はいでえ!比嘉中!! | ナノ
ハロウィン企画:不思議の国の平古場ちゃん
キャスト
甲斐裕次郎…帽子屋
木手永四郎…女王様
田仁志慧……芋虫
知念寛………時計兎
平古場凛……アリス
不知火………ナレーター
その他部員…トランプ兵
Attention
皆、標準語です。
不思議の国
の
平古場
ちゃん
とある国のとある所に、平古場という男の子が居ました。
日本人のくせして金に染めた髪の毛が目立つのと、水色のワンピースに白のエプロンをしているという事で、地域では名の通った男の子です。
そんな平古場には、友達がおりました。
「おーい、ちねーん!」
平古場の友達は、知念という名の兎です。
大概森で一緒に沖縄武術の練習をしているのですが、今日に限って、知念の姿が見当たりません。
見た目からして朝に弱そうな知念。
しかしその実、知念は朝に強く、平古場が朝に弱いのです。
ですから、平古場が来た時に知念が居ない、というのは、おかしな話です。
「あいつ、風邪でも引いたかな」
昨日、平古場は悪ふざけが過ぎて、知念を泉に突き落としてしまいました。
ずぶ濡れで帰った知念の事が今更ながら、心配になってきます。
待ち合わせの森の中、やる事もなくて平古場は寝そべります。
「暇だ」
ぼやいても、誰も相手してくれません。
と、そんな時、遠くから凛くーん!と平古場を呼ぶ声がします。
それは聞き慣れた、知念の声です。
「おーい!遅刻だぞ知念!」
「遅刻してごめん。それから、ごめん!俺、今から行かなきゃならない場所があるんだ!」
「は?どこに?」
「ごめん!」
知念はポケットから出した懐中時計を気にして、もう行かなくちゃと言って駆け出しました。
足早に駆けてゆく知念に、平古場は一瞬ポカンとしましたが、すぐにハッとしました。
「待て!俺も行く!」
悲しいかな、足の長さの違いで知念のほうが足が速くて平古場はどんどん置いていかれます。
それでも平古場は追い掛けます。
しかし、知念はある所で急に姿を消してしまいました。
平古場は急に知念が消えた事に驚きます。
知念は細いですが背があるので、どこかに隠れるというのはまず無理です。
それに、知念には隠れる理由がありません。
「……何だよ」
平古場は知念が姿を消した辺りを歩きます。
つまらなそうに小石を蹴ながら歩いていると、小石がある所で姿を消しました。
平古場は驚いて、小石が消えた所に近づきます。
そこには、人一人が簡単に落ちそうな穴が開いていました。
知念が急に姿を消したのは、この穴に落ちたからなのではないかと思い立った平古場は、意を決して穴に飛び込みます。
「あがっ!」
その穴は、思った以上に浅く、平古場は足首を痛めました。
「……変な世界」
平古場が落ちた穴の向こうには、世界が広がっていました。
まるで自分が小さくなったかのように、草木が大きくなっているのです。
辺りを見回しても、ウサギの知念は見当たりません。
平古場はスカートが捲り上がったまま、ざかざかと大きな世界を見て回ります。
だいぶ見て回った時のことです。
「お前のスカート、捲れてるぞ」
平古場は驚いて声がしたほうを見ました。
そこには太った芋虫いて、茸の上からこちらを見ていました。
「いきなりセクハラするなデブ!」
「いいからスカート直せ、馬鹿!」
平古場はスカートの後ろを見ます。
すると、スカートは言われたとおり、捲れ上がっていました。
いっけね!と言ってスカートを直す平古場に、芋虫は溜め息を吐きます。
「つーか、誰だお前」
「俺は芋虫の田仁志だ」
「へー。なぁ田仁志」
「馴々しいなおい!」
「初めて会ったら友達で毎日会ったら兄弟だろ。で、田仁志、知念見なかった?」
「知念?」
「デカイウサギ。季節の変わり目で毛が生え変わってるから、前髪だけ白くなってるウサギ」
「あぁ、それならあっちに行ったぞ」
あっさりと教える芋虫の田仁志に、平古場は疑いの眼差しを向けます。
「本当かどうか確かめる。お前もついてこい」
「お前、何様だ」
「平古場アリス様だ」
平古場改め平古場アリスは、仁王立ちをして堂々たる姿でそう言いました。
面倒臭い奴に出会ったなぁと思いながら、芋虫の田仁志は茸から降りて平古場アリスの隣に立ちます。
「何でお前は知念追い掛けてんだ?」
「んー、俺との約束破ってどっか行ったから、俺との約束より重要な事が何か気になって追い掛けた」
