ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
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その日は天気が良すぎて、つまり暑くて、なのに外で薬草学の勉強。
汗がこめかみから頬の方へ滑り落ちてくるから袖で拭う。
必須課目でなければ、誰が夏の季節にこんな科目を取るか。
終わり次第、スリザリン寮に戻ろう。
スリザリン寮は地下にあるから夏でも涼しいを通り越して肌寒い。
チリチリと照りつける太陽。
こんな炎天下にいては、あの涼しさが堪らなく恋しくなってくる。
授業が終わって足早に寮への道を歩もうとすると、すぐに二の腕を掴んでくる、熱を孕んだ手。
「何?」
「うわぁ、不機嫌だね」
「早く帰りたいんだけど」
「まぁまぁそう言わずに」
僕よりも少し高い位置にある顔。
ねめつけるけれど、こいつに効いた試しはない。
ナチは暑苦しい位の笑顔で杖を振って、箒を呼んだ。
嫌な予感が、する。
「早く帰りたいって言ったのが聞こえなかったわけ?」
「耳だけは良いからそれはないよ」
「だったら離しなよ。いい加減、怒るよ?」
「暑さで苛々するのは損だよ。ほらほら、行こう」
「何処に」
「良いトコロ」
「……」
「うわっ、何さその疑いの眼差し。僕の繊細な心が傷ついたよ」
「鋼のくせして良く言うよ」
ナチは笑って、そして良く分かってる。と言った。
この軽い調子も今では腹が立つ。
「暑さに負けてるリドルさんは良い場所にご案内。ほらほら、乗って乗って」
大概ここまで引っ張られると、ナチに折れる気が無いのだと知れる。
「早く帰してよね。汗が気持ち悪いんだよ」
「大丈夫、僕も汗をかくのは嫌いだよ」
「だったら」
何もせずに帰れば良いじゃないかと言おうとすれば、ナチは僕の口の前に人差し指をかざしてくる。
「はーい。言い争っても陽射しを浴びるだけだからね、ちゃっちゃと行きましょうか」
「僕も箒を呼ぶから……」
「二人で飛んだ方が色々と効率的で省エネ。ほら乗って」
箒を跨いで早く早くと言うから、仕方なく乗る。
ナチもやっぱり暑いらしくて、シャツの背中の部分を握れば湿っていた。
「行くよ」
そう言った瞬間浮く箒。
スピードがあって、先程まで熱と湿気を含んでいた風が急に清々しく感じる。
下に広がるのは森。
そして少し遠くに湖。
「服離しちゃ駄目だよ。しっかり掴まってね」
「ドリフトでもする気?」
「もっと楽しいこと。行くよ!」
「ちょっ!」
猛スピードで前に進んだかと思うと、ほぼ垂直に急降下を始めた箒。
何を考えてるのさ!
まさかと気付いた時にはもう遅い。
派手な水飛沫を上げて、湖に飛び込んでいた。
だいぶ深くまで突っ込んだらしくて、視界に広がる底は近く、見上げた水面は遠い。
底から見上げる水面はキラキラして綺麗だと考えている自分の脳は、どうやら暑さでやられていたらしい。
未だに服を掴んだままの手。その腕を相手が掴んで、水面に引き上げられる。
水面に顔を出して、息をする。
少し水を飲んでしまったのと、突然大きな呼吸をした事で肺が痛みを発して噎せた。
「ゲホッ」
「どう?涼しくなった?」
「きっ!」
言いたいことは山程あるのに咳き込んで何も言えない。
ナチは僕の背を叩くけれど、それも腹が立って掴まれたままの手を離せと腕を振る。
すると相手はすんなり離して、僕の咳が止むまでただ待っていた。
「何考えてるのさ!」
「身体を冷やすついでに肝も冷やせば心身共に涼しくなるかと思ってね」
「ふざけるのも大概にしなよ!?やりたければ勝手に一人でやりなよ!」
腹立ちついでに水をかければ、相手はへばりついた髪を掻き上げながら笑うだけ。
その余裕な態度が、余計に腹立つんだよ!
「おーい!」
「リドルー!ナチー!」
互いに名前を呼ばれて見上げれば、眩しい太陽の光に眼球の奥がチカチカする。
真上に太陽がある今、シルエットですら光の眩しさに消え入りそうで声の主人の姿も分からないけれど、声で分かる。
同い年のスリザリン生だ。
さっき一緒に授業を受けていたグリフィンドール生も、他の寮生もいる。
今僕と一緒に水浸しになっているナチと同じで、楽しければそれで良いというタイプの奴等ばかり。ああ、嫌な予感がするよ。
「早いって!行くの!」
「ごめんごめん、つい暑さに負けちゃってね」
「突撃したらごめんなー!」
「安心してよ末代まで呪うから」
「安心できねぇ!」
空から笑い声がする。
隣にいるナチも空に向かって笑って、それから僕の方を見て気色悪いくらい綺麗に笑った。
「今から綺麗な水柱が立つね」
「人が降ってくるんだろ?」
「まぁ、そうだね」
「すぐに帰れるんじゃなかったわけ?」
「そんな約束は交わしてないよ」
「でも大丈夫って」
「それはお互い汗かいてるから、汗をかいてる事をリドルが気にする必要はないよって意味の大丈夫」
この……。
勝手な解釈をした僕の方が悪いかもしれない。
けどね、わざとどちらにでも解釈出来る言い方を選ぶナチのその作戦に騙されたのが気に入らないんだよ!
水をかければ声を上げて大笑いされる。
「何笑ってるのさ!」
「あはははは」
水中で暴れるけれど、何も効果がない。
悔しいったらない。
暴れていると、上空から人が次々と突撃してきた。
まるで水中の魚を狙う海鳥みたいだよ。
水柱が消えて暫く経ってから、水面に人が顔を出してきた。
「きっもちいー!」
「やべ、鼻で水飲んだ」
「冷てぇー!」
周りで楽しそうに笑う奴等。君達皆、馬鹿だよ。
帰りがずぶ濡れだって分かってないだろ。
「リドル」
この水遊びの主催者だろう、僕をここまで連れてきたナチがにこやかに笑う。
「今戻ろうが後で戻ろうが変わらないんだし、まだ遊ぶでしょ?」
「……第一僕の箒がないよ」
呼べば箒は来るけれど、一人でずぶ濡れで帰るのも嫌だ。
ナチもそれを理解しているのか、目を細めて笑う。
本当に、君は。
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