え?急にどうしたの」
ドアノブに手を添えて、トムにそれらしい口調で声をかければ、キョトンとした顔が見上げてきた。前髪を切る以前であったら、きっと目が隠れていただろうなと、紅い瞳を見て思う。
「どうしたのって、一応それらしく招き入れてみようかなと。変だった?」
「何だ、そういうこと。もう面接練習を始めてるのかと思った」
「まだトムに入室の礼儀も、座り方も、退出方法も教えていないからね、そんな事はしないよ」
ドアノブを回して中に入るように促せば、トムは中をキョロキョロと見回した。
「……毛布とかは無いの?」
「面接する部屋だからね、隠したよ」
「キリーは何処で寝てるの?」
「それを教えたらこの部屋が一気に私の寝室だと言う認識に変わってしまうから秘密。今は面接用の部屋だと思ってこの空間を見てね」
「そう」
溜め息というよりも安心で息を吐き出したような雰囲気に、何に安堵したのかと首を傾げてしまいそうになる。この子は何を考え、何に杞憂していたのか。
ここにベッドがないことが不思議だったのだろうか?しかしそれが安堵の溜め息に繋がるとは思えない。
ああそうか、ベッドのある部屋での面接練習ではないと分かって安心したのかもしれない。流石にベッドがある部屋での面接練習は違和感になるだろう。それならば、理解出来る。
「さて、トム、少し練習をしてみよう。私が面接相手だと思ってやってみるよ」
「うん」
「じゃあ、此処に腰掛けて」
1人掛けのソファを指定すれば、そこにちょこんと座るトム。大人用のソファだから、まるで玉座に座る小さなプリンスのようだ。
私は私で雰囲気を少し変えようと眼鏡をかけて、対面するソファに腰掛ける。
「まずはお名前をどうぞ」
「トム・マールヴォロ・リドルです」
背筋をピンと伸ばして、膝の上に両手を置いている姿はまさに面談、面接の最中といった様子で、教えなくても出来るのだなと感心する。もしくは、孤児院で教えられてきたのかもしれない。
「お年はいくつですか?」
「6歳です」
「ご趣味は何ですか?」
ありきたりな質問をすれば、トムが赤い瞳を細めて「ふふっ」と笑う。面接中に、まして質問に笑うなどあってはならない事だと教えなくとも分かるだろうに、それなのに笑ってしまうということは、それを超える何かがあったという事。
何かおかしかっただろうか?
「何で笑うの」
面接練習を中断して問えば、口調が普段に戻ったからか、トムも姿勢を少し崩して口元に手を持っていってクスクスと笑っている。これは、笑いが収まるまでは面接練習はできなさそうだ。
「だって、キリーが……ふふっ」
「私がどうしたの?」
「真面目な顔してるからおかしいなって」
今度はこちらが頭を抱えたくなる番だ。私が真面目な顔をしているのを笑うとは、随分と失礼な発言である。
「今は真面目なシーンなのだから、それに合わせて表情を作るのは普通でしょう?」
「でもキリー、いつも笑ってるか間抜けな顔をしてるじゃないか。そんな教師ですって感じの顔されても、笑っちゃうよ」
トムが屈託無く笑うのは珍しいので笑ってくれることに関しては大歓迎であるけれども、これは困ったな。私相手では面接練習をするのが難しそうだ。
来月から家庭教師をお願いすることにしていたけれど、明日からお願いしたほうがいいかもしれない。
「明日、家庭教師に来てもらおう」
「え!?なんで急に」
「だってトム、私相手では面接の練習にならないでしょう」
「キリーの顔を見て真面目にやるってのがそもそも無理なんだよ。いつもキリー、だらけてるじゃん」
「だらけているつもりは無いけれど、家の中で寛いでいることは多いね。私では笑ってしまって無理だけれども、知らない家庭教師相手なら面接練習もできるでしょう。ほら、トムにとっても私にとっても、家庭教師はプラスの存在になるわけだ」
「……僕は他人に入ってきて欲しくない」
膨れる頬に、可愛いなぁと思いつつ、ここで甘やかしても良い方向には進まないのだと己を律する。
「これからトムの人生には、他人がどんどん関わってくるんだよ。最初の取っ掛かりとして、雇った人間を使うのは良いと思うよ」
雇った者であれば、関係性に感情論は入りづらい。更に相手は大人なのだから、理性的に対応してくれる。まずは人間関係の構築練習に使うのも、やぶさかでは無いだろう。
「お互い頑張りましょう」
「決定事項なんだ」
「決定事項だよ」
今日は残りの時間は勉強を見るにとどめておこうか。
眼鏡を外してトムを見ると、トムはそのメガネはいつもかけていないけれど平気なの?と訊かれる。どうやら仕事の時にはかけていると解釈されたのかもしれない。
「これは伊達眼鏡だよ」
「だて?」
「眼鏡に度が……度って分かる?」
「分からない」
度数について説明して、視力は悪くないから度数のない、ただガラスがはめ込まれているだけのメガネなのだと伝えれば、そんな物をつけたいなんて変わってると言われる。そりゃあ、そう思うだろう。
しかし顔が老けない私には、こういったアイテムは必要なのだ。顔は変わらずともアイテム一つで雰囲気を変えれば、人は印象が上書きされるので変わっていないことに気付きにくくなる。おかげで、その場に少しでも長くとどまることが出来るようになるのだ。
「似合っているでしょう?」
「まぁ……変ではないね」
作ったのが随分と前なので、今の子の感覚では古くてダサくはないかと心配したけれど、どうやら杞憂だったようだ。トムは似合っていなかったらオブラートも無しに言ってくる子だろうから、これは着用しても問題ないと安心して良い。
「トムの面接の時にはつけていたほうが良いと思う?つけてるほうが知的に見えるかな」
「ちてき?」
「賢そうに見えるってこと」
トムは私をじっと見て、いつものままで良いと言った。見た目である程度牽制するのも大切だと思うのだけれども、トムが言うのならば、面接の時は普段どおりで行こう。
「さて、トム、リビングに戻ろうか。今日は算数を勉強しよう」
「え〜?今日はスーツを買ったじゃないか。僕は疲れたよ」
「入学試験の日までそんなに無いからね、少しだけでもやっておこう。毎日の積み重ねが大事なんだよ」
ココアを入れてあげるから、と食べ物で釣れば、トムは仕方ないと言いつつソファから立ち上がって部屋から出て行った。階段を上がる音の後に、早く来いと急かされる。
面接用の空間から出て、足早に階段をあがった。
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