ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
友愛 60000hit企画
それは窓側が空席となる季節のこと。
まだ三年生のナチ・サハラとトム・マールヴォロ・リドルは類に漏れず、廊下側の席に腰掛けていた。
「あっつーいー」
と愚痴を零すのはナチ。
ネクタイを緩め、第一ボタンを外してどうにか通気性を良くしていた。
しかし今日は風が無い。
開いた窓のカーテンは、時折裾がひらひら揺れるくらいだ。
「暑いって言うなよ。こっちまで暑くなる」
教科書で扇ぐリドルも、やはり暑さのせいか気怠げだ。
しかし周りの生徒も同じである。
机に融けるように張り付いている者がいれば、逆に反り返っている者もいる。
どうにか涼を求めているのだ。
ナチが窓の外を見る。
突き刺すような陽射しだからだろう、外には誰もいなかった。
友愛
授業を終えて、教室を出た生徒達はすぐに次の教室へと向かう。
吹き抜けになった廊下は、二階を歩いている人が顔を出せば会話が可能になっていて、数名の女子は少し大きな声で会話している。
ナチとリドルとその友人達は、次の教室が遠いのだろう、早く早くと言って、駆けながら教室を目指していた。
「ナチもリドルもはえーよ!」
「早くしなくちゃ遅刻だからね!」
「あの先生で遅刻はごめんだよ」
友人より数歩先に出たナチとリドルに友人が悪態を吐けば、ナチは振り返って笑いながら返事をして、リドルは振り返らずにナチの発言に付属させる返事をした。
「あっちー」
友人がぼやいて、ナチは後ろを振り返りながら笑う。
全力疾走している今足を止まれば、汗は滝のように流れ出るだろう。
だから立ち止まれない。そんな雰囲気の中、それは突然起きた。
バシャ、という音と一緒に、廊下に水が降ってきたのだ。
それは見事にリドルの頭から足までを濡らし、リドルを濡れ鼠にした。
流石にリドルは歩みを止める。
そしてリドルの友人のみならず、周囲の人間も歩みを止めた。
「涼しくなったかー?」
上からかかるのはスリザリン寮の五年生の男三人。
リドルの肩がふるりと震えた。
それが怒りなのか、恐怖なのか、屈辱なのか、寒さなのか、分からない。
ただ分かることは、濡れた教科書を握った指先が力み過ぎて真っ白になった事だけだ。
「アクシオ!」
ナチが隣で魔法を唱える。
ガラスが割れる音がして、表れたのは箒だった。
「ナチ、やめろ」
ナチは箒を手に取り、ナチが動こうとした時、それを止めたのはリドルだった。
「っ悔しくないのかよ!」
ナチが声を荒げると、リドルは自分の教科書をナチに押しつけて、代わりに箒を奪った。
「僕がやる」
「え、ちょ、リドル!」
ナチの制止虚しく、リドルはナチの箒に乗って、二階に移動した。
ナチが一階から何か言ってもリドルには届かないらしく、リドルは二つ上の三人と魔法で争い始める。
すぐに来た教師が仲裁に入るまで、リドルは何度も立ち向かっていた。
「済みません」
保健室で、リドルは言葉だけの謝罪に演技を付けて、心底申し訳なさそうに謝った。
それは何に対しての謝罪かと問われれば、リドルは『授業に出られなかった事に対して』と言うだろう。
しかしリドルの心からの謝罪に、そんな辛辣な言葉を投げ掛ける者はいない。
次からは。と今後はこんな事が起きないようにという言葉を吐いて教師は去り、リドルは今日一日安静でいる事を言い渡された。
溜め息を吐いたリドルは、痛む体に鞭を打って寮まで戻ろうとして、図書室へ向かった。
寮には先ほど喧嘩をした年上がいる。
そう考えたリドルは、今は寮に戻りたくないのだ。
「くそっ、痛いな」
悪態を吐きながら、本も取らずに席に腰掛けて涼む。
図書室は紙を守る為に薄暗く、そして少し肌寒い。
リドルは机に腕を枕にするように頭を乗せると、魔法で乾かされた髪がさらさらと視界を覆った。
半分はマグルの血だからと、スリザリン内であまり良い評価を受けないのをリドル自身、よく知っている。
それによって、度々嫌がらせを受けていたのも事実だ。
けれどそれは入学当初だけで、リドルは持ち前の上っ面の良さから同学年の大半をまず味方につけて、年上は女を中心に懐柔させたからあまり嫌がらせは受けなくなっていた。
情に厚くて口が達者、更には固まって動く噂好きの女を味方につけると、男はリドルに手が出せなくなる。
誰だって自分の評価を下げたくないのだ。
特に、男女間で色恋ざたが持ち出される年齢になると尚更。
それを知っているリドルにとって、今回の事は予想外であり、また、怒りを我慢できる事でも無かった。
悔しい気持ちでいっぱいになりながら、目を閉じる。
次あいつ等にあったら、どうしてやろう。そんな事をあれこれと考えながら、リドルは暇な時間を持て余した。
その頃、ナチは外に居た。
そして、ナチの前には先ほどリドルと戦った上級生の三人。
彼等を包む空気は、夏真っ盛りで青々と茂った大地や木々とはあまりに対極的だった。
彼等には鳥の囀りも、虫の啼き声も届かない。
燦燦と降る陽射しだけが、大地と彼等に変わりなく降り注ぐだけだ。
「何の用だよ、サハラ」
ナチは壁に寄り掛かって座っている三人を立ったまま見下ろした。
「水かけたの、誰?」
「おいおい、サハラ」
男が一人立ち上がる。
