はいでえ!比嘉中!! | ナノ
皆一緒:シリアス風味:全員
だって
皆一緒が良いから
「裕次郎、新聞取ってきて」
食卓につこうとした瞬間、お母さんが言ってきた。
もし座ってたらもう立ちたくない動きたくないと駄々を捏ねるところだったけれど、まだ中腰で座る寸前。
「あーい」
縁側に起きっぱなしのサンダルを履いてポストに向かう。
起きたての目に朝日は少しつらい。
陽射しも強くて、この調子だと午後の部活動は地獄だろう。
ポストを開けて中を見ると、新聞とハガキと封筒とチラシとが詰め込められていた。
たまに配達員のミスでお隣さん宛の物が入っていたりするから、いつも宛先を確認する癖がある。
見ていけばどれも父親宛。
封筒をひっくり返して、見逃すところで気付く。
甲斐までは同じ。
けれど下の名前は自分のもの。
自分宛の手紙に誰だ?と封筒を見直すとそこには聞かない高校の名前。
何で高校から。封を開けて中を見る。
堅苦しい挨拶を適当に、中間あたりを見ると推薦の文字。
「ぬーがや」
意味が分からない。
しかもこの高校、本土じゃないか。
推薦されたからって誰が行くか。
第一、海を渡った向こう側から何で俺にこんなもんが届くんだ。
印刷物の手紙を見直す。
全国大会出場、それから敗退のことが書いてある。
「あいっ!?」
俺の力を是非我が高校に!?
あれか、引き抜きってやつか?
「あらい」
全国大会で出した力を認められたみたいで悪い気はしない。
でも、誰が行くか。
俺は沖縄が好きだし、皆と一緒の高校に行くんだ。
学力面で木手と知念が受ける高校は危険かも知れないけど、皆と一緒に高校でもテニスを頑張りたいから苦手な数学だって頑張ってるんだ。
……いや、待てよ。
この手紙、俺に来てるっていうことは、木手にも知念にも慧君にも凛にも来てるんだろうな。
つまり、この引き抜きに了解すれば5人は絶対同じ学校に行けるってことか。
俺、実際問題木手が受けるんだろう高校の合格率D判定なんだよね。
これ凄いじゃん。
「えー!ぬーがやしてっど裕次郎!」
「あい!ごめんちゃい!」
手紙を折り畳んでポケットに突っ込む。
食卓の場に戻るともう朝食が並んでて、親に新聞とかを渡してからいただきます!と言って食べる。
進路の心配が無くなったから、飯が美味いったらない。
今日の部活は楽しめそうだ。
天気も良いし、言うことなし。
早く皆のところに行って、高校も一緒だって笑い合いたいな。
今一番喜んでるのは凛かな、あいつは勉強できなくて俺ですら免れた夏休み補習を受けてたから。
早く学校に行きたくて、食べ終えればすぐに着替えに入る。
制服のポケットに手紙を突っ込んだ。
「なまからんじちゅーん!」
「んじめんそーれ」
自転車ペダルを漕ぐ。
チェーンが変な軋みを訴えるけれど気にせずペダルを回した。
早く早く学校に。
「うきみそーち!」
「おや、おはよう甲斐君。今日は早いですね」
部室の扉を勢いよく開ければ、驚いたことにもう全員揃っていた。
凛が俺より早いなんて珍しい。
やっぱりあの手紙が原因か?
「裕次郎は朝から元気だなぁ」
凛が眠そうに欠伸しながら言う。
「凛こそ早いやしー」
「わんはたたき起こされた」
「うきみそぅち、裕次郎君」
「うきみそーち知念!」
「ぬーがあったどー?」
慧君が聞いてくる。
なんだよ、分かってるくせに。
俺がどう出るか見たいってか?
それなら期待に応えようじゃないか。
「これ!」
ポケットから紙を出して顔の前に広げる。
「届いただろ?」
「はい」
「それのせいでわんは早起きだった」
「うん」
「届いた」
何だよ皆冷静に。
もしかして俺が来る前にすでに盛り上がったのか?
