はいでえ!比嘉中!! | ナノ
ハロウィン企画:ハロウィン一ヵ月前
「甲斐クン、ちょっと良い?」
「ちゃーさびたが、木手」
(どうした、木手)
お昼休みの時間。
木手が甲斐の元を訪ねてくるのはあまり珍しい事ではない。
普段から昼休みも一緒に遊んでいるのだから、甲斐からすれば畏まって話し掛けられる事が不安の材料になってくる。
「放課後にある部長会議、代わりに出てくれる?」
「え〜?わんがぁ?」
(え〜?俺が?)
「君、副部長でしょ」
甲斐は面倒臭そうにしますが、木手も用事があるらしく、頼んだよ。と言う。
そうなると、甲斐は断れないので分かったよ。と言うしかない。
「なま頃、ぬーぬ話し合い?」
(今頃、何の話し合い?)
そう、今は九月の頭。
部長会議って、話し合う事なんて何かあったっけ?と首を傾げる。
「ハロウィンの催しを決めるんだって」
「ハロウィン!?後一ヵ月あるどぅ!」
「催しをやるんだから、一ヵ月以上期間は必要でしょ」
「わったーやぬーするんやっさー?」
(俺達は何をやるんだ?)
「あぁそうか、昨日の話し合い、甲斐クン居なかったね。俺達は仮装レストランをやりたいってなったよ」
「ふーん」
甲斐はニヤニヤ笑って、椅子に座ったまま背を仰け反らせる。
楽しんでいるその姿に一抹の不安を感じたが、仮にも副部長の立場なのだから、馬鹿な事はしないだろうと思い、頼んだよ、と再度念を押すだけにした。
Hallowe
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放課後、知念と平古場は、新垣と不知火相手にダブルス試合をしていた。
「えー!んなぁー!」
(おーい!皆ー!)
そこに、大声をあげながら走ってくる人影。
トレードマークの帽子を被った甲斐だ。
「おっせーよ甲斐!」
「聞いてー!わったー演劇やる事になったどぅー!」
平古場の声を完全に無視して、甲斐は高らかに発言をした。
それはそれは、嬉しそうに。
しかし発言を聞いたテニス部員たちは、何の事か一瞬分からず、静寂に支配された。
太陽光だけが、いつもと変わらず皆に平等に降り注いで、皆の肌をチリチリと焼く。
「え?」
一番早く反応を返したのは、知念だった。
だからぁ、と甲斐が言う。
「わんぬ活躍で、13時から1時間、体育館ぬ壇上借りれるようになったんばーよ!」
いや、誰もそんな事頼んでないし。というのを、そこに居る誰もが思った事だろう。
テニス部員は昨日『仮装レストラン』で話がまとまったのだ。
なのに、甲斐は話し合いの場で演劇をやると言い、しかもちゃっかり壇上も使用許可を得ている。
どういう事だ。
考えるまでもない。
甲斐が独断であれこれ決めてしまったのだ。
「くぬひゃー!」
(この野郎!)
勝手に決めたうえに、下準備とか面倒臭そうな演劇を選んだ甲斐に、平古場はテニスボールを当てた。
「あが!てめっ凛!」
「勝手にぬーしちょー!残り物が食えるからってレストランにしちゃんやっさーどぅ!」
(勝手に何してんだ!残り物が食えるからってレストランにしたんだぞ!)
「えー!?わん知らねぇし!」
「それはやーがちぬー休んだからやさ!ふらー!」
(それはお前が昨日休んだからだ!馬鹿!)
