ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
6周年記念:友達になるまで
初めて受けた魔法界のテスト結果が張り出された。
当然トップには僕の名前……ではなく、知らない誰かの名前。
冗談だろう?
何で僕が一番じゃないんだ?
間違いなんてなかった。
どれも満点だったはずだ。
並べられた名前の左。僕の順位は2では無くて1となっていた。
僕の上にいる名前も1と書かれていて、名前の右を見れば同じ合計点数。
つまり、1位が二人居るということ?
「なぁ、トム・マールヴォロ・リドルって誰だ?」
「ほらスリザリンの。あいつだ」
「ああ、孤児のトム。あいつ、マグル界の奴だろ?何で魔法界の知恵がついてんだよ」
「あの綺麗な人?凄いなぁ。頭も良いのね」
「孤児のくせに」
「混血だろ?」
「今度話しかけてみる?」
「穢れた血が混じってる奴とは口を利きたくないなぁ」
「混血の分際で、調子に乗らなきゃいいけど」
周りが僕の存在を認識して、騒ぎ出す。
マグル界で育った孤児で混血のトム。それが周囲の僕への認識。
馬鹿な奴等だ。肩書きや産まれなんかで力量を図ろうとするから見誤る。
僕は出生を理由に、そのカテゴライズに埋れたりはしない。
僕は孤児院出身であっても、一般家庭で育った奴に劣る事は無い。
「リドル、おめでとう!1位じゃないか!」
同じ寮で何かにつけて親しくしてくる相手が、僕の成績を喜んで肩に腕を回してきた。
人付き合いは面倒だけど、せめて表面上はと思って付き合っている奴だ。
同じようにマグル界で育った混血。
きっと相手は、同じ境遇の者同士で仲良くしたいと思っているのだろう。
傷の舐め合いなんて冗談ではないけれど、少しは人付き合いもしなければ、きっと此処での生活は窮屈になる。
何たって僕は魔法界の知識が無いのだから。
上手く立ち回らなければならない。
「2人居るけどね」
「仕方ないよ。彼は数十年に一度の逸材って言われる人なんだから」
逸材。そんな風に呼ばれている奴なんだ。
貼られた紙をもう一度見る。
ナチ・サハラか。
同じ寮だけど話した事が無いのは、きっと純血主義のチームに属する奴だからだろう。
純血主義は親の七光りの馬鹿ばかりだと思っていたけれど、少しは知恵比べが出来る奴も存在するらしい。
逸材とまで謳われる人物がどんな奴なのか気にならなくも無いが、どうせ純血主義で高慢な奴だろう。
そんな奴に負けるなんて冗談じゃない。
絶対に、常に満点を取ってやる。
それから数日が経過すると、周りの純血馬鹿は僕を孤児のトム、と言って蔑むようになった。
勉強で勝てない馬鹿達は、相手を見下す安っぽい発言しかしてこない。
僕は確かに孤児で、周りからは同情されるに足る人生を歩んできたかもしれない。
けれど、此処は学び舎だ。
頭脳と体力と素質を磨けば地位を築ける。
だから見た目が金色でも中身が空っぽの奴になんか絶対に負けない。
「おいリドル。また純血が騒いでるぞ」
「放っておけばいいさ。あいつらは何も出来ない」
口でも勝てないから遠くで吼えるしか能が無い奴ばかり。
魔法だって僕には敵わないと理解しているから、呪いを撃ってもこなくなった。
純血主義を相手にするのは時間の無駄でしかないから、僕は授業も終わったので仲間と一緒に寮へと戻る。
それにしても、何が悲しくてスリザリン寮は地下なのだろう。
寒くて仕方ないよ。
純血主義が根暗だからと言うのなら分かるけれど、蛇は寒い場所では動けなくなるのだから、エンブレムの蛇を思えば日当たり良好なほうが良いだろうに。
部屋に戻ろうと階段を上がっていると、僕の部屋から同室で生活しているパートナーが飛び出してきた。
「ト、ト、トム君!助けて!」
「どうしたの?」
慌てた様子の相手に、これはきっと碌な事じゃないと察する。
開け放たれたままの部屋を見れば、中が綿だらけだった。
「今度は何をしたの」
「魔法の練習で……寒かったから綿に埋まったら温かいかと思って……」
「呆れた」
未だに増加していて廊下にまで溢れようとしている綿。
これ程魔法の効果が出せるという事は、魔力は強いほうなのだろう。
魔法の使い方をマスターすれば、性格も良いパートナーは良い魔法使いになるはずだ。
僕は杖を構えて、増え続ける綿を一瞬で消す。
