はいでえ!比嘉中!! | ナノ
卒業:ほのぼの:全員 10000hit企画
「じゃんじゃんかんで下さいキャプテン!」
「君達も食べなさいよ」
「わったーは焼く係りです。だって今日は……」
後輩の目が潤む。
それが焼き肉の煙でだったらどれだけ良いだろう。
木手は気まずそうに目を反らすが、拳を握った子供達は止まらない。
「今日で先輩達は卒業じゃないですか!!」
卒業
「卒業ってね、部活を辞めるだけでしょ」
なのに何泣いてんの。
木手は溜め息をつくが、元々困難を一緒に乗り越えてきた者達だ、たしなめられたからと云ってその感情の高ぶりは止められない。そして止まらない。
現在隣に甲斐が席に座っているのだが、元々流されやすい子。
周りの調子に乗って目を潤ませている。
お調子者だ。
他の席にいる後輩にも涙は感染したのか、知念と平古場、田仁志、晴美の席にいる者達も泣き出したり騒ぎ出したりし始めた。
知念が動揺する中、平古場は泣く後輩に笑ってみせ、田仁志は隣にいる後輩の背を叩く。
晴美の席の後輩は各々好きな先輩の元へ駆け出した。
晴美はポツンと残って、しごいてやる、と小さく呟いた。悪循環である。
「受験頑張ってくださいね!」
「平古場先輩、わんぬお父さんの弟子入りすれば安泰ですよ!」
「くぬひゃー!わんぬ受験は失敗するぬが決まりかやぁっ!」
「だって赤点、あがっ!」
「凛君やめてぇ」
後輩にすぐに手を出すなんて、とんでもない。
知念はそう思って止めに入るが、どうやら戯れているだけのようで、叩かれた方が笑っている。
「夏にわんはちばったんばーよ!なぁ知念」
「そうさね」
「でもわんに休み明けぬテストで勝てなかったさぁ」
「うっせ!」
別のテーブルを囲んでいる甲斐が口を挟んできて、平古場は切り捨てるように返事を返した。
テスト結果で勝利した甲斐は笑う。
一番落ち着いている田仁志のテーブルでは、肉が勢いよく無くなっていた。
「田仁志先輩」
「ぬー?」
「高校はどこ受けるんです?」
田仁志がにやりと笑うから、後輩はゴクリと息を飲む。
「わったーは……」
「皆同じところさぁ!なぁ慧君!」
甲斐が嬉しそうに声を張り上げる。
またお前か。
せっかく溜めて、皆を驚かせようと目論んでいたのにこのクソガキ。と思うのは仕方ない。
「くぬチビ!」
「えー慧君!なんだば急に!」
「うるさいふりむん!」
「えー木手!慧君が暴言を吐くさぁ!」
隣に座る木手に助けを求めるが、今のは君が悪いよ、と言われるだけだった。
理由が分かっていないために悪いと言われても訳が分からないと唇を尖らせる甲斐に下級生が気を使っていて、どっちが年上なんだか、と木手は溜め息をついた。
雰囲気に酔いしれて気が大きくなる終盤。
未成年者なのでそろそろ帰らないと晴美が教育者として叱られる頃だ。
誰一人としてそんな晴美の身分や肩書きを気にしたりはしないので、盛り上がるだけ盛り上がっている。
晴美の制止の声も今までの我慢から箍が外れた子供達の前では風の前の塵に同じ。
歌って踊れば時間はどんどん過ぎていって、店から出たときには満天の星空。
「はいはい皆さん!」
パンパン、と手が叩かれる。
晴美の時とはうって変わって、皆が手を叩いた人物を見た。
「そろそろ帰らないと補導されてしまうから、ここで解散ですよ」
不満の声が上がる。
うちなータイムを持つ子供達からすれば時間なんて曖昧だ。
しかしここは主将木手、皆を論ずるなんて訳ない。
ほらほら解散、と言われて、また明日。と別れる。
そう、明日も学校だから、会おうと思えばいつでも会えるのだ。
だから下級生も、もう泣いたりはしない。
手を振って別れて、各々家の近い者同士が群れて帰る。
レギュラー五人は分かれ道まで一緒に歩いて、話をする。
「美味しかったな」
「慧君食べ過ぎさぁ」
「どれくらいかんだんだばぁ?」
「てれげー三皿」
「しんけん!?」
「だからデブなんやさ」
「くぬやろ平古場ぁ!」
「喧嘩はやめなさいよ」
木手が仲裁に入れば、平古場は真実を言ったまでだと豪語する。
だとしても言って良いことと悪いことがあるでしょ。と言いそうになって木手はグッと言葉を飲み込んだ。それこそ言っては悪い真実だ。
知念がほら行くよ、と平古場の頭を掴んで引っ張る。
二人は同じ琉球東小学校卒業生だから、家の方向が同じなのだ。
そして今は別れ道。
平古場と知念は左へ、他の三人は右へ。
だから今日はこれでお別れだ。
「またなー!」
「おー」
「ハブ見つけても追っ掛けんなよ」
「ハブも今はお休みタイムさぁ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
二人が去っていく。
甲斐が手を振っていると平古場も後ろ歩きで手を振った。
隣にいる知念が平古場に前を向かせると、ようやく振り返らなくなって、最後に知念が三人に振り返って手を振った。
「行きましょうか」
「えー帰るどぅ、甲斐」
「あーい」
三人が並んで歩く。
街灯なんてない夜道。
話すことは受験や将来のことではなくて、今日のこと。
下級生はまた全国行けるかな、とか、晴美キレてたよな、とか、またしごかれちゃうのかな心配だな、やっぱり晴美は卒リンで痛い目に合わせてちょっと今後の教育方針を変えさせてやろうか、とか。