「チャリ壊れたんだから仕方ねーだろ!修理に時間かかんだよ!」
「タイミングわりーんだよふらー!」
馬鹿馬鹿と言われ続ける甲斐は、流石に落ち込む。
平古場ならば、同意して盛り上げてくれると思っていたのだ。
落ち込む甲斐に、田仁志が口を開いた。
「決まったからには楽しめば良いやさ!なぁ、甲斐!」
「慧君!」
漸く出来た仲間に、甲斐は神様!と言いながらしがみつく。
田仁志は暑苦しい!と嫌がるが、ふかふかのお腹がお気に入りなのか、甲斐は離れない。
「で、わったーはぬーが劇をやるんやさ」
知念が素朴な疑問を口にする。
甲斐は田仁志にしがみついたまま知念を見た。
「や、まだ決めてないさぁ」
「後一ヵ月やさ」
後一ヵ月で服、舞台セット、その他もろもろを用意しなければならないのだ。
知念は早く色々と決めようと言い、部室にペンを取りに行った。
「あ、永四郎が戻ってきた」
家の用事から戻ってきたのだろう、木手がテニスコートに向かって来ているのが見えた。
平古場が手を振る。
木手も振り返した。
「わったー、劇をやる事になったどぅー!」
平古場が大声で言う。
木手の歩みが止まって、甲斐を見た。
甲斐は恐怖からだろう、田仁志にしがみつく力を強くする。
事情を聞いて、甲斐の勝手な行動に雷が落ちるのは、ちょうど知念が部室から紙とペンを持って出た時だった。
所変わって知念宅。
いつものメンバーが集まって、夏休みには課題を広げていた木製のローテーブルを囲んでいた。
図書室から借りれるだけ借りてきた童話。
平古場はパラパラ捲って、飽きたのか畳にごろんと横になってしまった。
「凛君」
隣に座っている知念が寝転がった平古場を揺するが、平古場はんーとか何とか言うだけだった。
「平古場クン、会議に参加しなさいよ」
「だってどれもヒロインがいるさぁ」
平古場がそう言うと、甲斐が頷いた。
「プリンスとプリンセスの話ばっかりやさ」
今度は、田仁志が頷く。
「『男子』テニス部だから、プリンセスがいないさぁ」
「男がやったらホモになるしなぁ」
寝転がったまま平古場がそう言うと、木手も頷いた。
「絵的に見苦しいね」
沖縄ですくすく育った比嘉中テニス部員は発育も良いし色も黒い。
こんな部員の誰かがプリンセス役。
想像するだけで痛々しいギャグだ。
しかもそんなムキムキプリンセスと絡みがあるプリンスが必要になる。
絶対にそのプリンスとプリンセスはホモとして暫くネタになるだろう。
現在片思いをしている甲斐としては、どちらも絶対にやりたくない。
好きな子に女装を見られるのは嫌だし、ネタにされるのも嫌だ。
しかし、勝手に演劇をやると言った為に、主役は甲斐がやれと言われている。
「くりは?」
(これは?)
絵本を黙々と読んでいた知念が、数冊をテーブルに置いた。
「不思議の国のアリス、ジャックと豆の木、王様の耳はロバの耳……他にも、王子様とお姫様がいない話はあるさぁ」
「でかした知念!」
平古場が起き上がって、知念の背を叩く。
知念はタイミングが悪かったのか、咳き込んだ。
「アリスが一番やりやすいだろ」
「甲斐クン女装だね」
「マジ勘弁して!」
木手の台詞に、甲斐がテーブルに突っ伏する。
自業自得と言われたらそれきりだが、それでも女装は嫌だ。
「ジャンケン!」
「駄目」
「えー!けーくん!」
木手に一喝された甲斐は、また田仁志の腹にしがみつく。
しかし田仁志も今回は頑なにジャンケンを拒否した。
そう、田仁志はジャンケンに弱いのだ。
だからビリになってアリスをやるはめになる可能性が大だ。
そんな訳で、田仁志はジャンケンを断固拒否する。
「アリス、ウサギ、芋虫、帽子屋、女王。ちょうど五人やさ」
知念は紙に役どころを書く。
帽子屋と一緒にいるウサギ、双子、トランプ兵はほとんど存在が薄いので、ここら辺は新垣や不知火を筆頭とした部員にやってもらおうと知念は言った。
「あ!アミダは?アミダ!」
「アミダ?」
挙手して甲斐が言う。
よほどアリスをやりたくないらしい。
確かに公平にしてあげないと可哀想かなぁと、思い始めた皆は、じゃあアミダをしようか、と言った。
「やったー!」
甲斐がバンザイして喜ぶので、ハイハイ、と木手は流す。
知念は紙に五本の棒を書いて、一番左端の棒の上に『知』と書いた。
次に隣に居る平古場に渡す。
平古場は『知』の横に『平』と書いて、隣に居る木手に渡した。
座席を時計周りに、名前を書く。
それを知念の母親の所に持っていって、役の名前を棒の下に書いてもらい、そこを折り畳んで隠してもらってから受け取る。
「一人二本ね」
一人二本ずつ、道を書いてゆく。
計十本の道が出来て、じゃあやろうか、と木手が言った。
「まず知念クン」
「うん」
知念がアミダをやると『ウサギ』だった。
知念は良かった、と胸を撫で下ろす。
残り四人は、女王とアリスがあるので、1/2の確立で女装だ。
平古場は神様!と言ってから、アミダをなぞった。
「げっ!」
「凛がアリスやさー!」
甲斐が笑う。
「もう一回!もう一回やろう!」
「往生際が悪いよ、平古場クン」
そう言って、今度は木手がアミダをなぞる。
「もう一回、やり直そうか」
「はーい!木手が女王様ー!」
「似合いすぎさぁ!」
木手の両サイドにいる平古場と甲斐がはしゃぐ。
二人とも頭を殴られて呻いている間に、田仁志は自分の役を調べた。
「わん、芋虫やさ」
「じゃあわんは?」
「甲斐は帽子屋」
「裕次郎まんまやさ。つまんねー」
「今日はついてるさぁ。凛、木手、ファイト!」
その発言に、木手と平古場の眉が釣り上がる。
完全に地雷だ。
「元はと言えば君のせいでしょうが!」
「裕次郎は海に沈め!」
next、舞台本番→
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