パートナーは救いの神でも見るかのように、僕にありがとう!と言って拝んできた。
「部屋の中は自分で片付けなよ」
大量の綿に埋もれたせいで机の上の物は床に落ち、家具も押されて移動している。
パートナーはうん!と良い返事をして、部屋の中に入っていった。
「片付けたら呼ぶから、それまで談話室に居て」
「分かった。早く片付けてよね。談話室は薄暗いんだ」
「頑張るね!」
溜め息を吐いて、階段を下りる。
談話室に純血主義が居なければ良いんだけど。
そう思いながら談話室を見ると、平凡な人達だけだった。
これならゆっくり本を読むか、無駄話をして情報を仕入れるかして時間をやり過ごせるだろう。
ひとまず一人掛けのソファに腰を下ろして、本当は部屋で読む予定だった本を開く。
新しい魔法薬の作り方は、なかなかに面白い。
まだ僕が入手するには困難な物が沢山あって、教科書に載っているのに作れない魔法薬もあるけれど、将来的にはすべて一度作ってみたいものだ。
それに、魔法薬だけではなく、魔法も全て使ってみたいし新しいものを考案したい。
攻撃魔法は純血主義のおかげで試作利用も出来るし、今度は何を作ろうかな。
見た目が綺麗な物が良い。
前にナメクジを吐かせる魔法は相手が悲惨だったから効果は絶大だったけれど、見ているこっちまで気分が悪くなったから使用は控えよう。
次は、何にするかな。
煩い口を塞ぐ魔法はレパートリーも増えてきているし、次は魔法を満足に使えなくするのが良いかもしれない。
「トム・マールヴォロ・リドル君だよね」
後ろからフルネームを呼ばれて、誰だと思って振り返るとソファの背もたれに手を置いて僕を覗き込もうとしている年の近い男。
同学年の純血主義の馬鹿達と一緒に居る所を何回か見かけた事がある顔だ。
後ろに取り巻きでも連れているのかと思って相手の後ろを見るけれど、誰も居なかった。
純血主義が一人で僕に話しかけてくるなんて、どういうつもり?
「僕はナチ・サハラ」
ナチ・サハラ?
どこかで目にした、耳にした名前だ。
どこでだっけ?
女子が騒いでいたのは覚えているんだけど、あんまり記憶に無い。
じゃあ、どこかで見た記憶は、いつの物なのだろう?
記憶をひっくり返して探していると、テストの結果が出てきた。
それで分かる。
「あぁ、ナチって、同点の人?」
相手はえ?という顔をした。
何さその顔。
まさか、自分は有名人だとでも思っていたの?
残念だけど、この学校の全員が君を認識している訳ではないんだよ。
純血だかなんだか知らないけど、驕るのは大概にしなよね。
「で、何の用?」
「いや、用って程ではないんだけどね」
「そう。じゃあ僕は本を読むから話しかけないでくれる?」
「えー。そんなに嫌われているの?僕」
「だって君、純血主義だろ?」
さらりと言えば、相手はまた驚いた表情。
君、何にそんなに驚くのさ。
僕は真実を言っただけだよ。
「僕は純血主義じゃないよ」
「僕が見た限りでは、そっち側の人間とつるんでた筈だ」
「それは顔見知りだからだよ」
「どうだか」
「取り付く島もないなぁ」
相手は困ったように笑って、まだ僕の傍に居続ける。
何を考えているんだか。
取り付く島もないって分かっているなら、さっさとどこかに消えなよ。
僕は僕を蔑む言葉を口にする連中と仲良くするつもりなんて無いんだ。
どうせ僕と仲良しこよしをして、純血馬鹿達へこっちの情報を売るつもりだろう?
それくらいでしか、こいつが僕に話しかける理由なんて無いんだから。
「ねぇ、リドル君は何を読んでるの?」
「魔法薬学の教科書だよ」
「勉強好きなんだね」
勉強好きな奴がこの世にいるとすれば、それは変わり者だ。
僕だって、誰にも負けたくないという目標と、魔法への探究心があるから勉学に勤しんでいる訳なんだし。
そうだ。
同じ質問をして、困らせてやろう。
「君は好きなの?」
「うん。好きだよ」
あっさりと出された言葉に、は?と言ってしまった。
こいつ今、勉強を好きって言った?
変わり者じゃないか。
「好奇心が刺激されるじゃない。自分で魔法薬を作るのも楽しいし……あ、そういえば前にリドル君、あいつ等にナメクジ吐かせていたね。あれってオリジナルだよね?」
「うん。そうだけど」
「凄いね」
褒めて煽てて懐に入り込もうって言う魂胆か?