どうでも良いことを笑って話していると、すぐに別れ道があらわれる。
琉球西小学校卒業生の甲斐は右へ、琉球南小学校出身の田仁志と木手は左へ。
「またなー」
「また明日」
「おー二人も気を付けて帰れよ」
「沖縄武術習ってる俺たちに気を付けるもないでしょ」
「そうやさ」
「えー、じゃあ慧君」
「あ、おい」
「ちばりよー!」
じゃあ、と甲斐は駆け出す。
途中振り返って、また明日!と手を振るのを怠らない。
「田仁志クンこれから何かあるの?」
先ほど甲斐が去り際に笑顔で言った頑張れの意味が分からない木手は、用事があるのにこんな遅くまで付き合ったのかと、少し怪訝な顔だ。
木手は予定は守らなくては嫌な人間だから、気にしているのかもしれない。
それに田仁志は大きなバックを肩から下げている。
最初はどこかに行った後にテニス部の集まりに来たのかと思っていたが、もしかしたら今からどこかに行くのかもしれない。
「ぬーがあるって?わんは帰って寝るだけやさ」
「ふーん。何だったんだろうね、甲斐クン」
田仁志は曖昧に笑うだけで、答えは返ってこなかった。
何かあるんだろうなと木手は予想がついたけれど、深入りはしない。
二人きりで帰っていると、小学校の時の話になる。
「このさとうきび畑に入ると出てこれなくなるって噂あったよね」
「木手が確かめに入ったんだよな」
「あれは嫌な記憶だよ」
「まさか木手が確かめに行ってるときに地震来くとはなぁ」
「タイミングが悪すぎるでしょ、あれは反則だ」
木手は地震が苦手だ。
なのに地震が起きて、ぎょっとしたに違いない。
子供の頃は苦手な物の前だと足がすくむ。
まして誰かが連れ添ってくれていないならば、動けなくなっても仕方ない。
「いくら待っても木手はさとうきびから出てこないから、慌てたさぁ」
「でも本当に出れなくなったんだよ。凄いさとうきびだよここは」
田仁志が見つけたとき木手はさとうきびの中で体育座りをしてぼんやりしていた。
どうしたと聞いたら、動き回って疲れたから、救援を待ってた、と返されたのだ。
当時はその言葉を真剣に受け取ったが、今なら分かる。
木手は地震が怖くてそこから動けなくなったのだと。
「じゃあ今から入ってみるか?」
「謹んで辞退するよ。それからこれ皆に言わないでよ。特に平古場クンに」
木手は人生の汚点だと溜め息を吐く。
同じ小学校出身の二人は互いの過去も知っている為に話題はつきない。
小学生特有の、何の根拠もない変な噂を真に受けていた頃の木手と田仁志は真意を確かめによく出かけていたのだ。
話していると、また分かれ道。
別れ道というか、木手の家の前だ。
田仁志の家の方が遠い。
「じゃあまた明日」
「えー木手!」
「何です」
田仁志が大きなバックの中から、包装された箱と花束を出してきた。
花束はバックの中に居たために少し萎れているが、包装された箱は綺麗なまま。
花束とプレゼントを持つ田仁志に目を丸くした木手は、ついうちなーぐちで田仁志にどうしたの、と問う。
「わったーから」
「わったーって」
「わんと、甲斐と、知念と、平古場から」
「ぬーして」
「わったーを引っ張ってくりてぃは木手やし、わったー、木手居なきゃ晴美ぬ暴挙にテニス辞めてたさ」
だから黙って受け取れ!と花束とプレゼントが押しつけられる。
「あいつら恥ずかしいからってわんに全部押しつけて帰りやがったんやさ」
木手から反応がもらえなくて田仁志は愚痴を吐いて間を埋めようとするが、それでも間が出来てしまう。
気まずい雰囲気に田仁志は焦れったそうにして、木手の名前を呼んだ。
「ぬー?」
「ぬーじゃないさぁ、リアクション貰わなきゃ困るやしが」
「嬉しいですよ」
「それだけか!」
「他に何を期待したの」
「感動した!とかキャラ崩壊するくらいぬーがあびると思ってわんも緊張してたのにくぬー!」
「俺にキャラ崩壊してほしかったの?」
「まさか!ふりむん平古場が感動に泣くんじゃね?とかあびってたからわん正直ビビッてただけさぁ」
「へー」
要らない一言を吐いた事に気付いた田仁志はわんけーる!と言ってその場を去っていった。
残された木手はプレゼントを抱えたまま、その場にしゃがんで一つ深い溜め息をつく。
「びっくりしたさぁ……」
テニス部に勧誘して、スパルタに耐えさせて、正直恨まれても仕方ないよなと思っていた木手にとってこのサプライズは嬉しすぎて心臓に悪いものだった。
その日の夜。
平古場の形態が着信を知らせた。
『どぅしたデブ』
「くぬひゃー!よくも変なことわんに吹き込んだな!」
『はあ!?なんだば急に』
「木手すっげぇ冷静だった」
『当たり前やさ、どぅして永四郎が動揺するよ』
「確かに!」
〜戯言〜
10000hit企画、む様よりリクエスト『木手にサプライズ』でした。
同じ小学校出身って可愛いですよね。
木手は驚いたりと心が揺れ動いている時にうちなーぐちなら可愛いと思います。
リクエスト、ありがとう御座いました!
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