ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
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今日も晴天。
暑さも慣れれば心地良い、と思える程苦痛を愛せる人間ではないので、汗が気持ち悪い。
まぁ、魔法で風を起こせるし、冷たくするのも可能だから良いんだけど。
それに今は外で木陰に寝そべっている。
ちくちくと刺してくる草に背中が少しむず痒いけれど、それが気にならない程に湖畔から流れてくる風は涼しくて、くあっと欠伸が出た。
授業をさぼって得た時間はいつも以上に気持ち良く、解放感に満ち溢れている。
このまま毎日サボってしまいたい。
あぁでもそんな事をしたら僕は不良か。
考えて、思わず笑う。
不良になれば、今まで築き上げてきた物総てを壊してくれるだろう。
良家の世継ぎに恥じない子。
優秀な子。
それらを一蹴する「不良」という単語は実に魅力的で、同時に非実現なものだ。
周りの期待を裏切れば僕は存在価値を失う。
それを知っていて出来るわけが無い。
出来て、たまにやるサボりくらいだ。
それで満足する自分はまだまだ不良と程遠いなと思って、また嗤う。
風が吹く。
木漏れ日が顔に射して、瞼を上げると葉の隙間から太陽が顔を覗かせていた。
綺麗だ。
瞳に焼き付いた太陽は瞼を閉じても残像を残す。
闇を漂う光に愛おしさを感じるのは、きっと僕だけじゃないはずだ。
足元から吹いてくる風にざあっと草木が揺れる。
夏の陽射しによって堅くなった葉が奏でる音は力強い。
その音に安心感を覚えるのは、何故だろうか。
そんな事をつらつら考えていたら、うたた寝をしていたらしい。
「ナチ」
急に名前を呼ばれて、心臓が跳ね上がった。
目を開けば、そこには腰に手を当てて僕を見下ろすリドルの姿。
「こんな所で昼寝とは、良いご身分だね、ナチ」
背後に葉の隙間から射す光を携えたリドルは少し不機嫌な表情。
「おはよう」
「今の時間はこんにちは」
寝呆けるのも大概にしなよ。と続け様に言われて、笑う。
リドルはつっこむところが少しずれてるよな。と場違いなことを思う。
寝転がったまま見上げると、未だ不機嫌なリドルに見下げられる。
身長は僕の方が高いから、見下げられるのは何とも新鮮だ。
さて、不機嫌なリドルに何を言って気分を紛らわさせようかな。
「ね、リドル」
「何?」
隣に腰掛けて、片眉を釣り上げながら暑いのかネクタイを緩めているリドル。
良く見れば呼吸は落ち着いているけれど、少し頬が紅潮している。
あぁ、これは良い発見だ。
「もしかして僕を探してた?」
言えばすぐに不機嫌な表情を作ってねめつけられた。
それから、少し饒舌に教授に頼まれたんだよ。と言う。
自分の癖に気付いていないって恐ろしいなと思う。
リドルは嘘を吐く時、たまに饒舌になるんだ。
饒舌になるのは決まって、自主的に何かしたのを知られるのが恥ずかしくて有り得そうな理由を並べる時。
つまり、先生に頼まれてもいないのに、僕を探してたって事だ。
にやにやしていると、眉間に皺を寄せて何さ、と言われる。
あぁもう本当に、友人には恵まれているよ。
「走って探してくれたんだ」
「それは……ナチのせいで僕まで授業に出られないなんて嫌だからだよ」
授業、つまらないから出席日数ぎりぎりにするって言ってたくせに。
とは流石に言わない。
これ以上つつくと怒ってきそうだ。
照れ隠しに怒るって、どんな可愛い子だよって思っちゃう辺り、僕も末期かもしれない。
男を可愛いと思うなんてね。
弟ってこんな感じなのかな。
「もう少しのんびりしていこうよ」
「僕が言ったの、聞いてた?」
「聞いてた聞いてた。でもあの授業出ても退屈でしょ?だったらここで寛いでいた方が有意義ってものだよ」
寝転がったまま伸びをして、大の字になる。
ね?と言えば、少し視線を彷徨わせてから、仕方ないねの一言。
リドルは自分に厳しいから、こうやって無理矢理付き合わせる方法を取らないと息抜きすらしないんだ。
生きづらくないのかな、とも思うけど、それがリドルを構成する一部なのだと考えると愛しく感じる。
僕も大概末期だな。
でもまぁ、親心ってやつだ。
手のかかるお子様ほど可愛いって感覚に似てるから仕方ない。
こんなことを考えてるって気付かれたら怒られるんだろうけど、バレるつもりは毛頭無いからね。
「ここ涼しいでしょ」
「そうだね」
「リドルも横になりなよ」
草をパシパシと叩けば、リドルは間髪入れずに嫌だの一言。
「冷たい」
「煩いな」
「横になった方が気持ち良いよ?」
「しつこい。眠たいならさっさと寝なよ」
「寝ないよ」
眠たくなんて無い。
さっきはあまりの気持ちの良さに、少しうたた寝をしただけ。
「最近疲れてるだろ。時間が来たら起こすから、寝てなよ」
真面目な顔で、そんな事を言ってくる。
あぁもう本当に。
誰が誰の親だって?思い上がりも甚だしいったらないね。
僕の方が子供じゃないか。諭されてしまうなんて。
しかも疲れてる理由を聞いてこない。
その優しさに、気遣いに僕は弱いんだ。
僕の存在する世界に居る奴らは弱みを掴もうと皆血眼で、弱った人間に優しくして付け込む。
そして少しでも優しさに絆されて弱みを見せれば、次の瞬間には潰される。
そんな世界しか知らない僕に君は当然の様に優しさを見せるから、正直戸惑う。
けれど、その戸惑いは嬉しいもので。
「じゃあお言葉に甘えようかな」
「さっさと寝な」
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
人が傍にいて眠れる日が来るなんて思いもしなかった。
人間なんて自分も含んで大嫌いだったのに。
人を好きになれたことよりも、リドルに逢えて仲良くなれたことの方が嬉しい。
目を閉じれば心地良い風。
きっとよく眠れる。
おやすみ、リドル。
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