ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
30万企画:過去を見て、今を見る
失敗したと思う頃には、引き際を見失っている事が多い。
僕らの時代
過去と未来と二人
僕の、いや、俺の下僕がヘマをしてナチを傷付けた。
あれほど手を出すなと言っていたのに!ナチの相手は俺だけだと、そう決めていたのに、何てことをしてくれるのか!
「お前は苦しみ悶えて死ね」
下僕の煩い口を塞いだ後に、拷問魔法を唱えてやればたちまち転げてのたうちまわる。それを無視して、切り傷ばかりで呼吸困難になっているナチに近付くけれど、此方を見る余裕もないようで地面に伏している。
「あんな弱い奴に……」
あんな下賤な奴にこんなに傷を付けられて、しかもあの馬鹿が撃った魔法で満足に呼吸が出来ない状態にまでなっている。
何で、あんな馬鹿にやられるんだ!
憎しみ交じりに蹴り上げれば、ナチの体は更に蹲って、まるで触れたら丸くなるダンゴムシみたいだ。
「ナチ、まさかこんなのでやられたなんて言わないよね?」
髪を掴んで頭を持ち上げれば、汗と血、それから砂埃で汚れた汚い面が見えた。その面は苦悶に満ちていて、こんな顔、俺が相手していた時は一度もしなかったくせに、と更に憎しみが増す。
「っ……あっ……リっ!」
リドル、と動きそうな口に腹が立って頬に拳をぶつければ、口の中でも切ったのか血を吐いている。髪を掴む手を離せば、抵抗もなく頭は地面に落ちた。
こんなに、こんなにも、弱い生き物だったのか、君は。
「何であんな魔法が避けられなかった?」
気道を狭めている魔法を解除してやれば、咳き込むナチ。
「答えろ」
地面に伏したままの肩を踏みつければ、バキ、と何かが折れた音がした。
あれ程自分と張り合い、渡り歩いてきたナチがこんなにも脆く惨めで無様な姿を晒すなんて、こんなことがあって良いのだろうか。
俺の魔法は避けるのに、あんな出来損ないが撃った魔法が当たるなんて、あっていいはずがない。
「リドっ」
顎を蹴り上げる。賢い君なら分かっているはずだ、ナチ。
惨めなガキの名前を呼ぼうとするたびに傷付き痛めつけられているのだから、そろそろ学んで真の名前を呼んだらどうだい?
「忘れのか?ヴォルデモート、だ」
「リドルだ」
口周りを血で汚して、地面に這いつくばっている蛆虫のようなナチから発せられる言葉はとても真摯で、見上げてくる瞳も媚びた色など何処にもなく突き刺すようなものだった。
見上げてきているくせにその目は挑発的で、口元が勝手に笑ってしまう。
「ナチ、君の心の強さはよく分かった。その強さの使いどころを間違えていて愚かだけれど、俺は君に敬意を持つよ」
「それはどうも。あまり嬉しくないけどね」
血を吐き捨てて、口元を拭うナチ。起き上がろうと腕に力を入れているのだろうけれど、もう起き上がる力も残っていないようで腕が震えている。
その片方の腕を蹴り飛ばすと、それは簡単に肩から外れた。片腕を失ったナチはまた地面に顔を打ち付ける。
「ナチ、君を殺す前に俺は知りたいことがあるんだ」
「そんなこと言われてベラベラと喋ると思ってるの?」
「思ってないさ。でも、答えてもらうよ」
髪を掴んで、顔を引き上げる。真正面に見える瞳は相も変わらず射抜くような鋭さを持っていて、それでこそのナチだと笑いそうになる。
でも君の弱点はもう把握済みなんだ。さぁ、見せておくれ。
「ねぇナチ、もう一度君の口で『リドル』と呼んで」
「え……?」
優しい声で囁けば瞳に現れる戸惑い。ああ、なんて簡単なのだろう。
君はまだ俺に淡い期待をしているんだね。
なんて愚かで憐れで悲しい存在なのだろう。
その揺らぎに向けて、開心術をかける。
ナチはすぐに策略だと気付いたようだけれど、もう遅い。
見える世界は、一変した。
『違う。ナチが殺してなかったら……僕が……』