何を考えているんだか。
「トム君!」
後ろから大声で呼ばれて、何だと見ればパートナーが来ていた。
「トム君お待たせ、部屋を片付けたよ」
「時間かかりすぎじゃない?」
「ごめんね。ほら、行こう?」
パートナーは僕がさっきまで話していた相手を無視して、僕の手を引っ張るようにして部屋への階段を上っていく。
「またね、リドル君」
相手は笑顔のままに手を振る。
パートナーの態度からして、純血主義者以外にとってあいつはきっと好ましくない立場の人間なのだろう。
パートナーは純血で魔法界にずっと住んでいるのだけれど、誰とでもフレンドリーにしているから純血主義からは毛嫌いされている家庭なのだ。
そんなパートナーは部屋に入ると、ビックリしたぁ。と言ってその場に座り込んだ。
「君らしくも無いね。あんなに慌てて」
「だって、サハラさんだったんだもん。そりゃビックリするよ」
「何で?」
「ええ?知らないの?」
「だから、何を」
パートナーが話すには、ナチ・サハラの父親は官僚で、しかも純血主義の思考が強い人間らしい。
しかも家柄も良いから、純血チームとの繋がりが濃いとか。
「それに、サハラさんも純血の人達と一緒に居るし。トム君に何かするんじゃないかと思って」
「僕は何かされるような人間じゃないよ」
「それは分かっているけど……授業でも、そつなく全部こなすから、もしトム君に本気で挑んで来たら、トム君も危ないんじゃないかなって」
「呆れた。僕の心配?そんな考え持つ前に、自分の心配をしなよ」
綺麗になった机の上に本を置く。
パートナーは情けない声を出して、慌てて机に置かれた赤点のテスト用紙を隠しながら勉強頑張るよ、と言った。
ナチ・サハラは良く見れば目立つ奴だった。
今までまったく意識したことが無かったから気付かなかったけれど、見ていれば分かる。
あいつはリーダーシップのある奴だ。
それに、純血主義とばかり居ると思っていたのは、僕が純血主義の奴らが何処にいるか確認していたからであって、他の時に見かけると別寮の人とも平然と話していた。
教材を抱えている女子が居れば当然のように手伝うし、扉を開けるのだって当然のようにしている。
周りへの気配りが当然のように出来る人間みたいだ。
それをパートナーに言うと、前は純血主義の人達とばかり居たんだけど、どうしたのかな?と首を捻る始末。
本当は前から誰にでも話しかける奴だったんじゃないの?と言うと、そうじゃなかったと思うんだけど……と気弱な発言が返ってきた。
あれだけ息巻いて僕に注意していたくせに、何さその態度。
本当は、注意する必要も無い人間だったんじゃないの?
「あ、リドル君。お疲れ」
また女子の荷物持ちの手伝いをしているナチ。
隣の女子は嬉しそうにしていて、ああそういう事か。と理解する。
見た目も良いし性格も紳士的。更に頭も良いとくれば文句無いのだろうね。
「ナチさん?」
歩みを止めた僕に、ナチも足を止めたからだろう、女子は不思議そうな顔。
「ごめん、先に行っていてくれるかな?」
「え?」
女子は分かりやすいくらいにしょげる。
何だよこの状況。
まるで僕がナチを取ったみたいじゃないか。
「教授が荷物を待っているんじゃないの?届けてきなよ」
「じゃぁリドル君も一緒に行こうよ。この子の荷物を半分持ってあげて」
この子、と言うのは勿論女子のことだ。
レイブンクローの女子は驚いた顔をした。
見れば、ナチが2/3を持っているようだけど、全体の量が多くて女子は持ちづらそうだ。
「貸して」
女子は良いんですか?と問うてくるから勿論だよと笑顔で返して荷物を受け取る。
うわ、結構重いな。
「私も少し持ちます」
女子は食いついてくる。
さっきの様子からして、ナチは僕と二人で話したそうにしていた。
僕としては、ナチと二人きりで話すことなんて無いからこの子も一緒の方が好都合だ。
「じゃぁ、ナチの荷物を少し持ってあげて」
「分かりました」
ナチから筒状の方眼紙を受け取る女子。
教授の部屋まで荷物を運ぶ間、ナチは女子だけでなく僕にも話を振ってきた。
おかげで僕まで話題に入らなければいけなくなる。
まぁ、話の内容は楽しいから良いんだけど。
「ありがとう御座いました」
「良いよ。困ってる時はお互い様だからね」
「リドルさんも、ありがとう御座います」
「あれくらい、お安い御用だよ」
女子はクス、と笑って、リドルさんって話しやすい人だったんですねと言った。
その言葉にえ?と思っていると、女子はさっさと寮に帰る道へと軽い足取りで行ってしまう。
「話しやすい人だって」
ナチは笑う。
でもそれって……
「裏を返したら、話しかけづらいって思われていたんだろ?」
「まぁリドル君、綺麗だし。女子としては話しかけづらいんじゃない?普段あんまり笑ってないし」
「楽しくも無いのに笑っているほうが気持ち悪いだろ」
「そうだけど、う〜ん。何だろうね。僕としてはリドル君は話しかけやすいけど」
「それは君が誰にだって話しかける癖が付いているから、鈍感になっているだけじゃないの?」
「ええ?誰にでも話しかけているつもりは無いけど……」
「さっきの子、レイブンクローだったじゃないか」
「うん」
「昼にはグリフィンドールの人達とクリケットしていたね」
「え?何で知っているの」
「たまたま見かけたんだよ」
ナチはそっか、と言って笑う。
「僕ってほら、人見知りするからさ、今まで顔見知りとしか一緒に居なかったんだけど、それって凄く勿体無いって思ったんだ。だって、4つの寮に割り振られただけで仲良く出来ないなんておかしいと思わない?例えるなら同じ血液型の人としか仲良く出来ないって事じゃないか」
後半は良く分かる言い分だ。
確かに、他寮だからと言って壁を作る必要は無い。
でも前半、ちょっとおかしだろう。
人見知り?ナチが?
