はいでえ!比嘉中!! | ナノ
8/19 平古場凛
負けた悔しさは、バネにすれば良い。そうすれば前進できる。
いつまでもうじうじ悩むのは、その場で足踏みをするのと変わらない。
そんな無駄なこと、俺は望まない。
平古場 凛
俺と同じ考えの裕次郎は俺の提案にすぐにのってきた。
着替えが済んだら東京を見て回ろう。そんな話をする。
グダグダと皆を悩ませる内容を、皆の頭から消し去るくらい面白い場所を二人で考えるけれど、俺たちは東京なんて知らないから分からない。
それでも、今日の残りをこんな重たい空気の中で過ごすのはごめんだ。
人の思考は不思議なもので、気落ちしているときは悪い方に思考がいってしまい、自己嫌悪に陥る。
そんな重たい気持ちで一日を過ごすのはもったいない。
過去はそこから何かを学ぶ為にあるのであって、自己嫌悪をする為のものじゃないんだ。
だから、まだ落ち込んでる三人に声をかけようということになった。
声をかける前に、永四郎はどこかに行ってしまったけれど。
「えー慧君、知念、どこか行きたいところあるかぁ?」
甲斐がことさら明るく、いつもの口調で訊く。
俺も同じように二人に問えば、知念は田仁志を気にするように視線だけを向けた。
大丈夫だって。と俺は知念に笑った。
返事を返さずに床を眺める田仁志にこれはマズイなと思うが、今さら引く気にはならない。
返事の催促をすると、田仁志が顔を上げてこちらを睨んだ。
「うるせぇっ!何でお前等そうなんだよ!」
更衣室に響く怒声。
下級生が怯えたように一瞬だけざわめいた。
「何キレてんだ?」
何にキレたのかは分かるけれど気付かないふりをして問えば、煩いとまた言われた。
裕次郎は慌てて宥めようとするが、田仁志は聞く耳を持たずに怒鳴った。
「お前等何遊びの話ばっかしてんだよ!悔しくねぇのかよ!」
「慧君、やめて」
「知念は黙ってろ!」
口を挟んだ知念にも八つ当たり。
俺や裕次郎にならまだしも、他の奴等にまで八つ当たりしてんじゃねぇよ。
下級生が怯えてるのに気付けよ。
あぁ駄目だ、こっちまで苛々してくる。
俺や裕次郎だって、面に出さないだけで本当は気は沈んでるし苛々だってしてるんだ。
そこに油を注がれたら、着火するんだよ。
「落ち込んでたらなんか起きんのかよ」
問えば、田仁志は何も言わない。
さっきまでの態度はどこにいったんだよ。
「悔しいのは当たり前だろ!でもなぁ、いつまでも悔しいだの何だの考えてたって意味ないだろ!悔しがってたって事実は変わんねぇんだよ!」
「凛、落ち着け」
裕次郎が宥めようとするけど、今言わなくていつ言うんだ、こんなこと。
今しか言えないんだ。
今言わないと、こいつらに理解させることはできない。
「裕次郎は黙ってろ、こいつには言わなくちゃ通じねぇ」
睨めば、田仁志も睨み返してくる。
「いつまでも負けたことメソメソ考えて落ち込んでんじゃねぇよ」
「メソメソなんてしてない」
「してんだろ」
「してない」
「あの時こうすりゃ良かったって考えてんだろ」
「……」
「そんなこと考えてもなぁ、負けは変わんねぇんだよ。過去振り替えってうじうじするなら未来見ろ」
「そうさぁ慧君、欠点だけ理解すれば、過去はもう十分振り返ったことになるさぁ」
裕次郎がまとめると、田仁志は顔を反らす。
何だよその反抗的な態度は。
知念が急に鞄を漁り出して、ポーチを持って扉の方へ向かう。
あれは救急セットの入ったポーチだ。
「知念」
「ちょっとトイレに行ってくるさぁ」
そう言って、知念は外に出ていった。
あいつのことだから、永四郎のところに行くんだろう。
「……じゅく」
「あ?」
ポツリと田仁志が呟いた言葉を聞き取れなくて問うが、隣の裕次郎はよしっ!と言った。
「新宿な!新宿って何があるんだろうな、楽しみだ」
「何だ、行く気満々じゃねぇか」
「せっかく東京にいるんだからな。落ち込む前に楽しまなきゃ損だ」
田仁志の変わりようの早さに、笑った。
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