ハリポタ 僕らの時代 | ナノ
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スリザリン寮は2人で一室になっている。
僕のパートナーは内向的な奴だから軽く笑みを浮かべて朝と夜の挨拶と、たまに雑談をすれば上手く扱えるのだけれど、ナチの方はパートナーと上手くいっていない。
理由は一応訊いたのだけれど、ナチ曰く「価値観の違いってやつ?根っこの部分から違うんだから親しくなれっていうのが無理なんだよ。まぁ表面上はこっちが合わせてやってるんだけどさ」だそうだ。
ナチが人付き合いで溜め息を吐くのは、パートナーと、そのパートナーの仲間を相手する時くらいだろう。
誰とでも会話を弾ませるのがナチが苦戦する相手というだけあって、僕も僕でそいつらの事が嫌いだ。
口を開けば純血純血、人を非難するのを楽しみにしてる様な奴の集まりで、精神的向上が無いというか、そんなお前はどうなのかと言いたくなる。
訊くだけ無駄だから訊かないけどさ。
そんなわけでナチはそんな相手が居る部屋に帰りたがらず、談話室か図書室か、もしくは僕の部屋によく姿を現わす。
ナチが僕のパートナーに多少気を使ってなのか話題をふったりしているからなのだろう、僕のパートナーはナチに懐いている様で、ナチが居ても嫌がるどころか見つければ手招きする程だ。
冬休みの初日。扉が叩かれて、返事だけ返すと入って来るのは例の如くナチ。
僕はどうせナチだろうと思っていたから、ベッドに寝転んだまま本を読むという行儀悪い格好のままナチを迎え入れる。
「どうしたのさ嬉しそうにして」
いつも嬉しそうにしていのは知ってるけど、今日は異様なほどだ。周りに花が散っているように見えるよ。
「今日から冬休みだからね」
それだけの事でここまではしゃげるのは凄いよ。
いつもの笑みは余裕綽々っていう感じなのに、今日はだらしがない笑みだ。
「でもナチ君は今日帰っちゃうんじゃないの?毎年、今日になると嫌々帰ってたんじゃないっけ」
ナチは僕のパートナーに笑いかける。
本当に上機嫌だね、笑顔が胡散臭くて気持ち悪いよ。
「今年は帰らなくて良いんだよ」
「えーっ!?そうなの?良かったね。ナチ君ずっと残りたがってたもんね」
自分に対して優しい人には、ナチはとことん甘い。
だからだろう、笑みがより濃く顔に刻まれている。
「ん、ありがとう。ねぇリドル。少し城内を散策しようよ」
「嫌だよ、いつも歩き回ってるのに休みの日までもなんて面倒臭い」
「そんなお年寄りみたいな事を言わないの。若いうちに苦労は買ってでもすべきだっていう諺を知ってる?」
「煩いな。僕の自由だろ」
睨み付ければ、わざとらしく怖がる仕草。
すぐに口の端をつり上げているようでは、そんな仕草する意味は無いんじゃないの?
「良いから行こうよ。リドルはキッチンがこの城のどこにあるか知ってるかな?」
「興味無いね」
「え?あるの?キッチン」
パートナーが話に加わってきて完全にナチのペースに乗る。
単純なパートナーはナチの話術に乗りやすい。
それが良い迷惑なんだ。
これ以上会話を続けてるとナチとパートナーの二人に一緒に行こうよと煩く言われそうだ。
それなら、まだナチだけの方が良い。
パートナーは嫌いではないけど、単純だしちょっと間抜けだし煩いから、四六時中相手をするのは少し疲れるのだ。
「行けば良いんだろ」
「流石リドル。話が早い」
「妥協したんだよ」
「ねぇナチ君、トム君、僕も行きたいんだけど良いかな?」
「勿論良いよ。あ、でもさっき、君とダンスを踊る女の子が談話室で君を探してるみたいだったけど」
パートナーはクリスマスのダンスの話を持ち出されて顔を赤くしたと思えば、一気に青ざめた。
「急がないと!」
「いってらっしゃい。仲良くね」
大慌てで部屋を出て行くパートナーに、ナチは苦笑しながら手を振る。
「なにあの急ぎっぷり」
「おおかた約束を忘れてたんだろうね」
ナチは喉で笑う。
部屋に入って来て最初にパートナーに言ってあげれば良いのに。
「リドル、行くんでしょ?いつまでベッドに横になってるのかな?」
「……分かったよ」
本を閉じてベッドから起き上がって、靴に足を突っ込む。
ナチは扉を背もたれにして立っていた。
靴を履き終わり、マントを羽織って部屋を出る。
談話室にはパートナーとその彼女が何やら話していたけれど、険悪な雰囲気ではないようだ。
パートナーが頭を下げて、彼女は安心したように微笑んでいたから上手くいっているのだろう。
「それにしても何でスリザリンは地下なんだろうね。暗い分視力が下がっちゃうでしょ」
「そんなの作った奴に聞きなよ。……サラザール・スリザリンに」
いつもならすんなり言える言葉なのに、最近はいつも通りに口に出す事は出来るけれど胸に何かが引っかかる。
それは僕がサラザールの血を継いでいると、最近自分が蛇語を話せるのに気付いて認識したせいなのだろうか。
だからといって、たかがそんな事で何で胸に蟠りを感じなくてはならないのだろう
血を受け継いでいるというだけで僕は僕なのだから気にする必要は無いのだと分かっているのに意識してしまうのは、きっと初めて自分の血縁者を身近に感じたから、少し感傷的になっているだけ。
そう、だろう?
