デスノ 君と私は足してゼロ | ナノ
7日 呉越同舟
のし掛かるLを蹴り上げようにも太ももに乗られているから蹴れないし、殴ろうにも片手はエクレアを食うLに噛まれているし、もう片方の手はLを押し返そうとして逆にL手首が掴まれたままだ。
君
と
私
は足して
ゼロ
呉越同舟
「ご馳走様でした」
ガリガリのくせに人の動きを封じやがって、ふざけるな。
食い尽くされたエクレアに、溶けたチョコでベッタベタの手。
退いたLに拳を繰り出せば、予測していたのだろう、あっさりと避けられる。
「避けんなよ!」
「痛いのは嫌いです」
「私だって手を囓られて痛かったわ!」
「私は事前予告しましたよ」
「分かった。じゃあ私も事前予告するよ、殴らせろ」
「断ります」
拳を避けるL。こいつガリガリのくせに動きは俊敏だ。
どこにそんな筋力あるんだよ。
「事前予告したんだから殴らせろ!」
「私は断りました。シャリは噛めるものなら噛んでみろと煽ったので、私は噛みました」
ほとんど聞き取れない状態だったはずなのに、何でこいつは私の言葉理解しているんだ。
これが変態と通常の違いか。
耳の作りまで違うとか末恐ろしいね。
そういえば、小説だけどホームズも何か身体的特徴があっはずだ。
探偵になる奴は何かしら特徴があるのかもしれない。
探偵で耳が悪いのも目が悪いのも致命的だから、逆に淘汰された結果、探偵になった奴は耳が良かったりするのかもしれないけど。
それにしても、空振りばかりで余計に苛立つ。
Lがローテーブルを飛び越えて後ろへ逃げるので、私はローテーブルを踏み付けてLを追いかける。
「待ちやがれこの野郎!」
「言葉が汚いですよ、シャリ」
「人の手に噛り付く奴に言われたくねぇな!」
唾つけやがって汚らしいのはどっちだ!
追い掛けながら蹴りや拳を繰り出して、その度にひらりひらりと逃げられる。
余計に苛立ちは増す一方だ。
そんな事を繰り返してくると、電話が鳴った。
「シャリのですよ」
「知ってる」
仕方ない。一時休戦だ。
ローテーブルから転がり落ちていた携帯電話を、囓られていない綺麗な手で持つ。
利き手ではないから、携帯電話一つ使うのも時間がかかる。
画面を見れば非通知着信。
会社関係は一区切りついた現在、私に電話してくる人なんて限られている。
保険関係くらいだ。けれどそれ等が非通知で電話してくることはまずあり得ない。
だから、もしかしたらと少し胸を躍らせる。
「もしもし」
Lに向けて発した声より幾分高めの声を出す。
Lの表情がうわぁ、と言いたげなのはこの際無視だ。
『シャリさんですか?』
「はい、私です」
『お変わり無いようで安心しました。ワタリです』
気遣う言葉を最初に述べてくれるこの紳士さ。本当に素敵ですワタリさん。
何でこんな紳士が側に居て身の回りの世話をしてくれていたのに、Lは紳士のしの字も無い人間になってしまったのか。
嘆かわしいですワタリさん。
貴方の人柄が後世に引き継がれないなんて、世の中は間違ってます。
『シャリさん?』
「済みません、少し意識が飛びそうでした」
飛びそうと言うより、飛ばしていたのだけれども。
約一週間、この甘党で奇人変人な奴と二人きりの生活だったから、ワタリさんの声が救世主のそれのように聞こえる。
『まさかLに合わせてシャリさんも寝不足ですか?貴女は女性なのですから、目の下にクマを作ってはいけませんよ』
紳士すぎて呼吸が止まりそう。
良い人過ぎますワタリさん。
こんな人が側に居てくれたら、私は規則正しい生活になるだろう。
こんな、Lみたいに甘い物ばかり食べて眠るのも怠るような不健康な生活は絶対にしない。
ワタリさんには気苦労をかけたりしない。
「ご心配ありがとう御座います、ワタリさん。寝不足では無いのでご安心下さい」
それは良かったです。と返される言葉。
有頂天になる私になど気付くわけもなく、ワタリさんはところで、と話を切り返した。
『今日一日でLの担当を終えるわけですが、この六日間は如何でしたか?』
どうでしたか?って、そんなの聞いたところで私が口にする答えが綺麗に繕ったものだと知っているでしょうに。
それでも聞いてくるワタリさんはやはり素敵です。
「とても新鮮な日々でした」
『それは良かった。では、最後の一日についてですが』
おや、何かミッションが出されるのか?
