ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
マクゴナガル先生
『マクゴナガル先輩が教師に?』
部屋でソファに寝そべりながら本を読んでいるナチに今日仕入れた情報を伝えると、ナチは目をパチリと瞬かせた。
幽霊のくせしてソファにまるで寝そべるようにして、ほんの少しだけ使える魔法(霊力と言うほうが正しいのかな?)でページを変えるナチに頷いてみせる。
「そうだよ」
『変身術?』
「ご名答」
教師になって1年目がそろそろ終わる頃、変身術の教師に学年が一つ上の先輩、ミネルバ・マクゴナガルが就くという通達が出た。
「二年間魔法省で働いていたんだって」
『あー…マクゴナガル先輩、混血だからね。彼女の配属先は確か魔法法執行部だったでしょ?大変だっただろうなぁ』
「そこもそういうところなの?」
『魔法省はどこもそうだよ』
ナチの言葉に相変わらず上はロクでもないと思わずにいられない。
混血が優秀で魔法省に就職したとしても、反マグル主義によって離職に追いやられるのだ。
彼女もその犠牲者になったということか。
ナチはふわりと浮いて、ふふっと笑う。
「ナチ?」
『いや、楽しみだなぁってね』
「何が楽しみなのさ。マクゴナガル先輩は規則に厳しい人だから君は苦手視してただろ?」
在学中はマクゴナガル先輩のきっちり結わえた髪を見て、ナチはあの人は少しの規律の乱れも嫌う人なんだろうねぇとぼやいていたじゃないか。
同じ教師として仕事をするには、少し面倒そうな人だ。
『だからだよ。僕はもう幽霊だからね、好きに出来るし怒られる事ないよ』
「どうだろうね、ナチは問題児だから、今もその印象でインプットされてるんじゃない?」
『僕ほど優秀な生徒はいなかったと思うけど?まぁ、幽霊で怒られるなら、僕よりニックが先でしょ』
確かに、場を弁弁えずにはしゃいで叱られるのはニックが先だろう。
ナチはニックを使って様子見をするということか。
「君は良いよね気楽で」
『まぁね』
そんな軽口を叩いて数ヶ月後、マクゴナガル先輩を苦手視するのは僕だということを痛感した。
ナチを探している時には
「リドル先生!生徒の模範となるのですから廊下を走らないで下さい!」
授業で難しいことをすれば夕食の席で
「彼らにはまだ早いです!もう少し教科書通りにされてはいかがですか!?」
あまつさえ
「トム・リドル!減点しますよ!」
と、監督生だった頃のような声を張り上げられる始末。
なんだっていうのさ!
「僕はもう教師だ!」
部屋で怒りに任せて机に本をぶつければ、ナチは本が可哀想だよ、と言う。
可哀想なのは僕だ。
やっと新米教師を抜けられたという時期、生徒に威厳を示さなくちゃいけない時期なのに、マクゴナガルときたら僕を生徒の前で叱るし、生徒扱いまでする。
なんなのさ!
『マクゴナガル先輩の性格はなぁ…』
「だいたいナチを探して少し走るだけで叱られるとか、どこの幼稚園だよ!」
『落ち着いてリドル』
廊下走るくらいで怒られるなら、全校生徒が一度は怒られるよ!