ナチを見ると、ナチは僕のサラザールという言葉に違和感を見つけなかったようで、未だにスリザリンが地下である事について考えているようだ。
僕がサラザールの血縁者である事は、ナチにも話していない。
話さないのは、話す必要が無いからだ。
ナチも僕も、親とかそういう血縁関係に興味が無いくて、自分は自分という考えの人間なのだ。
だから言わない。
それに何故かは分からないけれど、言ってはいけないような気さえするのだ。
「まぁ隠れ家的で良いけどね。洞窟っぽいし、これで鍾乳洞や小さくても良いから滝があってマイナスイオンがたっぷりなら申し分ないんだけどねぇ」
「そんなに注文つけるならナチが滝を作れば良いだろ」
「滝だけを作ったらただでさえ地下で湿っぽいのに更に湿度が上がってしまうでしょ。滝を作るならもう少し換気面の改良も必要になるね。そうそう、キッチンも変なんだよ。流石魔法学校って言うべきなのかな」
「その変な物を見つけるナチもナチだよね」
「偶然見つけたんだよ」
「どうだか」
そんな話しをしながら向かった先は全寮が食事をする場所、つまり大広間。
「ここにあるの?」
「まさか。繋がる場所はあるけどね」
ナチは時間的に人が殆どいない大広間を進み、巨大な果実皿の絵の前に立った。
「リドル」
手招きされて仕方無く隣りに並ぶ。
「これが入口」
「ただの絵だろ」
見たところ仕掛けも無い。
ナチを見ると余裕の笑みを浮かべてて、自分の反応が予測されていたのだと気付いて悔しさを覚える。
「まぁ見ててよ」
ナチは人差し指を伸ばし皿の上に乗っている梨を擽った。
絵を擽るようにして何がしたいのだと横目で見ると、ナチはもう片方の手で絵を見ろと示す。
絵を見ると、梨が身震いしていた。
「気持ち悪いんだけど」
「僕が擽ったから笑いを堪えてるんだよ」
少しすると、そこにドアノブが現れた。
ナチがそれを掴み、扉を開け僕を先に入れる。
入った瞬間、世界は変わっていた。
天井は高く、石壁に沿って調理器具が無秩序に積まれている。
「厨房だよ」
ナチが後ろに立っていた。
ナチを振り返って見ると、一瞬だけだったが困った様な表情に見えて驚く。
瞬きしたらナチはいつもの表情で、僕がじっと見ているからどうしたの?と問われてしまう。
何でもないとしか返せなかった。
だって、ナチが厨房に来て困った顔をするなんてあり得ないだろう。理由も無いし、きっと照明による見間違いだ。
「いらっしゃいませ!」
甲高い声が耳障りに響く。
黒板を爪で引っ掻くような、全身に鳥肌の立つ音がした。
「屋敷僕だよ」
ナチが言うそれを、僕は初めてそれを見た。
僕の腰より下の背丈の身体に尖った耳、細長い鼻。
大きな目玉は顔から落ちてしまいそうだ。
服もちぐはぐな組み合わせだし、指が身体に対してあまりに長い。はっきり言って不気味だ。
「……」
「ナチ様、今日は何をなさりに来たのですか?」
「見学。だから皆、自分の仕事に戻りなよ」
「かしこまりました」
黒板を爪で引っ掻く様な声を出しながら去るそれらに、身体から力が抜けていく。なんだよ、あの音は。ゾッとするね。
ナチは笑って、
「ね?キッチンあったでしょ?」
「あのさ……」
「ん?」
「あの音、苦手なんだ」
立ってられるのが不思議なくらいに全身から力が抜けていて、壁にもたれかかって足を支える。
あの音は昔から嫌いな音だ。
孤児院の馬鹿が周りの奴を威嚇する為に黒板を引っ掻いていた音で、その時の嫌な光景が目に浮かぶ。
ナチは僕の腕を掴んですぐに外へと僕を連れ出した。
萎える膝を奮い立たせてどうにか自分の寮の席まで自力で行き、座る。
「ごめん。知らなかったとはいえ嫌な思いをさせちゃったね」
「別に良いよ」
ナチは僕がそれを嫌っていると知らなかったのだから仕方ない。
あくまでナチは厨房を見せたかっただけで、屋敷僕を見せたかった訳ではないのだから。