耳を携帯電話にくっつけて、ワタリさんの言葉を待つ。
わざと間を置くのもワタリさんの策略なのだろう、こういう駆け引きを仕掛けてくれるのもトキメキだ。
老紳士なのにお茶目な部分を兼ね揃えているなんて、世の中の女性は黄色い声をあげるに違いない。
尤も、ワタリさんはLの代わりに世界を駆け回る立場である為に、世の中の女どもと仲良く話したりしないわけで、つまりこんなワタリさんを知っている女は私くらいなのだ。
何という優越感だろう。
ワクワクしながら次の言葉を待つ私に、ワタリさんは爆弾を落としてきた。
『Lとシャリさんが居るホテルのレストランで、L、シャリさん、そして私で夕食をとりましょう』
「……え?」
今なんて言った?
私達が居るホテルのレストランで夕食会?
しかも、ワタリさんと私と、それからL?
『ですから、夕食の時間になったらLをレストランに連れてきて下さい。それがシャリさんの最後のお仕事です』
「Lを、ですか?」
『はい。貸切にしておりますので、心配はありません』
では、二人にお会いできるのを楽しみにしています。と言うとアッサリと通話が切られる。
私はLを見る。
Lは私とワタリさんの会話内容が少し気になっているようで、首を傾げて私を見ていた。
隈有りギョロ目のガリ男がそんなポーズでいても全然可愛くねぇからやめろ。
さて、どうするか。言うか?
どうせこいつはレストランには行かないだろう。
何と言っても出不精だ。
何より、Lである限り人目に触れる場所は極力避けなければならない。
だから私はこの六日間、買い出し役を仕方なくもやってきたのだ。
Lを人目に晒さない為に。
しかしワタリさんは通話を切る前に二人に会えるのを、とわざと強調して言っていた。
それは、私一人で来るな、二人で来い、という事だろう。
私はワタリさんとレストランで食事をしたい。物凄くしたい。
テーブルマナーはしっかりしていないかもしれないけれど、ワタリさんに食べ方でガッカリされるかもしれないけれど、それでも行きたい。
こんなチャンスは二度とない。
けれどその為にはLを動かさなければならない。
さっきまで殴ろう蹴ろうとしていた相手だ。
そう簡単に私の発言に了承するはずがない。
というか、Lなのだから外に出るわけがない。
何という難易度の高いミッション。
日本の神様、何だっけ?天照?
あれが洞窟に入って岩戸で入り口を塞いで引きこもった時、他の神様はどうやって外に出したのか……。
確か外で歌って踊ってしていたら、岩戸を退かして天照が遊びに参加してきたはず。
それをLにも…活用できるわけないか。
上手くLを連れ出す方法がない。
私がLの立場だったらどんなに魅力的な食べ物があっても、外に出ずに誰かに持ってこさせる。
Lを動かす方法が思いつかない。
仕方ない、小細工なんてせずに正直に言うか。
「L、今夜の夕食はレストランで取るとしよう」
「ワタリがそう言ってきたんですか?」
お察しが良くて何よりだよ。
流石、世界の頭脳だね。
Lはワタリさんが何を思ってそれを提案してきたかを考えているのだろう、沈黙だ。
その推理を是非口に出して欲しいんだけどね。
私にはワタリさんの考えが分からないから、悔しくはあるがLの推理を聞いて見たくもある。
お茶をしている時はベラベラ喋る癖に、こういう時は全く喋らないなんて、使えない男だ。
Lの考えが纏まるまで数分、じっと待てばLは私を見て、口を動かした。
「そうですね……」
呉越同舟(ごえつどうしゅう)
仲の悪い者同士が、行動をともにすること。
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