随分と女々しいことを言う幼い自分が映し出される。そのそばにはやはり少し幼いナチが居て、俺の言葉を否定している。成る程、ナチがマートルを殺した場でのやり取りだ。
この頃の自分の愚かさが滑稽で、笑いたくなる。このあと一緒に年越しをする約束をしていたのに魔法で眠らされ、しかもナチは姿を消す。
随分と酷い裏切りをした上に、ご丁寧に手紙まで置いていったのだ。
女々しさに眩暈がしたし、直接言えないナチの弱さに失望した。
こんな弱い奴と肩を並べて笑い合っていた自分も嫌悪した。
マートル殺人現場から場所が移り、ナチと校長しかいない空間になる。
「本当に良いのかね?一年早く卒業で」
「良いんですよ、校長先生。僕が決めた道ですから」
校長室で繰り広げられる会話。拳を作ったナチの手に、マイクが潰されたあのシーンかと理解する。成る程、この頃からナチが飛び級卒業をするのは決まっていたのか。
本当に、上手く隠してくれたものだ。憎たらしいったらないね。
また景色が霧のように拡散して、今度は幼い自分とナチが言い争っているシーンになる。
「二度と君の計画の邪魔はしないよ!」
陳腐な捨て台詞を吐いて、過去の自分は部屋を出て行く。部屋の外はナチが見た景色ではないので見えないはずだが、俺の記憶で補正したのか、まるで蟻の巣の標本のように自分の部屋の状態まで見える。これは、ナチに「台無しだ」と言われた時の記憶だ。
嫌なものを見せてくる。この後ナチも「台無し」にされた事で苛立っていたのだろう。少し経って落ち着いてから俺の部屋まで来たけれど、それまでは物にでも当たっていたのだろうか?
観察していると、ナチは俯いて、深呼吸を数回繰り返している。悔しそうな顔でもしているのか?物に当たらないように耐える顔をしているのか?
人前では怒りの表情をあまり見せないナチだけれど、一人の時であれば顔に出ていることだろう。見てみるのもいいかもしれないと思って顔を覗き込めば、くしゃくしゃに顔を歪めていて思わず仰け反る。
こんな顔、初めて見た。どういう事だ?怒りを通り越して泣きそうになっているという事?そんなに心が追い込まれているという事か?
分からないままに見ていると、ナチは何を考えたのかハサミを引き出しから出して髪を切り、綺麗に包んだ。何の儀式なのだろう。
そして引き出しから日記帳とまったく同じ物を出して机に並べる。あの時、偽物を渡したと言っていたのはこういうことなのか。まさか同じ物を二冊持っているとは思わなかったよ。1つは魔法をかける時に失敗した物なのかもしれない。
またすぐに霧になってこの後はどこを見せてくれるのかと思って見ていると、ナチはまだそこにいて、景色もしっかりしている。
日記の偽物を用意するだけのこの時間が余程ナチにとって強い記憶のようだけれど、特別目立つイベントも無い。どういう事だろう。
今は無い右腕を撫でて、蜘蛛につけられた傷に巻いた包帯を外しにかかっている。
何をするのだろう。止血は済んだものの生肉が開いたままの傷口は空気に晒すものでもないだろうに。
食い入るように見ていると、本物の日記帳から煙が出て、それは人の顔の形になった。
何だ、これは。
ゴースト?でも、どうして俺の日記帳に?
驚いてナチを見ると、ナチは薄く笑みすら浮かべていて、意味が分からない。
日記帳にゴーストを閉じ込めていたのか?それが俺にしか反応しないカラクリなら、それはそれで頷ける。
けれどそれなら俺が持った時でも分かるはずだ。さすがに過去の俺であっても、そこまで愚鈍ではない。では、これは後天的に取り憑いたゴーストなのか?
傷が開いた状態の腕を煙に向かって掲げるナチと、その傷に吸い込まれていく煙。違う、意志を持った煙がナチの傷口目指して入り込んでいるのだ。
ナチは痛みでも感じているのか、額に汗を浮かべ荒い呼吸なのに、それでも口を笑みの形になっている。
「初めまして、サラザール」
響くナチの声に頭が追いつかなかった。
今、なんて言った?サラザール?