ナチは苦手なものなんて無いのに、苦手なものがある自分が嫌だ。
弱点を持つ自分が嫌になる。
情けない。
「ナチは平気なの?」
そう言うと、ナチは困ったように笑った。
さっき見たあの表情と同じそれに、見間違いでは無かったのだと気付く。
「馴れっていうのかな?小さい頃からああいう声を聞いてるから。まぁ元々平気なんだろうけど」
ナチの家には屋敷僕がいるのだろう。
屋敷僕を見て家を思い出して、あの時一瞬に困った様な顔を見せたのだろうか。
僕には家族という存在が無いから分からないけれど、ただ家を思い出すだけであんな顔をするなんて、そんなに家が嫌いなのだろうか?
ナチは僕の顔を見て、肩を竦めながら、それでもいつもと同じ軽い口調で世間話をするように言った。
「屋敷僕はね、主人に言われた事には逆らえないんだよ。絶対服従。それが当たり前。自分の存在は主人の為にってやつ?」
テーブルの上に置かれた果実皿から林檎と銀のナイフ、それと皿を取り、皮を剥き始める。
手先が器用なナチは林檎の皮をスルスルと剥いていく。
皮を剥いて種の部分を切り取り、適当な大きさに切った林檎を乗せた皿を僕の前に置いた。
「気持ちが悪い時に果物って良いんだよ。この林檎は蜜もたくさん入っているし、食べてごらん」
果実皿に置かれていた濡れタオルで銀のナイフを拭き、元の場所に戻すナチ。
僕は一口だけ囓った。
シャリッと鳴り、口内に広がる甘味と酸味。
気持ち悪さが拭われる様だ。
林檎を食べるだけの静かな時間を過ごしていると、ナチが急に席を立った。
「どうかしたの」
「ちょっとした野暮用。リドルはまだ顔色が悪いからここに居なよ、すぐに戻るから」
ナチは笑ってそのまま大広間を早足に出て行った。
何だ野暮用って。
そう思いながらも僕はまだ身体があの音で脱力していて、立つ気にはならなかった。
林檎を囓る。
もしかしたらナチは好きな人でもいて、見かけたから急いでダンスを申し込みに行ったのかもしれない。そんな考えが頭に浮かんだ。
どんな女なのだろう、ナチが好きになるのって。
ナチは面食いというよりは、中身に惚れるタイプだと思う。
確信は無いけど、中身重視ではないだろうか。
そういえば僕らは一度も好いた惚れたの話しはしていないな。
否、あの子可愛いねくらいなら以前ナチが言ったりするのを聞いた事はあるけど、でもそれ位だ。
それにナチがそれを言う時は決まって周りにも他の男がいる時で、そういう話題の時だった。
つまり周りに合わせて話すのは見ているけど、ナチが素で女子を好きになった姿は見た事が無い。
暇な事もあって、僕は席を立って大広間の出口に向かった。
人を干渉するのは好きではない。
ただ大広間にいるのに厭きたから大広間を出るのだと自分自身に言い訳をして大広間を出ると、少しだが立ち止まってある場所に視線を向けているギャラリー。
ギャラリーの中心にはナチと、出立の準備をしたナチの部屋のパートナーとその仲間。
パートナーの声は大きいから聞こえるけど、こちらに背を向けているナチの声はよく聞こえない。
「ねぇ、何かあったの?」
ナチのいる場所に少し近付いて、近くにいた女子に話しかけると女子は驚いた表情をして、頬を赤らめながらもごもごと口を動かした。
「よく分かんないんだけど、あの人達がナチ君の事を笑っていて、ナチ君は最初聞き流してたんだけど、急に言い返したの。それで言い返されたのが悔しかったみたいで、今あの状況なんだよ」
効率の悪い話し方ではあったけれど、おおまかな事は分かったからよしとする。
ナチの方を見た。
何を言われたのかは知らないけど、ナチが相手するのも面倒な奴にわざわざ言い返すなんて珍しい。
いつもは何を言われても馬鹿の言う事に貸す耳は無いね。という体制を崩さなかったのに。
何があった?
