鬼灯の冷徹 | ナノ
外野が煩いのは鬼灯君の有名税?
一泊二日…??今、一泊二日って言った?
え、最近の若い子は付き合ってすぐに宿泊有りの旅行をするの?このノリが普通なの?
それとも鬼灯君が別格なの?いやでも付き合ってまだ数ヶ月だよ?何より初デートだよ?初デートでお泊まりって、助走もつけずに高飛びするようなものでは??
あ、それとも聞き間違い?私の年老いた耳が聞き間違いをしたのかな?
「カヱさん、フリーズしないで下さい」
「えっ、あ、ごめんなさい。一泊二日と聞こえてびっくりしてしまって」
「言いましたよ。一泊二日です。のんびり観光地を回って、美味しい物を食べて、源泉風呂に入って寝て帰ってくるだけの旅です」
「ええっと……ちょっと待ってね、頭の中を整理するから」
「はい」
何から話せば良いのかしら。
頭の中で飛び回っている単語を回収して、言語化するのはこんなに難しい事だったかな。必死に言葉をかき集めて、何を伝えたいか、どう表現するか、を組み立ててゆく。
「初デートだよね?」
「ええ、恋人になったカヱさんとの初デートです」
「初デートでお泊まりって、ハードル上げ過ぎじゃないかな?」
「そうでしょうか?元々私達は仕事関係で共に出張したこともありますし、殊更おかしくもないでしょう」
あ、成る程。鬼灯君は昔から私が鬼灯君を好きだと分かった上で出張等をしてきたから、あまりハードルが高くないのだ。
気持ちの面では何も変わらない、ただ肩書きが『元教師と元生徒』『上司と部下』『片思いされてる人と片思いしてる人』から『恋人』に変わっただけ。
それならば、今まで家で手料理を振る舞ったりしていたから、鬼灯君にとっては恋人の家に行く、手作り料理を食べる、そのまま宿泊する、までは完了している事になる。更に出張をデートに置き換えれば、デートもした事になる。
それだと次はお泊まりどうですか?というお誘いはおかしくない……のかな?
「安心して下さい。前に話した通り、私の部屋の寝台に乗らない限りは襲ったりしませんよ」
「え!?おそっ!」
「襲いません、と言ってるんです。そこは信用して下さい。二言はありません」
そうか、お泊まりデートってそういう事も視野に入れないといけないのか!寝顔を見られるとかすっぴんとか、そんなことを考えてしまってたよ……無知で恥ずかしい。
「鬼灯君は信用してるよ。うん。でも、私にとっては初めて恋人になってからのデートで、それが一泊二日は、やっぱりハードルが高いよ」
「……。そうですか、済みませんでした。では別のプランでいきましょう」
あっさりと引く鬼灯君に、あれ?となる。
「ところで、どうして急に一泊二日を提案したの?私がこう言うって想像出来ていたんじゃないの?」
「そうですね、想像はしていました。ただ、可能性がありそうだったので」
「どういう可能性?」
「いえ、お気になさらず。ではデートの待ち合わせ場所ですが」
いきなり別プランについて話し始めるので、本当に2通りの考えを持ちながら話してきたのだな、と理解する。
わざわざ断られるのを前提に宿泊プランを提案してきた事が気になるけれど、本人は口を割るつもりがなさそうなので、訊ねても答えはしないだろう。表情も変わらないし、詮索出来そうな部分がどこにもない。
「カヱさん?」
「え?あ、ごめんなさい」
「話、聞いてましたか?」
「聞いてたよ」
待ち合わせ場所を復唱すれば、頷かれる。現世の大きな駅が待ち合わせ場所になっていて、少しワクワクした。
「楽しみだね」
現世ならば鬼灯君を追いかけ回しているパパラッチもついて来れず、人目を気にしなくて良いというのは心強い。人権無視して売り上げだけのために有る事無い事面白おかしく書かれるのは勘弁して欲しいからね。
「では、私はそろそろお暇します。ご馳走様になりました」
「あ、待って。今日も帰って仕事でしょう?食堂はもう閉まっているだろうし、夜食を用意するから少し待っていて」
「そうですね、お言葉に甘えます」
立ち上がろうとする鬼灯君を制して、手早くおにぎりを作る。好きな具材を入れて渡せば、感謝された。