ナチは何を見ているんだ?サラザールは何処にも居ないじゃないか。
ナチは傷口を見ながら独り言にしては対話らしき言葉を口にする。
あの人の顔を成した煙が入った傷口と、それからのナチの言葉の関連について考えると、ゾッとした。まさか、そんな。
ナチの瞳は自分と同じ赤色になっていて、予想が事実なのだと訴えてくる。
今この瞬間、ナチの身体にサラザールが存在するのだ。
何でナチが狙われたのか、何で自分では無かったのか。どうして、ナチだったのか。
サラザールが最初にコンタクトを取ったのは間違いなくトム・リドルだった。パーセルタングのトム・リドル。サラザールの血を継ぐトム・リドル。やっと見つけたと、魂を塗り替えようとしてきたのに、何でナチなんだ。
傷があったから?それとも、もっと別の理由?
今もナチの身体にサラザールが居るのか?しかしサラザールの入った右腕は今は義手だ。
サラザールが居た右手が、義手だった。
景色が変わる。
僕をベッドに寝かせてナチは移動する。これは、最後の日だ。
あの日、ナチが何を思って僕を眠らせて、何をしたのかがやっと分かる。
ナチが長い回廊を抜けてやってきたのはマートルを殺した場所だ。小さく口を動かして発したのは蛇語だった。ナチはサラザールに身体を侵食されていて、瞳も、喉も、サラザールの特性を見せているのだ。
秘密の部屋の入り口である扉が開いて、そこに腕を突き出している。杖を腕の付け根、脇に当てている。
まさか、この場で
「見るな!」
「……っ!!」
ざあっと景色が崩れて、現実に引き戻される。
目の前にいるのは少し大人になったナチで、あ汗だくになった状態。
肩で息をして、それでも睨みつけてくる瞳は弱まることがない。
ああ、君はなんて愚かなのだろう。
俺は笑うのを止められなかった。
僕は胸が苦しくて、痛くて、胸元を握った。
「
嬉しいよ、ナチ。やっぱり君は特別だ」
俺とサラザールから求められる存在になっていたなんて、こんなに嬉しいことがあるだろうか?
俺だけではない、あのサラザールすらナチに一目置いたのだ。
ナチの身体に、ナチの心に直接干渉して、自分の中に取り込もうとした。ナチの身体だけではなく、魂まで手中に収めようとしたのだ。
「リドル……?」
「右手はサラザールへの供物としてやったのかい?」
「応える義理はない」
「ふふ、強がりだね。今もパーセルタングは使えるのかい?」
「それも、応える義理はない」
開心術で過去を見られたのが余程悔しかったのか、眼光鋭いナチは睨みをきかせている。
決して屈しはしないと全身で訴えているのだ。それに心が高揚するのを止められない。
愚かだね、それらが俺を、更にはサラザールを愉悦に浸らせるだけだとどうして分からないのだろう。
君が抗えば抗うほどに、快感が全身を駆け抜けていくのだ。
「サラザールは本当ならばすぐにでもナチの身体を奪えただろう。それをしなかったのはどうしてか、聡明な君なら分かるだろう?」
君とのゲームを楽しんでいたんだよ、ナチ。
君ならどうするか、どう対処していくか、きっと見届けてやってもいいと思ったのだろう。そんな考えになったのは、君の魂が強く、そして決して曇らないからだ。
簡単に殺さずに、こうやって追いかけっこを楽しんでいる俺と同じだ。
愚かなナチ。君はサラザールの血統の掌の中で永遠に踊り続けていたのさ。
でも、俺の掌で踊っていたナチを横から馬鹿が傷付けた。大事に大事に遊んでいたのに、横からヤジを入れられることになるなんてね。
「ねぇナチ、身体、痛いだろう?苦しいよね、さっき、肩の骨が砕けたよね?ああ違うかな?あの音は義手の結合部が壊れた音?」
「リドルに関係ないだろう」
「あるさ、君は俺の大事なものなのだから」
「そんな獣みたいな目を向けて言われても、真実味がないね」
どこまでもどこまでも、負けないと強い魂が抵抗している。
そうだ。それでいい。屈しない魂であればあるほどに俺は一緒にいてとても心地いいのだから、もっと抵抗してくれ。
俺のお気に入りはナチなのだ。
だからあのマヌケに傷付けられた身体なんて、サラザールに餞別として右腕を与えた結果不恰好な機械仕掛けの義手を付けた身体なんて、捨ててしまえばいいじゃないか。
俺以外が傷付けたものなんで、いらない。
「ナチ、ひとつ、提案をしよう」
「……」
ナチは睨みつけてくる。いつの間にか片目だけ赤く染まっている。俺と同じ緋色の瞳だ。ああ、睨まれるだけでゾクゾクするよ。
「サラザールは君の魂に干渉したけれど、君の魂を手にすることは出来なかった。でも俺はサラザールのようなヘマはしない。俺は君の魂を得る。身体は朽ちて無くなってしまうから、身体を得ようなんてつまらない事はしない、俺は君の魂を得て、永久にそばに置いておいてあげるよ」
「何を……言ってる?」
「魔法省の神秘部のことは知っているだろう?」
ナチの表情が変わる。流石魔法省の重鎮を親に持つだけはある。
魔法省の人間ですらほとんど内容を知らない神秘部。そこでは命や時間、それから記憶という曖昧な概念が研究されて管理されているのだ。その省の名を出されたら、どういう意味が分かるだろう?
