デスノ 跡継ぎ 番外 | ナノ
Valentine2008
ワタリと一緒に調べたい事があるからケイは先に寝ていて下さい。とLに言われたのは夕食時だ。
そわそわするLに、これは何かあると気付く。
今日は2月13日。
成程、ワタリと一緒に何かをする、か。
いつも通りの笑みだけ浮かべて、詮索もせずに了解した。
跡継ぎ
バレンタイン
風呂から出て、早々におやすみと二人に笑顔を向けて二階の自室に入る。
まだ少し湿った髪を掻き上げて、ふと視界の端に入った鏡面台に映った己と目が合った。
映る私は、口元が僅かばかりに上がっていて、笑っている。
表情が意図せず笑みを浮かべるなんて、浮かれている自分に尚の事可笑しさを感じて笑ってしまう。
しかし、楽しみなのだから、笑ってしまうのは致し方ない。
今日は2月13日。
明日はバレンタインデー。
昨年は何も用意していないと気落ちしていたLだったから、今年はと考えて何か行動に移すのはすぐに想像がついた。
隠したがっているようだし、盛大に驚いて、喜んであげよう。
ワタリが手伝っているにしても、Lの手作りには違いない。
Lの手作りを食べるのは初めてだ。
嬉しいのは隠しようもない事実。
ただ残念な事に、いつもの癖で勝手に分析を始めてしまう頭はLが私に何かをプレゼントしてこようとする動きを詠んでしまってサプライズ感を無くしてしまう。
否、それでも、嬉しい事には変わりない。
何があっても感情の起伏を抑えるように生きてきた私が驚いたふりをするのは多少至難の業だが、驚いてもらえなければ作った側の気持ちが盛り下がるのも事実。
しかしLの事だから、私が薄々気付いているのは分かっているはず。
それを誤魔化して喜ぶには、どうすれば良いだろうか。
プレゼントを渡されて、手作りだと知って驚くのが一番アクションとして合っているかもしれない。
Lが作ってくれたのが嬉しい。
去年私が渡した物より上手で驚いた。
私の為に寝る間も惜しんで作ってくれたんだね、ありがとう。
ざっとこんな感じだろうか。
しかし、本当に、睡眠時間を削ってワタリと料理をするなんて。
その微笑ましい姿を是非見たいものだ。
見る事が出来ないのが本当に、惜しい。
ワタリのことだからある程度手が込んでいて作りやすい、トリュフを教えているに違いない。
嗚呼、本当に、見られないのが惜しい。
一回に居てはLとワタリが落ち着かないだろうと思い自室に着たは良いけれど、こんなに早く眠れはしないのだから何かをして過ごそう。
部屋には読み慣れた本。
これでは暇つぶしにもなりはしない。
音を出さないように扉を開けて、先代達が置土産にした本がある部屋へ足音を忍ばせながら向かう。
途中、下のリビングから話し声が漏れていたが、聞き耳を立てないようにと足早に部屋に入り、読んでいない本を適当に棚から抜く。
寝室に戻って、ベッドに腰掛けて本を開く。
こんなに落ち着いた時間を過ごす事は無かった。
いつも仕事の内容が頭を駆け巡っていたのに、今は穏やかに本を読んで時間潰しだなんて、昔の自分は想像もしなかった。
控えめなノック音。
扉の隙間から漏れた光に起きていると悟ったのだろう、Lがケイ、と私の名を呼んで扉を叩く。
どうぞ、と言えば入ってきて、ベッドに座る私をじっと見てきた。
「寝ていなかったんですね」
「本を読みだしたら、眠気が飛んでしまったんだ」
嘘でもなければ、本当でもない。
Lはちょっと楽しそうに、いつもよりもひょこひょこと浮足立った調子で近づいてくる。
抱きしめると髪から甘ったるい、カカオの香り。
この子にお似合いの香りだ。
Lもぎゅうと抱きついてきてくれて、甘ったるい、喉の奥が焼けそうな香りが肺を満たす。
「ケイ」
何?と問えば、Lは私の手を握って、眠くないんですか?と問うてくる。
「Lは眠い?」
「いえ」
「一緒だね」
Lは嬉しそうな顔。
意図がつかめず、こちらもいつものように微笑みだけ返せば、Lは私の手を引っ張ってベッドから立たせる。
「リビングに行きましょう。ワタリもまだ起きています。何か、食べましょう?」
嗚呼、L、そんなに嬉しそうに言わないでくれ。
想像してしまう。
きっと君は、もうリビングに用意しているのだろう。
甘い甘いチョコレートのお菓子を、リビングに隠しているのだろう?
時計を見れば、もう日付は変わって2月14日。
きっと、何かをしてくれるに違いない。
「そうだね、行こうか」
私はそこで君にホットミルクをプレゼントしよう。
チョコレートにミルクは最高の組み合わせだ。
ワタリには買っておいたウィスキーとチョコレートをプレゼントしよう。きっと喜ぶ。
階下に向かう。
漂う香りはLからしているのか、それともリビングに収まりきらずに溢れ出ているのか。
「入って下さい」
リビングの前で、Lが畏まった姿勢。
ジェントルな物言いに、ワタリ仕込みかな、と思って少し笑う。
「では、お先に」
リビングに入ると、私がいつも腰掛けるソファの前、足の短いテーブルの上にやや大きめの箱。
ソファに腰掛けて、前に在る箱に手を触れる。
綺麗なラッピングだ。
レースのリボンは、誰の趣味だろう。
「これは?」
「ケイ、ハッピー、バレンタイン、です」
後ろで指を組んで、照れたように顔を斜めに向けている。
ただその仕草を見るだけでこんなにも愛しさが湧いてくるなんて、誰が知りえることだろうか。
「ありがとう、L」
なんて陳腐な言葉。
けれどそれ以外、言葉が出てこないのだ。
考えていた言葉が頭の中から消えて、私の口から出るのはありがちな、とても簡素な台詞。
「食べても?」
「はい」
レースに触れる手は指先が僅かに震えいて、そんな自分に驚く。
何でこんなに緊張するのだろう。
決まっている、人からプレゼントを貰うことが無かったからだ。
箱を開ければ、案の定、トリュフ。
一粒をつまんで食べると、それは私好みの味。
一度噛めば、中身は柔らかくとろける。
「L」
「はい」
「凄く美味しい」
「そう、ですか」
Lがついた安堵のため息に、心がまた揺れる。
こんなにも嬉しいものなのか。
「L、ありがとう」
手招きして、寄ってくるLに膝を叩いてみせる。
すると膝に乗ってきてくれるから、迷わず抱きしめた。
「ありがとう」
陳腐で、誰でも使うありがちな、どこにでも溢れている言葉。
何度言ってもその言葉は軽く、むしろ回を重ねるごとに意味は為さなくなるだろう。
けれど、私はこの言葉で伝える以外、気持ちの表しようがない。
自分の気持ちを表現できないほど、己が愚かだったのだと気付いた。
〜戯言〜
昨年はLにあげたので、今年は頂きました。
- 2 -
[
*前
] | [
次#
]
←
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -