はいでえ!比嘉中!! | ナノ
8/19 知念寛
「えー、永四郎君」
「何ですか、知念君」
トイレの鏡を見て、怪我した額に濡れタオルを当ててる永四郎君は声をかければすぐに睨んでくる。
殺し屋の異名を持つだけあって、その睨みの凄いこと。
誰も近寄るな、そう言われているみたいで、何て声をかければ良いのか少し悩んだ。
今の永四郎君はまるで手負いの猛獣みたいだ。
知念 寛
「血ぃ、止まったか?」
「えぇ、一応は」
でも、腕にはコートの小さな砂がまだついている。
きっと皮の中に入ってしまった砂なのだろう。
一応腕も洗い流したみたいだけど、腕には血がまだ滲んでいる。
「絆創膏」
「あい?」
「絆創膏、持ってる?」
「あぁ、うん」
永四郎君が出ていく間際、ハンドタオルしか持ってないのを見たから持ってきた自分の救急セット。
いつもの永四郎君なら忘れ物なんてしないだろうに。
更衣室の鞄の中に置きっぱなしなのだろう永四郎君の救急セット。取りに戻らないのは、きっと一人でいたかったからだろう。
ポーチから絆創膏を出して渡す。
凛君の考えに押されるようにしてここに来たのは良いけれど、何をすれば良いのか分からない。
一人になりたい時に、俺は来てしまったのだろうか。
だったら、ポーチごと渡して俺は更衣室に戻るべきなのかもしれない。
「知念君」
「ん?」
「腕に絆創膏、上手く貼れないんですよ」
「あぁ、やるよ」
「ありがとう」
左腕を擦り剥いているから、左利きの永四郎君は絆創膏が貼りにくいのだろう。
貼っていると、永四郎君は笑った。
「こういう時、両利きの甲斐君は楽なんでしょうね」
「そうだなぁ」
会話は終了して、貼る作業に戻る。
「中の砂は出さなくて良いのかぁ?」
「あぁ、面倒くさくてね。いつか勝手に出てくるでしょうし」
「そうだけど、痛そうさぁ」
「良いんですよ、これくらい」
どうってことないから。そう続けるつもりだったのかは分からない。
ただ、肉体の痛みなんてどうでも良いのだと言っているみたいで、悲しかった。
永四郎君はキャプテンだからって、皆の気持ちを背負いこんでる。
キャプテンだって言っても、俺たちと同い年なのに。
俺は自分の気持ちだけでも消化不良起こしてるんだ、永四郎君は、どんな気持ちなんだろう。
想像すら出来ない。
「凛君たち、この後何処かに行くつもりらしい」
「そのようですね」
「永四郎君も行くばー?」
「……」
「わん一人で、凛君や裕次郎君の相手出来んさぁ。どっちか迷子にしてしまう」
「……」
「皆で東京を楽しもう?」
「そう、ですね」
良かった。
連れて行けさえすれば、きっと後は凛君や裕次郎君がはしゃぎ回って、悩む暇も与えてくれないはずだ。
永四郎君はもう十分苦しんでるから、悩んだりしなくて良いんだ。
今回の負けは次へのステップだと思えば良い。
そうすれば俺たちはまだまだ強くなれる。
だからもう、悩むのはやめよう。
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