はいでえ!比嘉中!! | ナノ
8/19 田仁志慧
先程から無言で、じっとどこかを木手は見てた。
後ろでは甲斐や平古場がこれから遊びに行く話をしている。
この差に、腹が立った。
二人は負けたことをなんとも思ってない。
東京見学の話ばかりしている。
負けて良かったとでも、思っているんじゃないだろうか。そんな気さえする。
田仁志 慧
木手は鞄のなかを漁って、タオルを取り出すと部室から出ようとした。
「キャプテン」
咄嗟に呼び止めた。
木手が振り返る。
何を言いたかったのか、伝えたかったのか分からない。
ただ呼び止めてしまって、言い淀む。
落ち込むな、なんて言えるはずがない。
木手はキャプテンで、全てを背負いこんでいるのだ。
俺の負けは部の負け。そんなことも言っていた。
木手はいつものような笑みを作る。
こんな時まで笑うなよ。
無理するなよ。
「血を洗い流してきます」
それだけ言って部屋を出ていってしまう。
「慧君」
閉ざされた扉を見ていると、隣にいる知念に呼ばれた。
「ん?」
「……」
口を開いて、また閉じる。
寡黙な知念の癖だ。
「言いたいことは言えよ」
つい口調が強くなって、自己嫌悪。
知念は迷った末に口を開こうとしたら、陽気な声が邪魔してきた。
「えー慧君、知念、どこか行きたいところあるかぁ?」
「……甲斐」
ニッと笑って、くだらないことを訊いてくる。
それが癪に障るのだ。
「原宿にでも行ってみるか」
平古場も、いつもの口調。
何で、なんで。
「えー?慧君?」
「おい田仁志、返事しろよ」
「うるせぇっ!」
気持ちが押さえきれなくて、爆発した。
何でこいつ等は普段通りなんだ。
負けて悔しくないのかよ。
木手はあんなに落ち込んでるのに、何なんだよお前等は!
「何でお前等そうなんだよ!」
「何キレてんだ?」
「うっせぇよ平古場!」
「慧君」
「お前もだよ甲斐!お前等何遊びの話ばっかしてんだよ!悔しくねぇのかよ!」
「慧君、やめて」
「知念は黙ってろ!」
知念は俺と二人を交互に見ている。
「落ち込んでたらなんか起きんのかよ」
平古場が、低い声で言った。
「悔しいのは当たり前だろ!でもなぁ、いつまでも悔しいだの何だの考えてたって意味ないだろ!悔しがってたって事実は変わんねぇんだよ!」
「凛、落ち着け」
「裕次郎は黙ってろ、こいつには言わなくちゃ通じねぇ」
平古場が睨んでくる。
一瞬尻込みしそうになるけれど、こちらも負けじと睨み返した。
「いつまでも負けたことメソメソ考えて落ち込んでんじゃねぇよ」
「メソメソなんてしてない」
「してんだろ」
「してない」
「あの時こうすりゃ良かったって考えてんだろ」
「……」
「そんなこと考えてもなぁ、負けは変わんねぇんだよ。過去振り替えってうじうじするなら未来見ろ」
「そうさぁ慧君、欠点だけ理解すれば、過去はもう十分振り返ったことになるさぁ」
平古場は腕組をして、怒った様にそっぽを向く。
俺も悔しくて、視線を平古場から外した。
確かに過去をうじうじ悩むのは無駄かもしれない。
けど、平古場や甲斐みたいに割りきって考えられない。
もしあの時こうしていればって、どうしても考えてしまう。
こいつ等二人は強いから、こんな風に考えられるんだ。
俺もこんな風に強くなりたい。
気落ちした心が、目標を見つけて少し、ほんの少しだけ浮上した。
←木手永四郎へ 平古場凛へ→
- 29 -
[
*前
] | [
次#
]
←
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -