ハリポタ 僕らの時代 | ナノ
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ホグワーツに入学する時、父の考えに倣っていた家庭教師からは純血以外と付き合うなと言われていて、最初はそれに従っていたよ。
だって僕は言われた事さえ守っていれば良くて、親に従順であることが一番求められていたことなのだから。
それに僕自身が自我を持つから苦しいのだと理解していたから、純血と一緒にいるようにしていた。
けれど、周りを馬鹿にして見下して、それを生き甲斐にしている奴らばかりで、共に居るのは苦痛だったよ。
自分の価値も分からずに周りにばかり目を向けて、自分の努力で手に入れたものではない、産まれた時に与えられたものを着飾って満足しているだけなのだから。
くだらないと思いながらも話を合わせて笑顔を貼り付けて、相槌を打つ毎日。
そんな時に最初のテストがあって、結果が張り出されたら1位が2人もいて周りは騒いだし、僕自身も驚いた。僕以外にも一位を取らなければならない人がいるのだと勝手に思って、並んだ名前の相手……つまり君の存在を意識した瞬間だった。
同じ立場の人間がいるのかと期待したのだけれど、君は僕と違って純血ではなかったし、家名に振り回されているわけでもなく、マグル界から魔法界に来た数ヶ月で勉強して満点をとった実力者だった。
知ってた?入学当初から君は有名だったんだよ。
黒髪で紅い瞳のトム・M・リドル。
親が居なくてマグル界の孤児だって事は、君がトップをとった事に不満を持つ純血が蔑みの為によく使っていた言葉だ。
ここで、伝えるべきでは無いと分かっていながらも真実を語ろう。
僕が君に声を掛けたのは、同点だった君に対して興味を抱いたのでも何でもなく、自分より可哀想な対象が欲しかったからなんだ。
家名の為だけに存在する僕は、自分よりも可哀想な人が欲しかった。
だからあの時、一人で談話室に居る君に話しかけた。
自分より可哀想な人がいるから、僕はまだ良い方なのだと思い込む為に。
孤児に比べたら、僕はまだ幸せなのだと思いたくて。
ごめんね。
最低な理由だろう?
でもそれは最初だけだったんだ。本当だよ。
信じろという方が無理なのかもしれないけど、本当に最初だけだ。
覚えているかな?
僕が初めて君に名乗った時の事。
僕が「ナチ・サハラ」と名乗ったら、君は僕のサハラという家名を聞いても眉根を寄せて『?』って顔をしてから、「あぁ、ナチって、同点の人?」って言ったよね。
たったそれだけの事に何だと思われそうだけど、僕にとっては重要だったんだよ。
家名を聞くと大体の人があのサハラ家かという顔をするし、それに当時は皆、僕の事を名前ではなく家名で呼んでいたからね。
それはナチという名前よりも、サハラという家名に重点が置かれていた何よりの証拠になる。
なのに君は「誰だ?」って顔はするし、僕の事を最初から名前で呼ぶのだから、驚いたよ。
それと同時に嬉しかった。
初めて僕をただの一個人と見てくれる人が現れたのだからね。
この気持ちが分るかな?
絶対に叶う筈が無いと諦めていた事が急に叶ったようなものだよ。
大袈裟だと思われるかもしれないけど、救われた。
僕はずっと自分をただの一個人として扱ってくれる人が欲しかったのだから。
君にとっては何気ない言葉を発した瞬間だったにしろ、僕にとっては存在が認められた瞬間だった。
それからはもう君にまとわりつく日々になっていたね。
純血の奴は僕が狂ったと言っていたけれど、別に何て言われようと僕はかまわなかった。
肩書きなんてどうだって良いと、僕は僕なのだと、その時初めて思えた。
君は最初気難しい人で、親しくなれないかもしれないと思ったけど、僕の粘り勝ちで君と親しくなれた。
最初、君にとって僕は、煩い奴だったのではないかな?
馬鹿やって変な話題を持ちかけて、大袈裟な身振りをして、すると君は溜め息をつきながらも仕方無いなという態度で、僕の相手をしてくれた。
こっちのペースに巻き込んで、いつも仏頂面だった君を呆れた様に笑わせるのが僕になっていた。
だって君は呆れながらも付き合ってくれたからね。
だから絶えず君が呆れる様な事をやっていたかな。
でも親しくなったらなったで、疑問や不安が浮かび上がってくるんだ。
君は最初こそ僕の家名を知らなくてあの反応をしてくれたけれど、もし僕の親がどういう人かを知ったら周りと同じようにサハラ家の人間という目線で見てくるようになってしまうのではないかってね。
それは勿論杞憂だったのだけれど、それでも当時は不安だったんだよ。
僕はなにがしの子であってなにがしでは無いのに、皆はサハラ家の跡取りとしてしか僕を見ない。
そんな中で唯一、そういう目で僕を見ないでいてくれる君と一緒にいると、そういう目で見られるのが堪えられなくなってしまうんだ。
慣れって怖いと思う。
どんな痛みにも慣れていたはずなのに、少し傷が癒えると傷口が開くのをひどく恐れてしまう。
当時の僕はそんな感じだった。
でも君は周りから僕の話しを聞いても態度を変えることは無かったし、僕が少し家族の事を話してもだからなんだという態度でいたね。
嬉しかった。
君には何度も救われた。
でもね、だからこそ冬休みと夏休みは地獄だったよ。
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