「また来てね」
「分かりました。ではまた」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
玄関先で手を振って、鬼灯君を見送る。
小さくなる背中を見つめて、わざと敬語を使って抱きついても良かったかもしれない、等と不埒な考えを持ってしまった。
「デートの時、手を繋ぎたいな」
触れることの叶わなかった手を見て、独り言が口から溢れた。
***
今日・明日を頑張ればデートだという日、つまり木曜日。人材育成に関する講習会で、麻殻先生の所に書類を持って行かなければならない日だった。
他の先生に任せても良かったのだけれども、先日現世に行く手続きをしてもらった恩もある。一言お礼を言っておこうと思い立ち、自分の足で麻殻先生の担当する職業訓練場まで向かった。
「失礼します。カヱです。講習会参加者名簿を持ってきました。内容確認頂いたら、ハンコをお願いします」
「おう、カヱか。お疲れ」
「お疲れ様です」
「珍しいな、お前が直接来るなんて」
確かに、私は自席で書類整理したりハンコ押したりと、自分の職場を離れることはほとんどない。その私がこの為だけにここまで来るということは、別の用事があると示唆していると言っても過言ではない。
麻殻先生が少しニヤニヤしているのが分かって、先日はどうも、というのも言いづらくなる。この人に対してはどうにも素直になれないのだ。共に教職をしていた時の名残なのかもしれない。同僚には軽口を叩きたくなるのと同じ心理だろう。いや、彼は第二補佐官で、元同僚であれ立場はまるで異なるのだけれども。
それでも癖は抜けなくて、感謝の言葉よりも先にそのニヤニヤ顔はなんですか、と問えば、周囲を確認した後、大きな体をかがめて、小声で旅行するんだろ?と言われた。
「……え?」
私が?誰と?何で?と考えて、ハッとする。先日鬼灯君が旅行の話をしてきたのだった。一泊二日の旅行。
「ん?」
「あの、もしかして鬼灯様に……」
「ん?ああ、せっかくだから連休にして旅行でもしてこいって助言したんだ。あいつ仕事漬けだろ。こっちが気を回してやらなっ」
「急にあんなこと言い出したから何事かと思ったら!あなたか!!」
掴みかかって睨みあげれば、どうどう、とホールドアップして言われる。私は獣じゃないよ!
「っ!もしかして、私が現世行く許可取りに来たことも言いました?」
「いやそこまでは言ってない。ただ楽しみにしてたとだけ伝えた」
「それで?」
「それでせっかくだから、俺が代わりに仕事受けるから二連休にしてどこかに旅行したらどうだって話したんだ。それのどこがマズかった?」
つまり、鬼灯君は私が麻殻先生と会っていたことを知っていて、且つその麻殻先生が気を利かせて連休取れるようにして、更にその麻殻先生が宿泊旅行を提案した、という…。
だから鬼灯君は宿泊旅行を提案してきたのだ。麻殻先生と話した私が、宿泊旅行したいと言っていたのではないかと考えたかもしれない。その可能性を確認する為に宿泊プランの紙を持って、わざわざ我が家を訪ねて来たのかもしれない。
だって鬼灯君、言っていたじゃない。『可能性がありそうだった』って。
「それは大変マズいですよ。本当に、なんて事」
「取り敢えず襟元を離してくれないか」
「あ、済みません」
手を離すと、麻殻先生は襟元を正した。
鬼灯君はせっかくの連休を私と過ごそうと考えて、声をかけてくれたのだ。それなのに、私はすっぴんが恥ずかしいとか、寝顔がとか、そんな下らない理由で拒絶した。
後悔が津波のように押し寄せてきて、喉がキュッと締まる。
「麻殻先生、鬼灯様は2連休のままですよね?」
「ん?ああそうだが」
「分かりました。では、取り敢えずこの書類にハンコを下さい。私は急用を思い出したので、早く押してください。今すぐに」
「もしかして、断ったのか?」
「……」
嘘だろ?と言われる。麻殻先生は呆れ顔だ。
だって付き合いたてで宿泊ありの旅行なんて、色々すっ飛ばしてるじゃない。断るのだって、仕方ない事でしょう?