「サハラ、お前あんまり図にのんなよ!」
「のった覚えは無いんだけどねぇ。むしろ僕から見たら君の方が図に乗り過ぎてると思うんだよ。見なよこのギャラリー。君の声が無駄に大きいから集まってるって分かってる?」
後ろ姿しか見えないナチは腰に手をやって、やれやれと頭を振る。
「弱い者こそよく吠えるって言うけど、本当だね」
明らかに挑発だ。
こんなナチ、僕でも滅多に見る事は無い。
というか見た事が無い。
冗談めかして相手を挑発する事は今までも何度かあったし、それは見た事がある。
でもそれは親しい仲間の内での話であって、程度をわきまえていたし相手を本気で困らせたり追い込んだりする事は言わなかった。
最後にはフォローを入れて元の状態に戻していたし、あからさまに馬鹿にする様な台詞は仲間にも使わないのがナチだ。
今までどうでも良い奴を相手にする事は無かったのに、一体どうしたというのだ。
「お前みたいな混血や汚れた血としか付き合えない奴、純血だなんて認めないからな!」
「おかしなセリフだねぇ。いつ僕が認めて欲しいって頼んだのかな?同族意識ばかり強くて特定のグループとしか付き合えないような閉鎖的な君達に」
相手の顔が赤くなったのが遠目からでもはっきりと見てとれた。
相手は三人で、ナチは一人。
僕は内ポケットに忍ばせた杖に触れる。
「口ばっか達者で純血とは付き合えない様なてめえにどうこう言われたくねぇっ!」
ローブの中に手を突っ込み相手が杖を抜こうとするが、それより早くナチの腕は相手に向かって伸びていた。
手にはもちろん杖が持たれている。
「その言葉そっくりそのままお返しするよ。非難ばかり言って純血としか付き合えない君にね」
ナチの勝ちだった。
少しでも相手が動けば、今のナチは迷わず魔法を使うだろう。
「どうしたのかな?この人だかりは」
後ろからの声に驚く。
振り向けば、変身術のダンブルドア先生だ。
ナチもこちらを向いて、ダンブルドア先生を視界に入れると杖を下ろした。
そして不用心にも先程まで言い争っていた奴に背を向けて、僕とダンブルドア先生の方を向く。
「ナチ、どうしたのかな?」
「特に大した事ではないですよ。先生も小さい頃は同年代の子と喧嘩をなさったでしょう。それです」
そんな軽い喧嘩ではないだろうと言いたくなるが、僕の後ろにいるダンブルドア先生は頷いてそうか、と言った。
僕らがダンブルドア先生を評価するのは、こういった深く介入してこないところだ。
「そこの三人、早く行かなくては列車に乗り遅れるぞ」
三人は隙有らばナチに魔法を撃ちたかったのだろうが、ダンブルドア先生がいるので撃てるはずも無く、悔しそうに学校から出て行った。
完全に居なくなるのを見届けてから、僕も杖から手を離す。
ナチは僕達の方に来て、済みませんでした、と言った。
「目立つ行動は控えたかったんですが、僕もまだ未熟で自分に正直に動いてしまいました」
いつものナチらしい物腰柔らかで流暢な話し方に、さっきまでの言い争いが嘘の様に思えてしまう。
僕を見てナチは詫びるように片手を上げてみせた。
「若い時は様々な葛藤があるもの。魔法を使わなかった事は褒めよう。じゃが自分を律するのも大切じゃよ」
「心得てはいるんですが、なかなか上手くは」
「他人の為に怒れる事は良い事じゃ。その気持ちを忘れるでないぞ」
「勿論です、ダンブルドア先生」
笑みを浮かべて返事をしたナチにダンブルドア先生は頷いた後、僕らを交互に見た。
ナチは僕に寮に帰ろうかと話を持ち掛けてくる。
「そうだね」
それだけを返事に、僕らはギャラリーの視線が痛いので寮にはそのまま戻らずに人が殆ど来ない、でも日当たりの良い廊下に向かった。
ここはナチが発掘した場所だ。
着いた途端に、ナチが珍しく反省を口にする。
「冷静に対処出来ないって嫌なもんだね」
前髪を掻き上げて笑いながら言うものだから、本当にそう思っているのかすら分からない。
それでも一応話しを合わせるべきだろうと思えて、いつもの僕らしく言った。