あの人はマグル界にも住んでいたことがあるから廊下を走るなは口癖なのかもしれないけど、ここはホグワーツで、常に人は駆け回るし飛び回るような場所なんだから走るだけで怒られるなんてありえない。
マグルの常識を押し付けるな。
ナチはマグル界の常識なんて知るはずもないから何で走っただけで怒られるのかも分かってないみたいで、リドル何かしたの?と僕が何かしてマクゴナガルから嫌がらせを受けているのではないかと心配そうに聞いてくる始末。
失礼だね。
別に、嫌われるようなことはしてないよ。……たぶん。
「授業内容にまで口出しされたらたまらないよ」
どの寮の生徒とも険悪な状態にならないように努めているし、授業だって上手く出来ていると思う。
教師と生徒という立ち位置も今のところ良好だ。
なのに何で、同僚でこんなに頭を痛めないといけないんだよ。
こめかみを押さえて、椅子に腰掛ける。
もう立つ気力すらないよ。
『リドル』
「……」
目を開けてナチを見ると、ナチは霊力で戸棚から机に小瓶を運んできていた。
その中身は頭痛薬で、本当にナチには隠し通せないと思う。
ナチは昔から人の観察が得意だ。
何で頭が痛いって分かったのさ。と言うと、何となく、としか返ってこないから訊かないけど、ナチは人の体調や気分にすぐに気付く。
「少し寝る」
『ん、おやすみ』
頭痛薬を飲んで、すぐにベッドに入ればたちまち眠気が襲ってきて。
ナチに昔処方された酔い止めの応用で作った薬は、思いの外使い勝手が良い。
***
すぅすぅと寝息を立てるリドルの眉間には少し皺が寄っていて、触れない事を悔しく思う。
僕は君の疲れを、少しも安らげることが出来ない。
『マクゴナガル…ねぇ』
彼女はあまり得意ではない。
とはいえ、このままではいられないな。
リドルを嫌っているにしろ、走っただけで走るなと言うのはどういうつもりなのだろう?
走ったら駄目なんて、聞いたことがないよ。
リドルは何か知っているみたいだけど、僕には理解不能だ。
一つ上の先輩ではあるけれど、卒業年度は僕と同じだ。少しは対等に話を聞いてくれたら良いけれど、彼女はどうにも年下は子供として扱うところがある。
上手く交渉出来たら良いけど…。
リドルが寝ているのを再度確認して、マクゴナガルを探す。
彼女は何処に居るだろう。幽霊たちに聞けば三階と言われた。
まさか、マートルにでも会いに行っているのか?
マートルはレイブンクローの生徒で、マクゴナガルはグリフィンドール。接点があるとは思えない。
けれど、マクゴナガルがまだ在籍している時に僕はハグリッドを追放したし、その理由はマートルの死だ。
彼女はダンブルドアに傾倒しているように見えるから、恐らく彼女もハグリッドの無罪を信じている側だろう。何か覚えているかと、マートルの記憶を漁りに行く可能性は十分にある。
厄介な存在だ。
絶対にあの事は公にせず、地獄まで持って行くと決めていたのに。そうしてせっかく手に入れた平穏なのに、また荒波が立てられてしまう。
そうなれば、リドルが罪の意識で闇に誘われてしまうかもしれない。それだけは何があっても阻止しなければ駄目だ。
壁も関係なく移動すると三階の隅にマクゴナガルは居た。何を思ってそんな何も無い所に居るのだろう。
あそこには隠し扉があって、その奥には確か…みぞの鏡があるだけ。
マートルに会いに来た訳ではないのだろうか?それなら僕にとっては嬉しい限りなのだけれども。
『マクゴナガル先生』
声をかけると驚いたように振り返って、ここは立ち入り禁止区域ですよ!と反射のように言葉が発せられた。
廊下に向けた目線が僕を捉えると、少し気恥ずかしそうに咳払いをする。
まぁ確かに、半透明でなければ冬の制服姿の僕は紛れもなく生徒だ。
見た目年齢も学生のままで止まっているしね。
「ナチ・サハラでしたか」
『僕はこれから成仏するまで此処でゴーストとして生きるのです。どうぞ親しみを込めて僕のことはナチと呼んでください。マクゴナガル先生』
「そう…そうでしたね。あなたが幽霊になられたというのには驚きました」
『多分誰もが驚いたと思います。僕自身、1年経ってまだ慣れてないところがありますから』
「あなたのような優秀な子が亡くなったのは本当に残念です」
子って、一歳しか違わないんだけど。
本当に、子供扱いしてくれるね。
『僕はあなたと同じ年度に卒業しているので、見た目はこれですけど、ある意味同学年ですよ』
この言葉の意味に気付いたのだろう、あっと口を塞いで、済みません、と謝罪を言われた。
別に謝る必要は無かったのだけれど…意地悪してしまったかな。
中身は素直なんだよね。素直故に、曲がったことが出来ないし、許せないんだろう。
さて、どう攻めていこうかな。
この人は頭の回転も速い。
遠回しな言い方は気分を害されそうだし、失礼にもなるだろう。
仕方ない、単刀直入に言うか
『マクゴナガル先生。教師に必要なものは何だと思いますか?』
「教養と威厳でしょうか」
模範解答。ついでに、人生の先輩というのが付いていたら満点だ。
『ねぇマクゴナガル先生、威厳を持つためには、生徒の前でみっともない姿を晒すのは駄目だと思いませんか?』
「勿論です。子供の模範となる生き方をしなければならないのに、みっともない姿を晒すなんて」
『そうですよね』
この人は分かっている。学生の前で教師が叱られるなんて良くないと分かっているはずだ。
だというのに、リドルのことになると大声を張り上げるのは、嫌がらせとしか受け取れない。
けれどこの人がそんなことをするとは思えないんだよな。
これだけ真正面から話そうとしてくる人だ。リドルを嫌っているなら貶めるような行為ではなく、戦いを挑んできそうな勢いを持っている。
では、何であんな事をするのだろう?