「ナチ、サラザールが認めた魂だ。俺が大事にしてあげるよ」
「僕の魂をあの水晶の中に閉じ込めるって事?」
「まさか」
あんな水晶に入れては、ナチはただ珠の中で永遠に誰とも対話出来ず、外的刺激も得られずに思考を巡らすだけで、いずれ魂をくすませるだけだ。
そんなことはしない。サラザールがやったように、ひとつの身体に魂を2つ入れれば良いのだ。そうすれば永遠に楽しめるだろう?
「君の魂を俺の身体に取り込む」
「冗談だろう?」
「俺が冗談を言うと思っているのかい?」
永遠に一緒にいられる方法だ。
俺は死なない。死を超越する。何百年先、何千年先と生きた時、そこにはナチも居て欲しい。
けれどナチは分霊箱も作らず、死を受け入れて老い朽ちていくだろう。
そんなことはさせない。君は俺のものなのだから、勝手に死ぬことは許さない。
「さあナチ、君の魂を、俺に頂戴」
杖を向けると、ナチは急いで構えようとした。左手に持たれた杖を魔法で取り上げて、ナチに向かって呪文を唱える。
「永遠に一緒だよ、ナチ」
←
「
お前達、今すぐに消えろ」
呼吸も荒く痛みにのたうちまわっていた男の魔法を解除して、そいつも連れて行けと言うと下僕達は戸惑ったようだ。
「2度は言わない」
そう告げると、下僕達はすぐさま姿くらましで消えた。
先程まで複数あった目玉が消えたからだろう、森の中は随分と落ち着いた雰囲気に変わる。
殺意も、恐怖も、好奇心もない。ただ夜行性の獣達が時折僕とナチという部外者に警戒心を向けるだけだ。
「ナチ、どうして僕を頼らなかった」
「頼る?」
「あの時、狙われていたのは僕だ」
本当ならば僕の体が狙われていたはずだ。それを理解していたからナチは自分の身を餌にするような馬鹿な行為をとったんだ。
なんて愚かな事をするのだろう。もっと他に、対処法はあったはずなのに。
頼ってくれれば、僕も一緒に対処法を探していれば、君の腕を失う事にはならなかったのだろう。
年末、急に態度を変え、行動も変わったナチ。全ては1人で抱え込んで、1人で助かる方法を探していたからだろう。今になって見えてくる真実は、どれも愚かしい。
言ってくれなくては、分からないのに。
「リドルを失いたくなかった」
ナチがポツリと言う。
「リドルが生きてくれさえすれば、世界も自分もどうでも良かったんだよ」
「どうして自分までそんな扱いをするんだよ!普通、自分が一番だろ!?何で僕の為にナチが傷付いて、こんな……」
こんな結末になってしまったんだ。ナチは僕を救った結果、僕に命を狙われた。
ナチが勝手にやった行動だから、そんなので僕が心を傷める必要はないと分かっている。分かっているのに、心が痛くて痛くて、苦しいよ。
もう二度と誰かの言動で心を傷めることなんて無いと、思っていたのに。
「僕は自分が大嫌いだった。そんな自分を好きになれたのはリドルが居たからだ。リドルが居たから光の道を歩めた。リドルが居なかったら、ただ無味に生きる傀儡だったんだ」
「そんなので納得すると思ってるの?」
君が自分を大嫌い?嘘も甚だしいよ。君ほど自分を信じて、何をやるにしても胸を張っていた人間が、自分を嫌いな訳がないだろう?