「冷静じゃなかったんだ」
「かなり」
それにしては口調は流暢だったし、いつもの態度は崩していなかった。
後ろ姿しか見えなかったから心中がどうだったのかは分からないけれど、飄々としていて相手を挑発するにはうってつけな態度だったよ。
「冷静に見えてた?」
「後ろ姿だけだけど」
「なら良いや」
ナチは窓を開けて冷たい空気を校内に走らせたけど、顔を顰めた僕を見てすぐに窓を閉めた。
「度々嫌な思いさせてごめんね」
「……別に良いよ」
混血って言われるのには馴れているから。
ダンブルドア先生の最後の言葉で確信した。
ナチは仲間の事を言われて言い返したんだろうって。
そして今のナチの言葉から、その仲間というのが僕なのだという確信が揺るぎないものになった。
元々ナチは名家の人だから、僕のような混血やマグル出身の人といる事で色々と言われているのは知っている。
それにナチは社交的だから男女ともに人気があって、そんな彼と一緒にいる事で僕が純血の奴らから混血の分際でと言われているのも知っている。
僕らは互いにそういうのを気にしていなかったし、それに何年も一緒にいるうちに、誰も表立っては言ってこなくなっていたのだ。ナチのパートナー以外は。
ナチが怒る内容ってどのようなものだったのだろうかと思ったけど、自分の悪口を聞くのに馴れてる僕は良いとして、言わされるナチは嫌がるだろうから訊かないでおこう。
「もうじきクリスマスだねぇ」
「そうだね」
窓の外は雪が降っている。
ナチは黙って窓の向こうの雪を見ていた。
「リドルは雪ダルマを作った事ある?」
「一年生の時に、君に無理矢理手伝わされたよ」
「あれ?そうだっけ?」
「そうだよ」
「何か嫌な記憶として残ってるように聞き取れるんだけど」
「指がかじかんで痛かったのが記憶に鮮明でね」
「そっかぁ」
軽快な笑い声。
深々と降り積もる雪。
外で雪ダルマを作っている人が見えるが、背丈から見て低学年だろう。
「今から寮に行ってさ、防寒着を着て外に出ない?」
「本来なら断るけど、今日は良いよ」
それはナチが落ち込んでいるからだとか、そういう事ではないのだと伝えるのは、ナチがこういった気遣いを直接受けるのを好まないからだ。
人に気を使うくせに、気は使わないでくれとつっぱねる君は扱いづらいったらないね。
「林檎のお礼、まだだからね」
僕の台詞に、ナチはようやく声を出して笑った。
弾ける様にひとしきり笑って、笑いすぎて浮かんだ涙を指で拭いながら僕を見る。
「リドルには敵わないなぁ。じゃあこれからどんどん林檎を剥いてあげるよ」
「こういうのは一度きりなんだよ馬鹿。早くしないと僕の気が変わるよ、良いの?」
「じゃあ急ごう」
寮まで早足で歩くナチに今度は僕が苦笑する。
「そんなに雪が好きなの?」
「雪も好きだけど、なにより外に出る事が好きなんだよ」
寮に入るとナチのパートナーを嫌っていた人が寄って来て、ナチによくぞ言い負かしたと言ってきた。
ナチは賛美の言葉を適当に聞き流して防寒着を取りに部屋に向かう。
僕も部屋から防寒着を手に持って談話室に戻ると、パートナーとナチが何かを話していた。
「二人は今から外に行くの?」
「うんそう」
「僕も行って良い?」
僕のパートナーが言って、ナチが頷いた。
最近は雪が降っているせいで室内にしか居られなかったからだろう、周りも触発された様に外に出たがって結構な人数が集まった。
「これだけの人数なら雪合戦をしようよ」
ナチの提案に皆が賛成した。
冬は皆、娯楽が足りないらしい。
「どうせなら楽しまないとね」
そう言ってナチは僕に笑いかけてくる。
「今日だけだからね」
僕はここまで周りがはしゃいでいるのでは仕方無いかと思い、雪合戦に参加する事にした。
皆ではしゃぐなんて変な気分だと思うけれど、嫌ではなかった。
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