その真意は、何?
「トムの事ですか?」
『お分かりなら話が早い』
「サハラさんは…」
『ナチ、ですよ。マクゴナガル先生』
「そうでしたね。ナチが私に話しかけることなど、おおよそトムの事でしょうから」
その、いつでもどこでも二人一緒みたいな発言はちょっとやめて欲しいね。
リドルが良い人を作るタイミングを逃しかねない。
まぁ、今はそんなことを話すために来たのではないから無視するけれど、これからはリドルとは別行動を取ろうかな。
僕のせいで恋人一人作れないっていうのは、大問題だからね。
『どうしてあんなことを?』
「彼を見ているとどうにも弟を思い出してしまって。つい口が先に動いてしまうんです」
弟?マクゴナガル、弟が居たんだ。
性格的に長女だとは思っていたけど、まさか当たるとはね。
「トムには済みませんと伝えて下さい」
『ご自分で伝えては?』
「トムはきっと私のことが嫌いでしょう」
『まぁ、今は好印象は無いでしょうね。でもこのままでいるよりもは自分から声をかけたほうが良いと思いますよ?』
「ナチ」
そんな困った顔をしないでよ。
分かったよ。
僕から伝えておくよ。
『伝書鳩になりましょう』
「ふふっ」
マクゴナガルがクスクスと笑う。
どうしたのだろう?今の言い回しがおかしかったのかな?まぁ、困った顔で居られるよりもは良いけれど。
「あなたは本当に、寮なんて関係なく人を見るんですね」
『寮で何かが決まるわけではありませんからね』
「あら、私は組み分け帽子に30分悩まれたんですよ」
『30分?それは嫌ですね。皆の前でひたすら悩まれるなんて冗談じゃない』
また笑って、フゥ、と息を吐いて落ち着こうとするマクゴナガル。
「では、また」
『はい、また後ほど。夕食の時にでも』
向かう予定だっただろうみぞの鏡がある部屋に背を向けて彼女は足を進める。
本当は何かを求めてきたのだろうに。
邪魔したことに、心の中で謝罪した。
部屋に戻ってリドルが目覚めるのを待ってから、マクゴナガルがリドルの事を弟みたいに見ていることを伝えると、リドルが物凄く嫌そうな顔をした。
「弟?」
『そう』
「あんな姉、絶対嫌だね」
『まぁ悪意は無いって分かったから良いじゃない』
「というかナチ、何でそんな話をしてきてるの」
『たまたま図書室に向かう途中に居たから声かけたんだよ』
「君から切り出したの?」
『いや、僕は特に何も言ってないけど』
こういう時、僕がお節介を焼いたと知ったらリドルは嫌がるのだ。
マクゴナガルに直接聞くことも無いと思うし、少しは捏造しても良いでしょ。
『君に悪いことをしてしまっているって』
「ふぅん」
『まぁ、許す許さないは関係なく、これから意識して口が動く前に閉ざすんじゃない?』
「どうだか」
弟扱いも気に入らないし、僕を介しての謝罪も気に入らない様子のリドル。
歳が近い教師なんて珍しいから仲良く出来たらきっと楽しいだろうのに、勿体無いと思う。
リドルには、僕以外にも目を向けて欲しいんだ。
こんな亡霊をいつまでも友人にしていては駄目だよ、リドル。
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