モノノ怪 飽和する世界 番外 | ナノ
席替え:40000hit
席替えをした。
俺は運が良い事に一番後ろの席になった。
前には、いつも席は前に位置していた男。
頑張って優等生を気取っているけれど順位は下の奴だ。
「先生、僕は視力が悪いんで前の席が良いです」
だったらクジ引きを始める前に自己申告して教卓の前を陣取れば良い筈。わざわざ今になって言うとは、自己顕示欲の強い奴だ。
机に伏せて、耳障りな会話をやりすごす。
『お前なぁ、先に言えよ。先生言っただろ、後ろじゃ見えない奴は先に言えって』
『済みません』
『仕方ないな。よし、じゃあ西明』
犬猫の様に耳が動くなら、確実に動いていただろう。
よく口にする名前が他者に紡がれるだけで、ほんの少しばかり嫉妬を感じる自分は多分重傷だ。
顔を上げると、西明は窓側の最前列で教師を見上げていた。
「お前が席を変わってやれ」
西明ははぁ。とやる気の無い返事だけをして、席を立つと荷物を手に持って俺の前の席まで来る。
「いやぁ、悪いね」
未だ席に座っている男は、西明が隣に立ったところで漸く席を立ち、荷物を抱える。
西明は無表情だ。
周りには何とも感じていないようにとられているのだろう。だから西明はいつも淡泊だと誤解されやすい。
けれど俺には、心底面倒臭そうにしているのが分かる。
男が去った席に西明が腰掛ける。
動作一つ一つに真っ黒な髪も揺れて、綺麗だ。
つい手を伸ばして、一房を摘んでしまう。
「何」
少し不機嫌な声で、振り向かれる。
その顔はもちろん怪訝そうで、可笑しくて少し笑った。
他の人にはそんな顔しないくせに、どうして俺相手には表情をころころ変えるのか。
そういうのが俺を期待させると、西明はまったく気付いていない。
だから質が悪い。
けれどそれすらも愛おしくて、困る。
「ヘルプを出したら、助けてください、ね?」
「頼る気満々か……」
「だって、西明は、上位にいるじゃあ、ないですか」
「甘えるな」
髪を摘んだままの手が払われる。
そして背中を向けられてしまった。
先程の男に比べて細くて、華奢な背中。
半袖から伸びる二の腕も細い。
自分も大概華奢だと言われるが、西明も華奢だ。
「西明」
返事はない。
「西明」
「何」
「これから、お昼は楽、ですね」
いつも俺の前に西明が来たり、西明の前に俺が行ったりと、席がバラバラだと、食事が少し、面倒臭い。
けれどこれからは、このまま食事。
ただそれだけが嬉しい。
「西明」
「……」
「西明」
「はいはい」
背中をついと、指先で撫でる。
すると前にある華奢な体が机をガタリと揺らす位に跳ねた。
「おい西明、煩いぞ」
「済みません……」
教師の台詞に西明は苦虫を噛み潰すような気持ちなのだろ。
一瞬振り返って、睨まれる。
笑えば、眉間に皺を寄せて前を向かれる。
小さく笑うと、西明は背中を少し屈めて、ノートに何かを書き出す。
教師はまだ黒板に何も書いていない。
筆箱から定規を出した西明。
ついでノートを破る音。
すぐに長方形に綺麗に切られたノートの切れ端が机に置かれた。
四つ折りにされたそれを広げると、『次やったらヘルプの時に嘘を教える』と書かれていた。
思わず吹き出す。
「おいそこ、さっきから煩いぞ。次煩かったら即席変えだからな」
教師の呆れた声がする。
次の席替えが出来るだけ遅くなるように静かにしなければ。
あぁ、しかし。
この特等席にいては、静かにいられるわけが無い。
〜終〜
40000hit企画、凜様のリクエスト
『以前日記でやった高校生薬売りと骨董屋店主の続編』
でした。
リクエストありがとうございました。
凜様のみ、お持ち帰り可能です。
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