「思ってないよ、でもね、リドル。僕の世界はリドルが居たから成り立っていたんだよ。リドルが居ない世界に興味は無いし、自分とリドルの価値を天秤にかけたら、リドルの方が重たかった。だからさ」
僕の価値がナチの中でそんなに重くなっているとは思わなかったから、驚く。
大切にされているのは分かっていた。でも、それはあくまで友人としてだと思っていたし、事実それ以上でもそれ以下でも無かったはずだ。
ナチが自分自身を嫌いだったというのにも驚いたけれど、こんなにも僕の存在に重きを置いていたことにも驚きだ。
「皆が求めていたのはナチだよ。君が消えた日、どの寮もお通夜みたいになったからね」
「それはリドルが居なくなったとしても同じだよ」
そんなはず無いだろう?そう言いそうになって、口を閉ざす。昔と同じような対話に、つい軽くなる口調。
もうそんなのは許されないのに、何を過去に戻ったつもりになっているのだろう。
ナチは急に口を閉ざした僕に何を思ったのだろう、ボロボロの体で立ち上がった。
いつも背筋を伸ばして立っていたナチなのに、今は至る所切り傷で血と泥にまみれて少し前かがみになって、呼吸も荒い。
いつもの余裕綽々な態度なナチは居ない。満身創痍で、片腕を失って、それでも僕へ対等に話しかけてくる姿のナチが目の前に居るだけだ。
そんな状態になってまで立ち上がって、まだ戦うつもり?やめてよ。僕は君を、もう傷付けたくないんだ。
「ねぇリドル、やり直せないかな?」
左手に持っていた杖をナチは地面に落として、僕に手を伸ばしてくるけれど距離がある。僕が手を伸ばせば握手が出来るだろうけれど、ナチの手は今はただ真っ直ぐに伸ばされているだけだ。
その手を、僕が掴むとでも思っているの?
「何を、言ってるのさ」
「闇の世界なんて捨ててしまおうよ。やっぱりリドルには、光が似合う」
「っ何、を」
僕ほど闇が似合う人間もいないだろうに、何を言っているんだ。ヘレナを騙して髪飾りを盗んだことも知らないくせに。分霊箱を作る準備をしていることも知らないくせに。
「僕はもう戻れない。でも、もうナチの命を狙いはしないよ」
「何で戻れないの?」
何で、何で?世界が憎い?嫌い?分からない。もう何も分からない。
ただ、自分で用意してしまった玉座に僕はもう腰を下ろしてしまったのだ。
それに下僕達も既に居る。僕は自分であの空間を作り上げてしまったのだ。もう動き出してしまっていて、止めることは出来ない。
「リドル、君が戻りたいと少しでも思ってくれるなら、僕は何だって出来る」
「そういうのやめてよ。そのせいでナチは腕を失って、瞳も赤くなったんだろう?」
片目だけ赤い瞳のナチは、自分の目が赤く見えていることに気付いてなかったようで、目元を一瞬隠そうとした。今更隠したところでと気付いたのか、つい隠そうとしたのは反射だったのかは分からないけれど、すぐにナチは腕を下ろす。
きっとナチはまた何か発明して瞳の色を誤魔化していたのだろうけれど、今は片目だけ分かるようになってしまったのだろう。
イヤホンとマイクの時にも思ったけれど、君って不思議な物ばかり発明するよね。
くだらないとよく言ったけれど、そんなナチを凄いと思っていたのも事実だ。
あの頃は気付かなかったけれど、当然として見ていたけれど、全てが輝いていた。
光が降り注ぐ場所に当然のように居て、僕は人を憎む気持ちもロクに持たなかった。
そういう奴だって居るくらいにしか思っていなくて、それを相手にせず、僕は僕の世界を光の中に作り上げていたのだ。
全てを憎く思うことは無かった。無かったんだ。
あの日、裏切られたと決め付けてしまったあの時までは。
あの頃に戻れるのなら、戻りたいよ。
「リドル」
ゆっくりと近付いてきて、僕の片頬に触れたナチ。
片手でしっかりと僕に前を向かせた。
