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act.05
戦闘
「ったぁ〜」
背中を木にぶつけて、地面についたお尻。
棍で剣を支えたのは良かったが、力任せに突き飛ばされてしまった。
「まだまだだなぁ」
「……ですね」
差し出された手を掴んで立ち上がり、お尻を叩く。土が乾燥していて良かった。雨上がりに尻餅をついたら、汚れをとるのが大変だった。
「ビクトールさんの剣を受けたら手が痛い」
「俺をなめちゃぁいけねえぞ」
彼は豪快に笑う。私は楽しくなんてない。
だいたい朝食を食べる間もくれずそのままここに来て戦って、あの形に持っていくなんて卑怯だ。
力で押し合いになれば、私が負けると分かってるのに。
まぁ、戦いに卑怯とかはないんだろうけど。
「だがミョウジ、お前は確かに強いぞ。今のお前は朝食ってないし疲れてるから俺は勝ったんだ」
「気を使わないでください。今負けましたよ」
「それは俺とだからだ。そうだな……ルックと戦ったらどうだ?」
「えっ」
一人眉間に皺を寄せていたら急に彼の名前を出されて、声が裏返ってしまった。
ビクトールはニヤリと嫌な笑いをする。
「ミョウジは魔法使いと一対一で戦ったことがあるか?」
「……記憶にないですね。私は人間とは、あまり戦っていませんから」
私の戦いは対魔物だ。
人間と戦う時なんて、稀に通行代だと文句をつけてくる賊相手くらいである。
「じゃあ呼んでこようぜ」
「待ってください、何で急に」
「さあなぁ」
「待ってください!嫌ですよ!」
戦えるはずがないし、だいたいあの人と戦うなんて無理だ。彼は紋章の申し子とすら言われているのに。
それに時々見る切り裂きという技は、身の毛もよだつ代物だ。
「駄目だ。強くなりてぇんだろ」
彼の腕にしがみついて行くのを阻止しようとすれば、逆に引きずられてしまう。
逃げようとすれば、しがみついていた腕を捕まれてしまった。
つまり、もう逃げれないということで、どんどん城が近づいてくる。
「嫌だって言っているでしょう!」
「だーめーだ」
城内に私の嫌がる声が一瞬木霊した。大声を出して皆に視線を向けられるのが恥ずかしくて、顔が熱くなる。
「おーいルック、ちょっと良いか?」
石版の前に立っている彼。私たち二人を見て訝しげにする。
「何?何か用?」
「手合わせしようぜ」
彼はあからさまに嫌そうな顔をする。私は今すぐにでもビクトールの後頭部を棍で殴って気絶させてやりたかった。
「あんた切り裂かれたいの?」
「いーや、俺じゃなくて、手合わせ願ってんのはミョウジだ」
「……君が?」
「違っ」
「そうだ」
私が否定をしようとすればビクトールがいつも通り大きな声を出して遮る。
「こいつ魔法にめっきり弱くてなぁ。お手柔らかに頼むぜ」
「まだ受けるとも言ってないけど」
「解放軍からの顔見知りの頼みなんだから、快く受けろよな」
「僕に利益があるわけじゃないし」
「あるぜ、お前さんだって戦い方を学んだ方が良いだろ。一応至近距離タイプなんだからな」
わざと煽るような言い方。勘弁願いたい。
ルックの表情に、冷たさが際立つ。怒っているのだ。
「至近距離攻撃なんかより魔法の方が使えるってことを教えてあげるよ」
「だってよ。良かったな」
まったくをもってよろしくないですよビクトールさん。
高位魔法使いの彼にスピードタイプの私が勝つには、逃げ回って魔力を削るか魔法を唱えている最中しかない。
今はビクトールとの手合わせで疲れているから、魔法を打つ前に勝たないといけないかな。
……出来ればだけど、ね。
「言っとくけど、挑んできたのは君だからね」
「私じゃない」
誰にも聞こえないよう一人愚痴る。彼の右後ろに居るビクトールを遠目で見れば笑顔で手を振られた。
「んじゃ始めっぞ」
彼が空高く剣を投げる。あれが地に刺さったら開始だ。
地に刺さったのを見計らって後ろに跳躍すれば、私の元いた場所に風の刃が舞う。
本当に手加減なしだと理解して、汗が背中を伝った。
「あっ……」
どうしよう。
後ろに逃げたらルックに近づけない。でも風の刃は前から襲ってくる。
「もたもたしてたら切り裂くよ」
私は右に向かった。彼を中心に半径を徐々に縮ませながら弧を描く。
風の刃は彼からこちらに来る。つまり弧を描き続けながらうまく逃げれば、当たらなくて良いし近づけれる。
うまくいけばだけどね。
風の刃も何回か見れば慣れるもので、避けるのも容易くなってきた。
「はっ!」
体を回転させて風の刃を避け、そのまま棍を彼めがけて振る。
だが残念なことに護りの天蓋をうたれていたのか、棍は跳ね返された。
「っ……」
守りは一度だけだということは知っているので、そのまま棍を下から上へ凪いで彼の顎下で寸止めしようとしたら、
「ぎゃああああああっ!!!」
一瞬身体が硬直する。
後ろから聞こえてきた断末魔。
確かにそれはビクトールのもの。
後ろを振り返ってみて、納得した。
「切り裂いたんですか……」
「当たり前だろ」
ルックは元々私を狙っていなかったのだ。
私にわざと弧を描くように移動させて、自分とビクトールを結ぶ線の上に私を誘導する。
そうすれば私とビクトールを一緒に視界に入れることが出来て、私の攻撃を護りの天蓋でガードしてるうちにビクトールに切り裂きを打つと。
ビクトールは私が次にどういった攻撃を繰り出すのかを見ていて、防御または回避が遅れて切り裂きをくらったと……
「……私の負けですか?」
「違うんじゃない?」
ルックを見れば、息も切らずに言われた。
彼の顎の下では私の棍が寸止めされたままの状態。
私は急いで棍を退かした。
「酷えぞ、ルック……」
ビクトールがボロボロになりつつもちゃんとした歩みでこちらにやってくる。
「魔法のほうが使えるって分かっただろ」
「まあな……」
ルックは鼻で少し笑うようにして、ビクトールは苦渋の表情を一瞬浮かべた。
「それにしても、お疲れさん。ミョウジ、頑張ったな」
「じゃあ僕は戻るから」
彼は背中を向けて行ってしまう。私は背中をじっと見送った。
「良いように誘導された気がします」
額に浮かんだ汗をようやく拭う。
「だからって、あいつが好き好んで負けるかよ。俺が切り裂きくらったとき、お前もくらったと思ったぞ」
「最初から私と戦うつもりなんてなかったのかも……」
「本気で挑む奴に手加減するほど失礼な奴じゃねえだろあいつは」
「……」
それでも不満だった。魔法がああも避けやすいとは思えない。
それが顔に出てしまっていたのだろう、また頭をグシャグシャにされてしまった。
「ま、お前の目は悪くないって分かったな」
「何のことですか?」
「お前の好いてる奴は悪い奴じゃないってことだよ」
顔が一気に火照った。
体温と心拍数が上昇して、口がわなわなと震える。
こういう話は得意じゃない。
「な…にを…?」
「ははは!!若いってこった!頑張れよ」
「違っ!待ってくださいよビクトールさん!私はただ……とにかく!そんなんじゃないですよ!!」
顔を熱くして否定すれば、
「若い若い」
と豪快に笑われる。
よけいに顔は熱くなった。
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