今から成長期というナチと、成長期を終えつつある男とは背丈が違いすぎて、ナチは見上げる形になった。
「お前いつまであの薄汚い孤児で混血の味方する気だよ。お前も痛い目見るはめになるぞ。ん?」
「僕が聞いたのは誰が水をかけたかって事だけど」
「うっせぇんだよてめぇ!旧家で親父が魔法省の上官に就いてるからって良い気になんなよ!」
男が杖を取る。
ナチは元から杖を握っていたらしく、男に向けて魔法を放った。
男が吹き飛び、壁に背を強打するのと、左右を固めていた他の二人が立ち上がってナチに魔法を打つのは同じだった。
カマイタチに遭ったかのようにナチの身体に数多の切り傷が出来るが、ナチは気にする様子もなく立ち上がると、すぐに反撃に出た。
草の生い茂った大地に身体を横たえたナチに、杖が三本向けられていた。
「こいつ、殺してやる!」
鼻血を垂らした男が右腕をだらりと垂らして、吠えた。
しかし男が左手に持った杖の先は揺れ、男の疲労を教えていた。
それを見て、傷だらけで鼻血を垂らし、口内を切ったのか口からも血を流すナチは笑う。
呼吸をする度に血と土と草の匂いが肺をいっぱいにして、ナチはすべてを吐き出すつもりで口を開いた。
「出来るならやれば良いさ」
「この!」
煽られた男はナチの腹を蹴る。
すると他の男が激昂した男を一言で止めた。
ナチはリーダーだろう、制止を入れた男に笑う。
「お前の父親、魔法省の経理部の部長だったな」
「なっ!」
リーダーは表情を驚愕に変えた。
ナチはその変化に満足したというように、笑う。
「お前の父親は人事課の下っぱだ」
ナチを蹴った男は、ナチと目が合うと身体を強ばらせた。
もう一人も親を引き合いに出されて、身体を強ばらせる。
ナチは皮肉な笑みを浮かべたままだった。
「お前、親の権力に頼る気かよ」
ナチは声を出して笑う。
身体を横たえながら、口内に血を滲ませながら声高に笑う様は異様だった。
「お前達だって、血に頼って生きているじゃないか。僕はそれを更に有効利用するだけだ」
ナチは身体を起き上がらせて、男三人相手に笑う。
「次、やってみろ。その時どうなるかくらい、お前達にも分かるだろ?」
周りは口を閉ざした。
それは暗黙の了解。
「それじゃあ先輩、またね」
ナチはいつもの朗らかな笑みを浮かべると、傷だらけの身体を気にするでもなく、歩み出した。
角を曲がって誰も居ない道に入った時、その表情は泣きそうに歪んでいて、己の敗北を噛み締めているようだった。
ナチは人が居ない場所に辿り着くと、壁に背を預けてしゃがみこんだ。
「うっ……」
ナチにとって親は敵だった。
その親を頼った自分が、己自身が持つ力の小ささが、ナチは悔しいのだ。
しかしあの場で自分が相手を退け、勝つ方法が他にあっただろうか。
上級生三人と対等に戦い、相手を負傷させて、負けた。
他人ならば称賛するだろう、しかしナチはナチ自身が許せない。
ナチは悔しさと惨めさから、声を殺して泣いた。
回復魔法で可能な限り傷を癒したナチは寮に戻った。
時間も授業中という事があって、寮に人は居ない。
覗くように寮内を見たナチは、誰も居ない事に安堵の溜め息を吐いて自室へ向かう。
男子寮の階段を上っていると、前方から足音が聞こえてナチは驚愕した。
出来れば人に会いたくないのに、こういう時に限って人が来る。
ナチは小さく溜め息を吐いて、覚悟を決めたように階段を上った。
「ナチ?」
「……リドル」
ナチは驚くより、狼狽した。
出来れば一番会いたくない相手と会ってしまったのだから、仕方がない。
「どうしたの、その血」
「階段で転んじゃって」
リドルは眉間に皺を寄せた。
そしてナチに近づくと、ナチの手首を掴んで談話室に向かおうとする。
「リドル」
「階段から落ちたなら、マダムの所に行って治してもらいなよ」
「良いよ、対した傷じゃないし」
「どこが!」
ナチの腹部にリドルが触れると、ナチは少し眉根を寄せて唇を強く結んだ。
それは痛みに耐える人の表情。
「ほら、中も怪我してる」
「してない」
「痛いくせに」
「痛くない」
ナチは顔をそらして、口を結ぶ。
リドルはそんなナチに溜め息を吐いた。
するとナチは小さな迷子のように表情に不安の色をいっぱいにして、恐る恐るリドルを見る。
リドルは何を考えたのか、ナチに杖を向けていた。
「エピスキー」
そう言って、杖を優雅に動かす。
それは簡単な治癒魔法。
ナチはポカンとした表情のままリドルを見ると、リドルは怒っていますと主張する様に腰に手を当てていた。
「次転んだら、怒るから」
「え、転んだ上に追い打ち?」
「だから!転ぶなって事だよ!」
リドルが怒るものだから、ナチは分かった、と即答してしまった。
その返事にリドルはよし、と答えて、ナチの手首を掴み治して寮の奥へと向かう。
「リドル?」
「部屋に戻って休むんだろ?そんなのじゃ、周りが驚くし。とにかく上着は着替えなよ」
ナチは漸くリドルが言いたい事を理解したらしく、元気に頷いて笑った。
〜戯言〜
60000hitで頂いたリクエスト、『ナチがリドルを大好き』です。一月に頂いたリクエストを七月まで温存していて大変申し訳御座居ませんでした。
ご希望に添えていたら嬉しいです。
リクエスト、誠にありがとう御座いました!
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