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最高の褒め言葉はひどく私を傷つける
最高の褒め言葉はひどく私を傷つける
今日この日、私はある殿方の元へ嫁ぐ。
髪を結って重たい髪飾りで煌びやかにして、唇に紅を引く。
純白の服。
それは女性の憧れ。
女性は愛する人の隣にこれを着て立つことを夢見る。
けれど所詮、夢は夢でしかない。
顔も知らない相手との結婚に夢を見られるはずがない。
でも、これが普通なのだ。
このご時世、好きな殿方と結ばれるなんて殆んど無い。
女はお家の、またはお国の駒なのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
「終わったか」
襖越しに聞こえる声に、こんな時ですら嬉しさを感じてしまう。
仕方ないのだ、私は今日でこの国を去るのだから。
もう会えなくなるのだから。
周りの女性が慌てて襖を開けると、私が愛してやまない人が姿勢良く立っていた。
「ふむ、馬子にも衣装だな」
「褒めてますか?けなしてますか?」
「自分で考えろ」
けなしていると考えて良いようだ。
「元就様、わざわざこんな所まで嫌味を言いに来たんですか?」
「我はそんな暇ではないわ」
「ではどうして」
「今日、この国を発つ貴様に餞別を送ってやろうと思いついてな」
袂から取り出したのは、繊細な作りの簪。
「後ろを向け」
「はい」
裾を引き摺りながら半回転をすれば、頭に触れる掌。
良いぞと言われて向き合えば、元就様の口元が少し笑みを浮かべたように見えた。
それだけで、私の胸は苦しくなる。
「ナマエに似合うと思ってな。やはり我の眼に狂いはなかった」
最高の殺し文句。
これで貴方が殿方だったらどれだけ良いだろう。
なのに違う。
これは他国へ嫁ぐ私を、少しでも見栄え良くする為の行為なのでしょう?
何て酷い。
残酷だ。
貴方は残酷だ。
悟い貴方なら私の気持ちに気付いていたでしょうに。
これを買う時、私を想像してくれたのですか?
貴方にとって簪を買うなんて行為は恥ずかしかったでしょうに。
でも感謝の言葉なんて口にしません。
貴方は私を傷付ける為にこの簪を送ったのでしょう。
私から貴方への気持ちを断ち切らせる為に、こんな事をなさったのでしょう。
天にも昇るような台詞と共に、こんな行為をなさるなんて。
口の端をつり上げ、元就様は言った。
「幸せにな」
07/05/14
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