真正面にいるナチは、漆黒の瞳と赤い瞳をまっすぐに僕に向けてくる。
その瞳はいつも僕の中までも覗いてきそうなのに、探るような瞳ではない。ただ真っ直ぐに、ナチは本心をぶつけているのだと言うための瞳だ。
その真っ直ぐさに、強さに、何度助けてと願っただろう。何度助けられたことだろう。
「僕はリドルが居ない世界に興味ないんだ」
ナチは真っ直ぐな瞳でそんなことを言う。
何を言っているのさ、そんなに重きを置かれても意味が分からないよ。僕は君に何をした?何をしてきた?何もしてはいないじゃないか。
なのにそんな事を言われても、普通なら信じられるわけがない。
信じられるわけがないのに、真っ直ぐな瞳が本心なのだと告げていて、言葉が出てこない。
「光が強いからこそ、影が濃くなるんだ。リドルは光のある世界に居て、今は焦げ付いた影が君を導いてるんだ。影は影でしかない。それを本体にしては駄目だ」
「でももう、僕は、人を傷付けた」
今まで、何人の心を闇に染めた?傷付けた?苦しめた?
「僕は人を殺めている」
ナチはきっぱりと言った。僕は殺してものうのうと生きているのに、リドルが心のままに生きられないという事はないだろう?そう言って、ナチは笑う。
優しい笑み。傷だらけで泥だらけで血に汚れているのに、穏やかな笑みだ。
「もしリドルが魔法界にいる限り気にするなら、マグルの世界に行ったっていい」
「マグル界に?」
いきなりの提案に、思わず声が少し裏がえる。
「君、マグル界を知らないじゃないか」
「本で読んでるよ。それにリドルが一緒に居てくれるなら、僕はマグル界を学ばせてもらえるし」
リドルは魔法界の煩い奴から離れられて、僕はマグル界の事を学べる。両方に良いと思わない?そう言ってナチはフニャリと笑う。
その気の抜けた顔に少し笑った。学生時代よりも柔らかい笑い方だ。そんな笑い方も出来たんだね。
君のその笑顔を守れるなら、それも良いのかもしれないと思わせてくるから、困りものだ。
「マグル界のお金が無いだろ?」
「ゴールドはどこでも換金可能なんでしょ?ならこっちでお金をゴールドに変換して持っていくさ。それに、魔法界にはマグル界にいる魔法使いを保護というか管理する省もある。そこにツテがあるから、そこを使えば魔法界の奴等にバレずにマグル界での生活なんて簡単に出来るさ。今は戦後でバタついてるし、今ならマグル界に行った後に行方をくらますなんて簡単なはずだよ」
「とんでもない考えだね」
使えるツテは何でも使う。そういう奴だったね、君は。
本当に、君は。どうしてそんなに僕を救ってくれるんだ。
何も返せないのに。
「でも、君の願い、叶えてあげても良いよ」
望まれて生きられるなら、僕の価値は光の下にある。
ks様
この度はリクエスト本当にありがとう御座いました!
ヴォルデモートが男主とサラザールのやり取りを知った時、どうなるかという内容でしたが、ご希望に添えたでしょうか?
実はks様のリクエスト内容は、私が想像していたヴォルデモートとなったリドルと男主のラストの内容となります。
魂を1つの体に収めた場合、後に魂が融合して(サラザールが入っていた時の男主の「穢れた血」発言のように、思考が飲まれる)男主のマートルを殺した記憶がリドルのものとなり、ハリポタ本編のヴォルデモートの記憶となるという設定です。
対して、もう1つは原作無視のifです。この後普通にマグル界に行って、戦後の復興を見ながら普通に生きていく二人となります。
もし、こんな結末は嫌だ!と思われたら済みません。一言いただけましたら、また別の形で書かせていただきますので、どうぞよろしくお願い致します。
それでは、またのご来場をこころよりお待ちしております。本当にありがとう御座いました。
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