「あのなぁ、お前たち何千年一緒に過ごしてるんだ。旅行なんて今更だろう」
「恋人になったのは最近ですよ」
「俺たちから見たらお前たちはいつ付き合うつもりなんだって印象だったけどな」
「私の片思いが分かり易かったのは知ってますけど、鬼灯様は違うでしょう?」
「あのなぁ」
麻殻先生は心底呆れたと言わんばかりに頭を掻く。
「お互いに部屋を行き来するし、お前は手作りの料理を出してあいつは疑わずに食べて、たまに2人で食事に出かけたりしてるだろう。それで気がない、は無いだろう」
昔からの延長線で見ていた部分を指摘されて、言い訳が頭に浮かぶ。お互いの部屋を行き来してたのは彼がまだ閻魔殿に入る前だったのだからかなり昔だし、それ以降は、まぁ私の家に宿泊したりはしていたけれども、昔からの延長線上の出来事だと思っていたし、鬼灯君もそうだろう。
彼が恋焦がれている相手の家に友人面して泊まる性格だとは思えない。そういう意識のある相手には、弁えて行動するだろう。証拠に、ここ最近は私の家に遊びに来ることはなかった。
しかしこれは私の見解であって、他所から見たらきっと違うように映ってしまっていたのだろう。押し黙って、麻殻先生の言葉を待つ。
「あんまり期待させてやるなよ」
「恋人いないのに、やたら知識が豊富ですね」
「だから恋人がいないと決めつけて話すな!」
「いるんですか?これは失礼しました」
「いない!」
ついうっかり口から出た悪態は許してほしい。少し乱暴に押されたハンコを確認してから、先日の現世行きの許可ありがとうございました。と言ってその場を離れる。
閻魔殿の中を歩きながらも頭の中は別のことを考えていて、周りの情報なんて完全にシャットダウン状態になる。
旅行を断ったことに関しては後悔はしていない。私にはハードルが高いと思ったし、もし行くと言っていたら気が気ではなかっただろう。
ただ、申し訳ないのだ。恋人が私でなければ旅行の提案をされたら喜んで、鬼灯君も久しぶりに得られただろう連休を楽しく過ごせていたはずだ。今回の元凶は麻殻先生であるから麻殻先生に腹が立つ部分はあれども、遅かれ早かれこうなっていたと思う。
でも申し訳ないから旅行に行けるかと言われたら分からない。ただ、停滞している私に寄り添ってもらっていては、きっと進展はない。
少しくらいは自分から歩み寄らなければならないのかもしれない。
鬼灯君との宿泊も、よくよく考えたら先日鬼灯君の部屋で夜は明かしているし、我が家に来てくれた時には寝食を共にしていた。
その時から既にスッピン見せてるし、寝顔も見られてる。むしろ、昔の化粧など無い時代では常にスッピンだったではないか。家に泊まりに来ていた時も、お風呂上がりは当然スッピンだった。
それが恋人同士となった途端に恥ずかしがるのは、私の方がおかしいのかな?
困った。余計に分からなくなってきた。
こんな時に相談できる人を一人でも用意しておけば良かったなぁ。
「にゃ〜ん」
猫の鳴き声に驚いてあたりを見回しても、猫の姿はない。どこから鳴き声がしたのだろうとキョロキョロしてると、下ですにゃ、と言われた。
「わっ!猫又」
「存在認識して叫ばれると凹みますニャ。おたく、カヱさんでしょ?」
尾っぽが2本ある猫は顔を掻きながら、私の名前を言い当てる。この子は誰だろう。帽子を頭にちょこんと乗せている容姿は、見た記憶がないのだけれども。
首から下げたカメラ、手にはメモ帳とペン。あ、この風貌、もしかして取材班か何か?
