ハリポタ 僕らの時代 | ナノ
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君も、もう周りから聞いたり僕との会話から推測して、僕の家がいわゆる名家と呼ばれる部類に属しているのだと気付いていたのではないかな。
父は昔から政界に顔が利く家の当主で、本人も官僚。
母も由緒正しきお家柄。
両方とも純血。
そんな家の一人息子として産まれたのが僕だ。
母は僕を産んですぐに亡くなってしまって、僕を育てるのは勿論父……とはならず、父に従順な屋敷僕。
父は仕事一筋で家族を顧みない人でね、家にはほとんど居なかったよ。
だから僕の育ての親は屋敷僕と、それから僕に勉強や作法、武術を教える先生。
嫌ではなかったよ?
だって僕は食事の世話と洗濯を屋敷僕にしてもらう以外にやってもらう事は無かったから満足だし、それに教師が一日中ついて勉強ばかりだったから、不満を感じる暇すらなかったかな。むしろ、この生活が普通なのだと思っていたよ。
疑いの目を向ける事なく日々を過ごしていたのは、僕がその生活にフィットしていたからなのかもしれない。体を動かすのも好きで、勉強は知的好奇心を刺激されて楽しかったから、この生活が何も苦にはならなかったんだ。
気付けば何学年も上の人が学ぶ事を教わっていた。
父は相変わらずで、家に帰って来ても書斎に籠って僕と顔を合わせようともしなかったけれど。
昔から嫌われていたのだと、今なら分かるよ。
だって話しかけると「何の用だ」「用が無いのに書斎に入ってくるな」と門前払いされた。
しかも「金は屋敷僕に渡しているから必要な物があったら屋敷僕に言え」だよ?話しかける口実すら作らせてもらえなかった。
でも子供って親の気をひこうとするものだ。
話しかける口実をノートに思い付く限り書いて、今日はこれを使おう。次はこれにしよう。って健気に父に話しかけようとしていた時期もあった。
すべて無駄だったけれどね。
まぁ、用が無かったら話しかける事も出来ない様な親子関係だったわけ。
これを親子だと言っても、血の繋がり以外は何もないでしょ。
もはや、他人だよ。むしろ、血の繋がりがあるから他人にもなりきれなくて、余計にタチが悪かったのかもしれない。
家では全くの他人のくせに、父は社交場には必ず僕を連れて行った。
学校に入る前に何学年も上の人が学ぶ知識を持っている子供は自慢なのだろうね。
否、自慢というか、僕も社交場に出ないと「あそこの息子は顔も出さない」って悪く言われそうだから連れ回していただけ。
すべて体面を気にするが故の行動。ついでに息子が賢ければ家名に恥じない。
そういう場では純血のお偉いさん達に会ってね、褒めそやされたよ。
褒められるのは嬉しかった。まぁ誰だって褒められて悪い気はしないだろう。
でも僕の場合は違って、年を重ねるごとに、様々な事を知るうちに、褒め言葉が嫌になった。
君は知っているかな?
人が人を褒めるのに使う定番の文句があるっていう事を。
「さすがはサハラさんの息子ですね」
「父親に似て素晴らしい」
「父親の育て方が良いから」
「サハラ家の名に恥じませんな」
この言葉達は凄く都合が良いと思うよ。
父親や家名を褒めつつ、息子も褒めるのだから。
最初は何も疑問に思わなかったよ。
言われ過ぎて感覚が麻痺していたのかもしれない。
何度も、何年にも渡って言われてきた台詞だから。
先程、僕はぼかした表現をしたけれど、様々な事を知るっていうのは自分の存在意義を知る事だ。
時々、失敗したり問題が解けなかったり、物分かりが良くなかったりすると、先生が決まって口にする言葉があった。
「サハラさんの息子なのに、こんな問題が解けなくてどうするんですか」ってね。
サハラ家の人間なら頭が良くて当たり前なんだってさ。
サハラ家の人間なら品行方正で当たり前。
父の息子なら出来て当たり前。
そういうもの?
どう考えたっておかしいだろう?
サハラという家の人間なら、何学年も上の問題が簡単に解けて当然?
そんな方程式がどこで成り立つんだ?
僕は努力して知識を身に付けていたのに、それをまったく努力もせずに知識を得ている様に言われるんだ。
「サハラさんの息子なんですから、出来ないはずがありません」
そう、何度も言われてきた。
前置きが長くなってしまったね。
この部分をまとめられる自信は最初から無かったんだ。
今だって頭の中がぐちゃぐちゃしている。
「さすがはサハラさんの息子ですね」
「父親に似て素晴らしい」
「父親の育て方が良いから」
「サハラ家の名に恥じませんな」
「ご立派な血筋で」
「サハラ家には期待していますよ」
昔も今も、そしてこれからも皆口を揃えてこう言う。
僕が何者なのかは関係無く、サハラ家の名に恥じない人でいなければならない。
父の息子らしく、父に似た、父と同じ様な人間でないと駄目。
僕の意思は関係無い。
サハラ家の嫡子として、大嫌いな父さんに似ろと言う。
息子に話しかけたりもしない、息子に興味も無い、そいつに似ろって言うんだ。
冗談じゃない。そう思った。
思い通りになってたまるかって。
でも、そう思う反面、もう気付いていたんだ。
サハラ家に産まれていない僕は、父の息子ではない僕は必要とされていないことに。
サハラ家の産まれだから、父の息子だから周りから必要とされているのだと。
分かっているのに反発行動なんてとれるはずが無い。
一番嫌いな自分が、何よりも必要とされている。
父の息子としての、サハラ家の自分が逃避を許してはくれない。
分かってからは、もう痛みなんて無かったよ。
薄っぺらに笑顔を浮かべて相槌打って、話を合わせれば良いのだからね。
父や周りが望む様なサハラ家次期当主を演じるのは簡単だったよ。
弱いところなんてない、恐いものなんてない、何でも持っていて、何でも出来る賢い子。
それが僕だった。
そしてそれが、僕が君にこういった事を話せなくなる原因でもあった。
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