自分中心な平古場アリスは、自分との約束を破って何かを優先されたのが気に入らないようです。
芋虫の田仁志は、確かにこの性格では『平古場アリス様』になるなぁと、ぼんやり思いました。
ついで、知念という兎がよくこんな我儘な平古場アリスと仲良くやっていけるなぁと、心の底から思いました。
「ちねー!」
平古場アリスが大声で呼び掛けますが、反応は返ってきません。
「知念いねーじゃん!」
「知念は駆けていったんだぞ?俺達、歩いて知念探してんじゃん。追い付くわけねぇよ」
当たり前の事を言う芋虫の田仁志に、平古場はそれくらい分かってるし!と強がりを言います。
それにしても、知念を探して歩いているうちに、雑草の群生地のような世界に来てしまったらしく、小さな平古場アリスと芋虫の田仁志は薄暗い森の中に居るような状態です。
「何か、ヤバくね?」
「ヤバいかもな。引き返すか?」
「それは白旗あげるみたいで悔しいから却下!」
何だよそれ、と芋虫の田仁志は言いますが、平古場アリスは良いんだよ!と言って田仁志の手首を掴んで前へ前へと進みます。
田仁志は帰りたいなと思いましたが、手首を掴まれています。
しかも平古場アリスはホラー系が苦手で、物音にびくついています。
この状態で一人にするのは可哀想だと良心が働いて、芋虫の田仁志は平古場アリスと共に行動する事に決めました。
さて、生い茂った草花のおかげで、お昼なのに夜の森のような世界。
前方に、ぽつりと灯りが見えました。
芋虫の田仁志と平古場アリスは顔を見合わせます。
「人が居るって証だよな?」
「アンコウみたいな敵じゃなけりゃな」
「怖い事言うなよ!」
「ま、此処は地上だし。大丈夫だろ。行くぞ平古場」
今度は芋虫の田仁志が、渋る平古場アリスを引っ張って前に進み始めます。
灯りの正体は、家の窓から漏れている明かりでした。
煉瓦造りの家の玄関には『帽子屋』の文字。
「帽子屋?」
「帽子屋の甲斐の家だ」
「知り合いかよ!」
そういえば、ここら辺に家あったっけ、と芋虫の田仁志は言います。
最初から知ってたらびびらなかったのに!と平古場アリスは悔しそうにします。
「おーい、甲斐!俺だ、田仁志だ。開けろー」
ノックをしながら田仁志がそう言うと、言い終わるか言い終わらないかの間に家の中が慌ただしくなりました。
すぐに開いた扉の向こうには、シルクハットとベストスーツという出で立ちの少年がいました。
「慧君いらっしゃい!」
「久しぶり」
「隣の人はどちら様?」
「俺、平古場アリス」
「俺は甲斐裕次郎。よろしくな!」
「おう、よろしく!」
何かが通じ合ったのでしょうか、帽子屋の甲斐と平古場アリスは握手を交わしました。
田仁志は煩い奴が二人に増えたと思いました。が、口には出しませんでした。
「裕次郎って帽子好きなんだな」
「帽子は体の一部だぜ!」
「それは無い」
「慧君ナイス突っ込み!」
「田仁志ナイス!」
せっかく人が来てくれたのだからとお茶を用意してくれた帽子屋の甲斐。
平古場アリスは知念を追い掛けていたのを忘れてしまったのか、お茶をご馳走になりながらクッキーにも手を伸ばします。
芋虫の田仁志もお菓子を美味しく頂いていて、兎の存在を忘れつつありました。
「ところで慧君に凛は、何でこんな所に急に来たんだ?事前に言ってくれればケーキも用意したぞ」
「あっ!そうだった。なぁ裕次郎、知念見なかった?」
「知念?」
「ひょろくて身長高くて、前髪だけ白い兎」
平古場アリスではなく、芋虫の田仁志が説明すると、帽子屋の甲斐はそれなら知ってるよ、と言いました。
「看板出してたら、道聞かれたんだ」
「マジで!?知念どこ行った?」
平古場アリスが急に食い付いてきたので、帽子屋の甲斐は少し驚きながらもえぇと、と記憶を遡ります。
「木手永四郎の城は何処かって言ってたから、木手の所に向かったんじゃねぇの?」
「木手!?」
芋虫の田仁志が驚きます。
平古場アリスは田仁志が驚いた事に驚きました。
「その木手って何か凄いんだ?」
「木手は殺し屋の異名を持つ……じょ、じょ」
「女王様」
「そう、女王様」
帽子屋の甲斐は机に突っ伏して、肩を震わせます。
「じゃあ知念、あぶねーじゃん!」
「そうだな」
「おい裕次郎!城まで案内しろ!」
「え、今お茶してる」
「良いから!」
凄い剣幕で平古場アリスが言うので、帽子屋の甲斐は頷くしか出来ません。
帽子屋の甲斐を先頭に、平古場アリスと芋虫の田仁志は駆けてゆきます。