ここ数週間見ている限り、君が人見知りしている要素なんて微塵も感じなかったんだけど。
現に、昼にグリフィンドールの人とクリケットで遊んでいたじゃないか。
「君が人見知りなら、世の中全員が人見知りだね」
「それって褒めてくれているんだよね?照れるなぁ」
「ポジティブにも程があるね」
「よく考えないと、楽しくないでしょ」
ナチは笑って、ね?と同意を求めてくる。
煩いな。
そうだとは思うけど、何でも楽しくなんて思えない。
「僕はナチじゃないから分からないよ」
言って、あれ?と思う。
僕、何でこいつの事を呼び捨てにしているんだ。
ナチを見ると、気にした様子もなくて。
凝視していたのが気になったのだろう、どうしたの?と訊かれる。
「何でもない」
「そうは見えなかったけど。僕、変な事を言ったかな?」
「さっきからだいぶ変な事を言っているよ」
「ええ!?リドル君が変に思うような事を言ったかな」
「それ」
「どれ?」
「分からない?」
「うん」
呆れた。
さっきは女子に対して、凄い気配り出来ていたのに、こんなところでは鈍感なんだ。
「僕に『くん』をつけないでくれる?君、知り合った子は基本呼び捨てだろ?」
「そうだけど……本当、何で僕の事そんな知っているの?もしかして僕の事を好きとか?」
「気持ち悪い冗談はやめてよね。君の声、大きいから嫌でも耳に入るんだよ」
そんなに大きな声出しているつもりは無いけど、と言うナチ。
これ以上詮索されるのはごめんだから、相手に畳み掛けるように言葉を繋げる。
「とにかく、僕のことはリドルって呼んでよね。君みたいな、誰にでも馴れ馴れしい奴が僕にだけ他人行儀なんて気持ち悪くて仕方ない」
「うん。分かったよリドル」
ナチは嬉しそうに笑った。
何が嬉しいのさ。
そう言いたくなったけれど、まぁ良いかな、と思わさせる何かをナチは持っているみたいで僕は口を閉じる。
「ねぇリドル、明日も昼休みにクリケットやるんだけど、リドルも参加しない?」
「冗談。僕はゆっくり過ごすのが好きなんだ」
***
神村様、この度はお祝いのメッセージ及び「僕らの時代の番外」のリクエストをありがとう御座います!
どんな内容でも良いとの事だったので、僕らの時代のリドルと男主の馴れ初め(?)を書かせていただきました!
好き勝手書いていたら、物凄い長文に……。
「こんな感じのが読みたかった」というのがありましたら仰って下さいませ。何度だって書かせていただきます!僕らの時代だけでなくても、他にも読みたいのがありましたらどうぞ仰って下さいませ。
11月末までリクエストは随時受け付けていますので、喜んで執筆させていただきます!!
それから、Twitterを荒らしているのは私ですよ!
いつも神村さんのツイートを見て一人ニヤニヤしています。
元気をもらえているんです。本当にありがとう御座います。
話しかける勇気の無いへっぽこ葦ですが、声をかけていただけるとその場ジャンプするくらい喜ぶので、ぜひ絡んでやって下さいませ。
サイトのクオリティは元々簡素だったので手間がかからず、無事に6周年を迎えることが出来ました。
今後もこの簡素スタイルで運営していきたく思いますので、何卒よろしくお願いいたします。
それでは、本当にリクエストありがとう御座いました!
2013/11/23
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