「えーっと、どちら様ですか?」
「小判と申しますにゃ」
「小判…?初めまして、小判さん」
しゃがんで少し目線を近づけて挨拶をする。そのまま立ち上がって、では、と去ろうとすると、まてまてまて!と背中に声をかけられた。
「私に何か用ですか?」
「あなた、第一補佐官の鬼灯様の恋人ニャんでしょう?」
「……」
「なんで黙るんですかい?」
「あなたと喋ると嫌なことが起こりそうで」
「失礼な!わっちは至極真面な記事を書いてますニャ」
「あ、やはり記者でしたか。では私は黙秘します。さようなら」
私が喋ったらきっとロクな事にならない。鬼灯君の恋人だからと記事にしたがるという事は、きっと週刊誌記者か、新聞の中のゴシップエリア担当者だ。そんな人たちに関わっては、きっとロクな記事にならないだろう。
「いやいやいやいや、そんニャこと言わニャーで、ちょっとお話ししたいだけニャんですよ」
「私は話すことがないです」
「そう言わずに。第一補佐官の事はなんて呼んでるんで?」
うっわ、ベタな質問。
芸能人の結婚記者会見で聞くことが思いつかない記者が口にしそうな言葉だ。なんで結婚をしていない、付き合いだしたばかりの相手にこんな質問をするのかな。
最近平和だから、ページを埋める為にどんな小さなネタでも拾わないといけないのかもしれない。お疲れ様です。
「無視は良くないと思いますがねぇ」
「……」
「教師として、そんな態度取って良いんですかい?子供にとっての見本にじゃなきゃ駄目でしょう?」
私の職まで調べ上げていたのか。それ位なら別に困らないけど、学校という特殊な空間に張り込まれてしまうのは避けたい。
「私は子供たちに知らない相手に話しかけられても無闇に口をきくなと伝えてますから、行動は一貫していますよ」
「困ったニャァ〜人となりが分かったら、お話ししたいことがあったんですがね」
「左様ですか。私は話す事はないので」
「鬼灯様の事でもですかい?」
不覚にも体が反応して、足が一瞬止まってしまった。私の動揺を目敏く察知した猫又は、私の前に立つと愛らしい猫のような顔立ちで見つめてくる。
小さな体で前に立って、私を通せんぼしたつもりだろうか。
「ピーチ・マキはご存知かニャ?」
「……」
「だんまりかぁ〜。いえね、最近売れてきてるピーチ・マキと鬼灯様がね、連絡先を交換してたんですよ」
「……」
「元グラドルの子と親密な関係になってるんじゃニャーですかねぇ?」
「連絡先の交換だけでそこまで憶測が飛躍するのも大変危険だと思いますよ」
「いやいや、ここからがね、声を小さくしなきゃならないことなんですが」
猫又はもったいぶるように周りをキョロキョロと見る。この間に興味がないと一蹴すれば、話は終わりになるだろうのに、それが出来ないのは続きが少し気になってしまったから。
相手はそれに気を良くしたのか、少し口角を上げて、それから慌てて悲しそうな顔を取り繕いながら、小声で話し始めた。
「親しいと言うには度を超えた様子で密会しているのを、私の知り合いが見たと言うんですよ」
「……」
「カヱさん?」
ショックで声も出ニャーですかい?と言われ、たっぷりと間を開けてから、はぁ〜と大きく溜め息を吐く。猫又は目を大きく見開いて、私を見上げていた。
「では、その友人を呼んでください。また、いつ何処で見たかも教えてください」
「えっ?」
「最近多いチェーンメールでも、知り合いが見た、知り合いが話していた、というのが多くあるじゃないですか。その類を話されているようにしか聞こえません」
「にゃ、にゃんだと…!?」
「まず一つ」
自然と握っていた拳の状態から人差し指を伸ばし、相手の面前に突き出す。
「鬼灯様は金魚草の第一人者であり、マキさんは金魚草大使です。接点があるので、連絡先を知っていても不思議ではありません」
