はいでえ!比嘉中!! | ナノ
焼けついた影:しょっぱい:平古場メイン
見上げた空はあまりにも青くて澄んでいて、眼球の最奥が焼けるような感覚がした。
じりじりとする肌と眼球。
なのに日向に居るのも、瞼を閉じないのも、空があまりにも青くて、綺麗で、澄んでいて、今も昔も変わらなくて、このまま此処に居たら空と大地が逆転して空に落ちてしまうんじゃないかと思えた。
スカイパレットは一色塗り。
痛みからか、乾燥からか、はたまた別の何かからか。
目尻から耳たぶの方へ流れ落ちた海水は、耳たぶの奇怪な形に囚われて、奥へ流れ込んでくる。
それはまるで、海を泳いでいるような感覚。
焼け付いた影
テスト期間で部活も遊びも取り上げられた。
それが嫌で、テニスコートに仁王立ち。
俺以外には誰も居ない。
そう、誰も居ない。
球を打ち返す奴も居ないし、わざとラインぎりぎりに打ってきてコート中を走らせる奴も居ない。
打った球はその物の重さだけで、最近習った知識を使えば、速度が無いから身体に振動を与える程の打球にはならない。
まるで素振りをしているのと何ら変わらない。
木手や田仁志のビックバンが欲しいわけじゃないけれど、打球は欲しい。
去年の夏に居た、忍者みたいな奴、誰だっけ、甲斐が相手していた、分身野郎。
あいつの超能力が今だけは欲しい。
カラカラに乾いた瞳を潤すように目を閉じて、首を戻す。
前を見ても、勿論、対面するコートには誰も居なくて、ゆらゆらと揺れる陽炎が無言で暑さを教える。
頭がくらくらした。
踵を付けたまま爪先を上げれば、身体は簡単に後ろに傾く。
世界はやはり、一色のスカイパレット。
瞼を閉じると、青かった世界がオレンジに染まる。
蝉の啼き声が今更鼓膜を震わせる。
けれど耳は海水が浸水していて、ぼやけた感覚。
蝉が元気に啼くから、耳を浸水する海水がちょっとだけ増えた。
ミンミンミンミン
ジワジワジワジワ
湿っていた肌が乾燥して引きつる。
人工の芝生と細かい砂利がべたべたくっつく。
慣れた感覚に不快感はない。
このまま乾燥して、ここで地面にへばりついても良いかもしれない。
そう思っていたら、一陣の風邪が足元から吹き付けて、髪が逆立つ。
砂利が裾という裾から入ってくる。
それと同時に、頭のてっぺんにぶつかる硬くて、でも少し軟らかいボール。
瞼を開ける。
赤に染まっていた世界にいたせいか、空の青は緑に見えた。
そのまま顎を上げて見上げれば、蝙男が四人。
地面から逆さまにぶらさがって、腕組みをしている木手を筆頭に並ぶ知念と田仁志と甲斐。
「コートは寝る場所じゃないよ」
と木手。
昔もそう言われたなと、奇妙なデジャヴ。
あぁそうだ、まだテニス部に入りたての頃、過酷な練習にへばってた時だ。
「凛君、起きて」
と知念。
腕を伸ばせば掴んで引き上げてくれる。
「背中もちぶるも砂まみれやさ」
と甲斐。
頭と背中をはたかれた。
「えー平古場、ボール打ちっぱなしにすんな」
と田仁志。
そう言ってボールをひょいひょい拾ってる。
「凛?」
「凛君?」
甲斐と知念の心配そうな声。
思わず笑ってしまった。
「やったー、勉強しれ」
「凛君にあびられたくない」
「そうやさ。やーが一番してないばぁ」
「まぁ、俺たちも変わりませんけどね」
振り返れば、相変わらず腕組みした木手が眼鏡に光を反射させていた。
おかげで目元は見えないけれど、口と眉で分かる。今、苦笑していると。
「永四郎がちゅーさなんて、珍しいなぁ」
「あのねえ平古場クン、俺だってたまには息抜きしないとやってけないんだよ」
「えー永四郎がかやぁ?」
まったく、と組む腕を解いて、代わりに腰に手をやっている。
立ち方を変えないのがまたなんというか、木手らしい。
「えー、凛君」
知念が弱々しい声を出す。
何だと見ると、すぐに視界が覆われた。
それと同時にラベンダーの良い香り。
何だと瞬きする間もなく、顔をタオルで力強く擦られる。
特に目尻からこめかみ辺りをごしごしとされて、痛いったらない。
「ちねっ!」
「ちらが砂まみれさぁ」
ごしごしと擦られる。
知念が他人を驚かせるなんて珍しい。
知念は寡黙だから分からないけど、きっと何か理由があるんだろう。
黙っていると、柔軟剤の良い香りがするタオルが外れた。
「うん、よし」
「よしじゃない。痛かったんばーよ」
「……わっさいびーん」
あっ、という顔をして、すぐにしょぼくれてしまった。
いや、そんなへこまなくて良いから。
でかいくせに、何でこんな弱いんだ。
「木手ー!凛が知念いじめちゅーさ!」
甲斐が声を張り上げる。
「田仁志クン、平古場クンが的です」
「えー!永四郎!」
「よっしゃー!」
「あぎじゃびよー!」
すぐに立ち上がって逃げようとするけれど、田仁志が打った球は頭に見事当たった。
弱く打ったのは分かるけど痛いものは痛い。
衝撃に耐えられなかったのか、耳に流れ込んでいた海水が出てきた。
「凛君、ひぃじぃかぁ?」
クリアな音。
相変わらず低くて地を這うような声だ。
「しんけん痛い」
鼻水が垂れてくるから啜る。
知念がまたタオルを顔に押しつけてきた。
「泣くなー」
「泣いてない」
起き上がって、ラケットを拾う。
このまま終わらせると思うなよ!
「デブ!勝負だ!」
「望むところやさ!」
「俺が審判しますよ」
木手がコートの横に立つ。
知念がコートから出ようと歩き出すと、甲斐が走り寄ってくる。
「知念、わんとやろ」
「そうさね」
知念と甲斐は隣のコートに。
空を見上げると、変わらない青。
けれども淋しくないのは、疎らにある白い塊がスカイパレットを彩っているからだ。
〜戯言〜
高校生になってもこの子達は変わらないよと云う話。
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