つまんない。
「皆行くだろ!?」
「わんは行かんどー」
凛がすぐさま言った。
行かない?
冗談。と思ったけれど凛は笑っちゃいない。
「俺も行きませんよ」
木手までそんなことを言う。
「ぬーがや」
「俺は沖縄の名で出場したいんですよ甲斐君。確かにそこは設備も待遇も良いでしょうね。でも本土に行って、その高校名で大会に出るんじゃ俺としては意味が無いんですよ」
知念を見る。
知念はどうなんだろう。
もし俺と同じ意見なら木手と凛の説得に付き合って欲しい。
知念は申し訳なさそうに肩を下げて、少し頭を垂らした。
「わんも行かんど」
「なんでよ」
「家のこともあるし、わんは沖縄好きさー」
家のことと言われて、思い出す。
うかれていて忘れていたが、知念の家は旅館だった。
知念は跡継ぎだし、観光シーズンは家の手伝いもしてる。
「慧君は?」
駄目元で訊けば、やっぱり答えは皆と一緒。
「凛はそれで良いばー?」
「ぬーが」
「皆おんなじ高校行けるんど」
「わん、沖縄好きやっしー。ハブのいない場所にも行きたくない」
「やしが!」
「甲斐君」
木手がやめなさいよ。と言う。
でも、このままじゃここにいる5人はバラバラになってしまう。
どうして分からないんだろう。
バラバラになっても良いのか?
「何でそんなにここに皆を行かせようとするの」
「だって」
「うん」
「皆で同じ学校行けるじゃん」
「それだけ?」
「それだけって、わんには重要さー!」
「本土に行きたいとかはないの?」
「ミジンコほどもない。わんは沖縄大好きさー」
「だったら裕次郎も行くのやめて沖縄にいるさー」
「でも同じ高校……。木手や知念と同じ高校行けない」
「わんはどうした」
「慧君とわんはどっこいどっこいだから多分一緒の高校行ける」
「わんは?」
「凛はわんよりふらーだから、わんが凛に合わせれば同じ高校に行ける」
「言わせとけば!わん頑張ってやーを絶対抜くからな!」
「やめなさいよ平古場君」
「裕次郎が先にわんをふらー呼ばわりしたんど永四郎!」
「ゴーヤー食わすよ」
「やめる!」
「聞き分けの良い子は好きです」
木手が笑いながら言う。
凛は知念の方に寄っていった。
「……なぁ知念、今のわんが悪い?」
「やる気を出したのは良いことだと思うよ」
「だよな」
「やる気は継続しないと意味無いけどね」
「あがー!」
帽子の鍔で前が見えずに床が見える。
下を見るなんて俺らしくない。
でも今は顔を上げる気にならない。
何でだよ。胸が苦しいよ。
木手も慧君も知念も凛も、俺達がバラバラになっても良いのかよ。
視界に木手のシューズが入った。
「甲斐君勉強頑張ってるじゃない」
「わんが頑張っても、皆一緒になれるとは限らん」
「確かに。平古場君が一番問題ですね」
「だから、これだったら皆一緒だと思った」
「何気に酷いこと言ってるって気付いてるかお二人さん」
「凛君は口を挟まない」
「それにわんも数学嫌い。模試結果でDランクで、無理だ言われたさー」
「まだ夏休みですよ。頑張ればどうにでもなります」
「今日から勉強会開くさー」
知念が明るい口調で提案した。
「もう黙ってらんねー!」
凛が強い口調で言う。
「おい裕次郎」
「ぬーがや」
「やーは大事なことを忘れとる」
「こらやめなさい平古場君!」
「わったーは全国大会出とるんどー。高校なんて引く手あま……」
「知念君!」
「凛君は優しいけどここでバラすのはふらーさー」
知念が凛を後ろから羽交い締めにして、木手がゴーヤーを凛の口に突っ込む。
「あぎゃーーーっ!」
二人がかりでゴーヤーを食わされてる凛から悲鳴が上がる。
その光景を眺めていると、肩を叩かれた。
「あにひゃーが言ったの分かったか?」
「慧君」
「木手はもしこの事を甲斐が知ったら勉強しなくなるって思ってて、高校に入ってから苦労しないように勉強して欲しくて黙ってろって言ってたけど、もうバレたし良いだろ」
「慧君もう少し分かりやすく言って」
「だからー、皆同じ高校に行けるってことさー」
「しんけん?」
「しんけんしんけん」
「っしゃー!」
全く考えてなかった。
そうだよ。
そういう手があるんだ。
第一、テニスの設備の良い高校が一番頭の良い高校とは限らない。
俺の実力で普通に受かる場所かもしれないんだ。
うわ。
俺ってもしかしなくても馬鹿?
凛ですらこのこと気付いてたのに気付かないなんて、馬鹿じゃん俺。
うわ、恥ずかしい。
でも恥ずかしい以上に嬉しくて口元の筋肉がが緩む。
「凛!やーに言ったふらーは撤回!」
「それより助けろ!」
「感謝はしてるけどそれは無理やっしー。ちばって食えー」
「ぐぬびゃー!」
何か言いたいようだけどゴーヤー食わされてるから意味が伝わらない。
凛が教えてくれたおかげで不安は解消。
木手が俺に勉強頑張って欲しかったのは分かるけど、皆を黙らせるのは酷くないか。
「甲斐君」
「え?」
木手がこちらを見る。
怪しい。
何かたくらんでる。
「頑張って二桁になれとは言いませんが、今の順位をキープしなさいよ。落ちたらゴーヤー食わすよ」
「しんけん!?」
「当たり前です。だいたい、君と平古場君は赤点を取って大会に出るか出られないか状態になる事が多すぎるんですよ!こっちがどれだけ肝冷やすと思っとるんばーよ!高校でもくんな心配するのは嫌ですからね!」
「分かった!分かったから!」
マズイ。
木手がうちなー言葉になった。
これは本気だ。
「決めました」
「ぬーが?」
木手が眼鏡を正しながら言うと、知念が凛をようやく解放しながら問う。
凛はすぐさま口の中の物を吐き出して、知念はその背中をさすっている。
「知念君、部屋空いてます?」
「空いてるよ」
「今日から勉強合宿をしましょう」
「あい!?」
「ゆくしだろ!?」
凛と同じ反応をすれば交互に睨まれた。
流石殺し屋の名前を持つだけあって、木手の睨みは怖い。
「本気です。田仁志君もですよ」
「わんも!?」
「当たり前です、何部外者ぶってるんですか。夏休み明けのテストで全員黒点が目標です」
「赤点取るのは平古場だけやっしー、わんは関係あらんどぅ」
「何だとデブっ!」
「何だと!」
「やめなさい」
「デブが先に暴言吐いた!」
「真実だ!」
「やめなさいと言ってるでしょう」
「凛君も慧君もやめて」
知念が止めに入ると、凛はムッとしながらも黙った。
さすがダブルス。
お互いの言うことは尊重するのか。
「では本題に戻りますが、関係はあります。黒点の人は平古場君の家庭教師です。教えることは自分の持つ知識を反復することであり整頓する事なので教える側もちゃんと利益がありますよ」
「……」
でも教える相手が凛か。
木手が教えている時に苛々してるのを見てるから、きっと凛は飲み込みが悪いんだろうな。
いや、木手が家庭教師に向かないだけなんだけど。
木手はスパルタ過ぎるから、教わる方が勉強を投げ出しちゃうんだよな。
かと言って知念は優しすぎるから、凛相手だと凛のペースに飲まれちゃうし。
「凛、凛」
「んー?」
「わんが教えてやる」
「はー?裕次郎に教わったら嘘教えられる」
「なっ!」
「確かに、裕次郎君はまだ教わる側ですね」
「しんけん!?」
「嘘ついてどうするんですか」
「わんは知念に教わる!」
「え、うん」
「ぬー言ってんど!知念にはわんが教わる!」
「平古場君は俺ですよ」
「永四郎!」
「君、知念君だと甘えてなかなかやりませんからね。それにさっき甲斐君を抜くって言ったでしょう。有言実行してもらいますからね」
「あぎじゃびよー!」
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