「いやしかし……」
「二つ目」
相手の言葉に覆いかぶさるように、しっかりと発声する。中指を立てて、2、と指で見せつける。ピースをしているようで少し滑稽だ。
教壇に立つときと同じ表情を保てているだろうか。
「もし鬼灯様とマキさんが恋仲だったと仮定しましょう。それならば、私と恋仲だと公に言うのは、かなりのリスクです。彼は第一補佐官、二股していると報道される位なら、先にマキさんとお付き合いしていると言うでしょう」
「アンタを隠れ蓑にする為かもしれませんぜ?」
「私を隠れ蓑にするメリットがありません。私と真剣交際しています、と言うより、マキさんと真剣交際しています、と先に言っておくほうがよほど安全でしょう。アイドルであるマキさんが公にするのを嫌がったと考えられるかもしれませんが、それでも、隠れ蓑で別の恋人作ります、はマキさんにとってもお辛いでしょう。マキさんがそんな事を望むとは考えられません」
「マキが望んだ可能性をどうして消せるんで?今は天然系で売り出してますが、過去に悪女路線だったこともある女ですぜ?」
「それは、あなたが書いたからでしょう?マキさんが嘆いていましたよ、小判って猫又を拾って少し世話してあげたのにこの仕打ちって」
えっ、という顔をされる。そうか、そこまでは調べつかなかったのね。
「三つ目です」
薬指を立てる。
「マキさんは鬼ですからね、私の教え処の生徒さんですよ。卒業後もたまに遊びに来てくれていたので、人となりについてはそこそこ理解しています」
「げえっ!」
「ですから、あなたの想像するマキさんと鬼灯様が恋人、というのは違います。私を動揺させて、何を聞き出したかったかは存じませんが、無駄足でしたね。それではまた」
書類を胸に抱えて足を踏み出す。表情は分からないけれど、声は取り繕えていた、と思う。震えてもいなかったと思う。
早足にならないように、普段通りに歩いて人がいない所まで来ると、どっと疲れが出てきた。
口では否定をひたすら並べたけれど、あの猫又の想像が真実だったらどうしよう。だって私とマキちゃん… あの真黍ちゃんだよ?どっちが良いかと言われたら、どう考えても真黍ちゃんでしょう。
「連絡先交換……」
元々グラビアもやっていたスタイル抜群で小柄で可愛い真黍ちゃんと鬼灯君……物凄くお似合いだよね。私だって二人が付き合ってないかなぁって想像したもの。
連絡先を交換してたらプライベートでも会えるよね。そういう仲にもなれるよね。でもだったら、鬼灯君が私と付き合う理由が皆目見当がつかない。
本当に隠れ蓑にするため?でもそれは、あまりに不誠実だし、真黍ちゃんも嫌がるに決まってる。あの子は天然で真っ直ぐな子だから、例え自分の立場を守る為という理由でも、傷付いてしまうに違いない。
何よりバレた時のデメリットが大きすぎる。
ここまで考えて、自分に都合が良いように羅列してるなぁ、という考えも湧き出てくるわけで……胸が苦しくなる。
「カヱさん」
下を向いて歩いていたら、耳に馴染む低音で声をかけられて驚いて前を見る。そこには鬼灯君が居て。
「っ。鬼灯様」
「何驚いた顔をしているんですか。ここは閻魔殿ですよ。私が居てもおかしくはないでしょう」
「あ、え、いや。ま、まさか会えると思ってなくて」
本当に、びっくりした。今、顔を見て話したら余計な事を口走ってしまいそうで、何を話せば良いのか分からなくて、口の中が乾燥してしまう。
「はい落ち着いて。ジュースぐらいならご馳走しますよ」
ほらほら、と自販機のエリアに連れていかれる。
ちょっと待って、こんな心情で一緒にいたら、嫌な生き物になってしまいそうだよ。
- 10 -
[
*前
] | [
次#
]
←
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -