はいでえ!比嘉中!! | ナノ
鬼ごっこ:ほのぼの:全員
子供
さとうきび畑の前でじゃんけん。
「じゃーんけーん」
「裕次郎が鬼さー」
「じゃぁ十数えるどぅ」
目元を手で覆って、下を向く。
首筋にチリチリと焼ける感覚がした。
「てぃーち、たーち、みーち、ゆーち、いちち、むーち、ななち、やーち、くくぬち、とぅ」
手を外して、前を向く。
前に広がるのは、地面からにょっきり生えたさとうきびの群生地。
鬼ごっこ
誰の土地かは知らない。
でもここが俺達の遊び場。
中に入って行く。
さとうきびを掻き分けて進むのは、なんだか小人になったみたいだ。
それとも、どこかの勇者かも。
ある程度まで来て、歩みを止める。
耳を澄ませれば、ミンミン蝉が大合唱。
これじゃあ皆の居場所が分からない。
それに皆、もう隠れているのかさとうきびが揺れる音もしない。
走り出す。
さとうきびが邪魔でまっすぐ進めない。
ぐねぐねに進んでいたら、自分が何処に居るのか分からなくなる。
蝉の啼き声と、風に揺れるさとうきびの音、自分の作り出す音が鼓膜を揺する。
どこかで葉が揺れる音がした。
それは緩い風の中では大きな音で、迷わず音のした方に走る。
すると前方にいる誰かも走り出す。
まだ姿は見えない。
じぐざぐに走っていると、太った後ろ姿が見えてきた。
「慧君みーっけ!」
蝉の声に自分の声も混ざる。
走って走って、汗をかいた身体にさとうきびの葉っぱがへばりついては離れていく。
「げっ!ふらー!こっちくんなー!」
「仕方ないさぁ!」
「凛も発見!」
「ばらばらに逃げっどー!」
「おう!」
散らばる二人。
ずっと追いかけている慧君を身体は勝手に追う。
「捕まえたっ!」
「あーっ!」
「今から慧君も鬼だよー!」
皆に聞こえる大きな声で言う。
返事は返ってこないけど、きっと皆に届いてるだろう。
「わんは凛を後ろから追うさぁ」
「じゃあわんは右から回る」
上手く行けば挟み撃ち。
でもこんな道のないところでは凛がどっちに向かうかなんて分からない。
凛が行った方に走る。
音がしないから、もうどこかに隠れたのだろうか。
「甲斐!木手見つけたどぅ!」
慧君の声が響く。
「いかっ!」
声のした方に向かうとさとうきびが掻き分けられる音がしていて、その音を頼りに走る。
「甲斐っ!」
右からした気がして、そっちを見れば木手がしまったって顔をした。
凛を挟み撃ちしようって言ってたけど、木手を挟めた。
木手が右に行くから、俺も右に移動して、さとうきびも巻き込んで木手の胴体にしがみつく。
「捕まえたっ!」
「やったー!」
「まさかタックルされるとは」
前に腕を掴もうとしたら上手く避けられて、競争では木手の方が早いから追い付けないことがあった。
だから今日は、胴体。
「木手も鬼になったどー!」
慧君が大きな声で言う。
「後は知念君と凛君?」
木手が張り付いた前髪を掻き上げながら訊いてきた。
俺の髪も頬や額にくっついていて、でももう気にならない。
「うん」
「見つけたら声ね」
「分かってるさぁ」
拳を軽く当てて、バラバラに散らばる。
凛と知念はどこだろう。
自分の呼吸音が煩い。
汗が垂れて、髪も服はベッタリくっついている。
けれど嫌じゃない。
「あ!知念めっけ!」
しゃがんでた知念を見つける。
知念はすぐに立ち上がって駆け出した。
「知念見つけたさぁ!」
「分かった!」
「いか!」
知念は器用にさとうきびを避けて、ぐんぐん距離が離されていく。
知念は足が早いんだ。
それ新間は二人追っかけた後で息が上がる。
蝉の声はもう聞こえない。
自分の呼吸が耳に聞こえて変な気分。
「あっ!」
知念が慌てて左に駆け出した。
木手がさとうきびの間から現れて知念を追う。
「待てー!」
「待たない!」
追いかけていると、慧君の声が響いた。
「凛見つけた!」
「えー!」
声が近い。
どこかでもさとうきびを掻き分ける音がする。
どこだろうと考えながら前を走る知念と木手から目を離さない。
「あ!」
「げっ!永四郎!」
走ってる最中、前方に凛が現れた。
続けて慧君も現れて、三人で二人を追う。
「二人とも!待てー!」
「だーれが待つかー!」
追いかけっこを延々と続けて、さとうきび畑の端に来てしまったらしく二人が一瞬止まった。
そう、鬼ごっこはさとうきび畑内って決まりなんだ。
二人が慌てて左右に別れるけれど、俺は知念を捕まえて、木手は凛を捕まえた。
「うぁー負けたぁ」
「悔しいさぁ」
皆肩で息をしながら、その場に座り込む。
「あちー」
誰かがなんともなしに言った。
本当に、暑い。
深呼吸をして肩の力を抜くと、ミンミン蝉の声がとても煩い。
空を仰ぐととても眩しくて、目がくらくらした。
木手が立ち上がってさとうきびを折りにかかる。知念と凛も手伝って、一本のさとうきびを五つ分にへし折っている。
「はい」
一本を受けとる。
舌に刺さらないように気を付けながら噛めば、甘い汁が出てくる。
「あまーい」
甘い物が大好きな慧君が嬉しそうに言った。
俺も木手も凛も知念も好きだから、皆さとうきびを噛んで砂糖水を出す。
ミンミンと蝉が啼く中、のんびりと時間を過ごしていると、汗が乾いて肌がチリチリと焼ける感覚。
白い砂みたいなものが所々付いていて、それはとてもしょっぱい塩の結晶だ。
「次誰が鬼やる?」
「じゃんけん」
「よーし。じゃーんけーん」
〜戯言〜
夏休みの鬼ごっこ。
さとうきびを一本貰っても誰も気にしません。
畑の持ち主も気にしないはず。
木手も子供だから、別に一本くらい良いか。のノリだと良い。
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