ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
願望未成就
トム・マールヴォロ・リドル先輩が、トム・マールヴォロ・リドル先生になったのは私が三年生になった時。
女生徒は年齢問わずに喜んだ。
勿論、私も。
誰もが憧れるアイドルみたいな存在の先輩が卒業して遠い存在になってしまうのが悲しかったから、また廊下やロビー、大広間、教室で通りすがりにでも会えるというのが嬉しかったのだ。
しかもナチ・サハラ先輩までいる。
ナチ先輩は優秀だったから、皆よりも一年早く、突然卒業してしまった人。
彼は女生徒にとって、いいえ、男子生徒にとってもアイドルだったから、皆ナチ先輩が一年早く卒業してしまった時は悲しんだ。
リドル先輩が静のアイドルならば、ナチ先輩は動のアイドル。そんなポジションだった。
だからだろう、お二方が揃うと、一人で居る時よりも更に際立った存在になった。
お二人が並んで歩いている後ろ姿は、まるで片翼しか持たない天使が寄り添い対になっているような。
お二人を片翼しか持たないなどと失礼な発言でしか無いけれど、リドル先輩とナチ先輩は二人で一人のような、そんな印象を私は持っていた。
リドル先輩もナチ先輩も欠けた部分なんて無い人だったけれど、たぶん何処か足りないところがあって、それをちょうど相手が持っている。そんな印象。
パズルのピースみたいにお二人の凹凸はピッタリだった。
だから私はナチ先輩が人より早く卒業してしまったのがどうしようもなく悲しかった。
ナチ先輩はいつもリドル先輩の右にいらっしゃったから、リドル先輩が一人でいる時は右が酷く淋しく見えた。
他の方がリドル先輩を囲んで楽しそうにしていても、リドル先輩の右側の翼は何処にも無かったように思えた。
だから私は、リドル先輩が先生になった時、ナチ先輩が隣にいて嬉しかった。
またあのお二人が並んでいらっしゃることに。
そして不自然な隙間が埋まったような気がして安心もした。
けれど同時に悲しかった。
ナチ先輩は亡くなっていて、魂だけの存在になってしまっていたから。
ただ、勘違いをなさらないで欲しい。
ナチ先輩は死んでも尚麗しく気高く、魂も輝いている。
ナチ先輩が生きていた頃から何かが欠けて悲しいのではない。
私が悲しいのはナチ先輩が老いていくリドル先生の隣で、変わらずにいる事が、悲しいのだ。
アイドルは老いず永遠であって欲しい。
そんな考えを皆様持たれるだろう。
けれど私は、二人で有限の時を生きて欲しかった。
片方は無限の魂を持ち、もう片方は有限の命を持つ。
そこに生じる差は、どれほど二人に影響を与えるのか。
それが恐ろしく、同時に悲しかった。
変化する世界の中で二人の関係は不変であって欲しい。そう、思っていたから。
ナチ先輩に身体があれば良いのにと、何度思ったことだろう。
人の身体を作るにはどうしたら良いかどれだけ調べただろう。
私は一つの答えに辿り着いた。
そしてそれはとても素敵な考えを私に教えてくれた。
「リドル先生」
私はもう卒業間近で、お二方とご一緒出来る時間の限りを見た時だった。
ナチ先輩が居ない時にリドル先生を捕まえる。
リドル先生は何だい、と透き通る水のような声音で言ってくださった。
「私の命を使って、ナチ先輩のお身体を作ってください」
「いきなりどうしたのかな?」
リドル先生は私の突然の申し出に戸惑いを見せなかった。
まるで私の考えなど、すべてお見通しとでも言うように。
「生きている者の命を使えば、ナチ先輩はまた生きた状態となります。ですからリドル先生、私の命を使ってナチ先輩に体を与えて下さい」
「それは無理な申し出だ」
リドル先生は私の希望を一刀両断した。
何故、と言うと、リドル先生は目を細めて私を見た後、溜め息を吐いた。
「ナチがそれを許すと思うかい?」
「え?」
「君がナチを思う気持ちは分かった。でも、君は無意識のうちにナチに君を殺せと言っているんだ」
「そんな!私は自殺です!望んで死ぬのです!」
「それは君の我儘であり、欲望であり、崇拝する人間に尽くす自分に酔い痴れているだけだ」
リドル先生の言葉に、喉が詰まった。
違うと言いたいのに、言い返せない。
「君の命を喰う事でナチが甦ったとして、ナチがそれを喜ぶと思うかい?他者を犠牲にして生きる自分を君は許せるかい?ナチの気持ちを考えなさい」
ナチ先輩の、気持ち。
自分の立場で考える。
甦られたらきっと嬉しい。
好きな人に触れられるし、好きな人と同じ時間を身体は刻んでいってくれるのだから。
同じ土俵に立てた事に私ならば歓喜する。
けれど、その土俵が人の屍だとすればそれはとても恐ろしい。
悪寒が走る。
「君がナチを思う気持ちはよく分かる。君がナチに出来ることは君が幸せに生きることだ。良いね?」
リドル先生もナチ先輩も人の幸せを望む、素敵な方だということを忘れていた。
私が幸せになることがナチ先輩とリドル先輩を幸せに出来るというのならば。
「君が泣いてはナチも悲しむ」
リドル先生はそう言って、私の頬を撫でた。
水気を感じて、私は泣いていたのだと気付く。
「済みませんでした」
「謝らなくていい」
私は頭を下げて、その場を離れる。
最初は重たい足を引き摺っていたのに、気が付いたら私は走っていた。
皆が私を見て驚いた表情を浮かべる。
涙がとめどなく流れているからだ。
でも今はもう泣き顔を誰に見られても構わない。
私は走った。
静かな、誰も寄り付かない廊下に辿り着いて足を止める。
嗚咽と息切れで肩が揺れる。
なんで、どうして。
私は大概臆病だ。
私の幸せはナチ先輩に命を有効利用していただいて、ナチ先輩とリドル先生が幸せであれる事だと、どうして言えなかったんだろう。
「う、うぇ」
ただただ、あの愛しいお二方を思って、私は子供みたいに泣きじゃくった。
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