着いた先には、紫色のお城。
目に痛いです。
「知念、何処だろ」
「あっちじゃねぇ?声するし」
耳の良い芋虫の田仁志が示した方角は、中庭がある場所。
勝手に中庭に入って声のするほうへ三人、ではなく二人と一匹は向かいます。
そこには、知念と、玉座に脚を組んで腰掛けている女王様の木手が居ました。
「えーしろー!知念に何してんだ!」
突然現われた平古場アリスに、木手は驚きます。
「誰?知念クン知り合い?」
「俺は平古場アリス!探偵だ!」
探偵、という発言に、帽子屋の甲斐と芋虫の田仁志は、知念追跡してきたの俺達で平古場アリスはついてきただけだから、探偵は俺達だよな、と後ろで話していました。
しかし耳の構造上、後ろの声というのは聞き取りにくいものなので、平古場アリスには聞こえません。
「探偵?」
「凛……じゃなかった、アリスは俺の友達で、探偵ではないです」
「しょっぱなから身分偽るって、とんでもないね」
「まぁ、アリスだから」
若干諦めたような発言に、女王様の木手は眉間に皺を寄せます。
「知念クンがそうやって甘やかすから、平古場クンが図に乗るんだよ」
「え?」
女王様は立ち上がって、トランプ兵!と声を大にして言いました。
すると、トランプ兵が何処からともなく現われて、平古場アリスと帽子屋の甲斐、それから芋虫の田仁志までもを包囲します。
「俺達もかよ!」
「類は友を呼ぶというしね」
「つうか、女王様のくせしてタキシード着てんなよ!」
平古場アリスの突っ込みに、女王様の木手は腰に手を当ててふふんと鼻で笑います。
「俺の身体に合うドレスが無くてね。それからこれはタキシードじゃなくて燕尾服だよ」
燕尾服の女王様は実に楽しそうに笑います。
女王様の木手が動くと、テールがひらりと優雅に揺れました。
「くっそー!俺だけなんて許さねぇぞ永四郎!」
「仕方ないでしょ、サイズが無いんだから」
「サイズあんの俺知ってんだぞ!」
「下々の者が女王様に楯突くとは良い度胸だ。首を跳ねてしまいなさい」
トランプ兵は二人と一匹の首に剣を突き付けます。
帽子屋の甲斐と芋虫の田仁志は、完全にとばっちりです。
「俺達、関係ねーし!おい凛!謝れよ!」
帽子屋の甲斐がそう言いますが、平古場アリスは「やーだね!」とツンケンした調子で言うだけです。
「平古場!木手のドレス姿見たって楽しくねぇから別に良いじゃねぇかよ!」
芋虫の田仁志がそう言っても、「俺の気が収まらん!」と平古場アリスは一歩も引きません。
ぎゃあぎゃあと言い合う下々の者達……平古場アリス、帽子屋の甲斐、芋虫の田仁志。
そんな三人を玉座から見下ろしていた女王様の木手は、見苦しいね、と言いました。
「木手様」
「何?知念クン」
「アリスは口が悪いけど、死んで良いほど悪い奴じゃないから、草むしりくらいの罰にしてくれないか?」
死刑からいきなり軽い刑を言われて、流石の殺し屋女王様の木手もポカンとしてしまいます。
二人と一匹がもみ合って喧嘩をしているのを見た女王様の木手は、確かにそうだね、と言いました。
口は悪いし馬鹿だし遅刻常習犯だしと、平古場アリスは悪い部分を沢山持っていますが、誰とでも仲良くなれるし面白いしと良い部分も沢山持っています。
女王様の木手はトランプ兵に剣を下ろすように言って、二人と一匹に中庭の雑草を抜くように命じました。
「知念追っ掛けてきたらこうなったんだから、知念も手伝え」
また無茶苦茶な理由を並べる平古場アリス。
兎の知念は理不尽な意見なのに何故か納得して、二人と一匹と一羽は中庭の雑草を抜く事になりました。
「つーか、何で知念は永四郎の所に走って行ったんだ?」
軍手をはめた平古場アリスは、これまた軍手をはめた兎の知念に訊ねます。
「俺、この国の会計してるから、それの提出期限が今日で、届けに此処まで来るのに半日かかるから慌ててた」
「初耳」
「そりゃそうだ。初めて言ったし」
巻き添えをくらった帽子屋の甲斐と芋虫の田仁志も、軍手をはめて雑草抜きを始めます。
「女王様ー、これどれくらいやったら終わり?」
そんな甲斐の質問に、女王様はにこりと笑顔で一言。
「中庭全部の草むしりに決まってるでしょ」
「げー!」
こうして、平古場アリスが原因で、兎の知念、芋虫の田仁志、帽子屋の甲斐は暫らくお家へ帰れないのでした。
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