デスノ 跡継ぎ 番外 | ナノ
年末年始 2009
Lもケイも、そして私が座るソファも、総て一人掛けだ。
元は二つしか一人掛けのソファが無く、子供を引き取ると決まってすぐにもう一つを注文した。
尤も、特注品のソファはすぐには出来ず、子供が来る時、ケイと私で一つの席を譲り合った記憶は、今だに心を和ませる。
ケイは自分が三人掛けの長いソファに座ると言い張り、私に一人掛けを譲ろうとした。
私は口ではケイに勝てないと分かっていたので、黙って三人掛けのソファに腰掛けて、態度で訴えたのだ。
その結果、ケイが折れて、特注のソファが来るまでは私が三人掛けに座っていた。
今もリビングにある三人掛けのソファ。
来客の無いこの家で、誰も座らなくなって久しい。
跡継ぎ
番外 年末年始
「っ……」
小さな口がくあっと開く。
その様を見ていた私とケイ。
視線に気付いたLは、恥ずかしそうにはにかんだ。
今は22時を少し回ったところ。
まだ幼いその身体が睡眠を要求してもおかしくは無い。
「子供はそろそろ寝る時間ですよ」
私がそう伝えれば、Lは首を横に振った。
「眠いのでしょう?」
畳み掛けるように言えば、Lはまた首を横に振る。
そして、眠くない、と言った。
なんて分かりやすい嘘だろう。
ケイを見ればケイも私に視線を向けていて、視線が合わさると、ケイは笑みを見せた。
「L、年明けまではまだ二時間ある。少し眠ってはどうかな?」
「ですが……」
悲しそうな顔をするL。
そんなに年明けまで起きていたいのだろうか。
ケイはLの頭を撫でる。
その表情は慈愛に満ちていて、Lの不安そうな表情がみるみる微笑んでいった。
「此処でちょっとだけ眠るっていうのはどうだ?テレビを付けているから少し煩いけれど、眠れるかな?」
「此処で……ですか?」
「そう」
ケイは立ち上がると、背もたれに掛けていたストールを持って、Lの手を握った。
それは、ケイがLを何処かへ誘導しようとする合図。
Lもそれを分かっているのだろう、立ち上がった。
ケイは三人掛けのソファへと向かうと、隅に座った。
「L、このソファを今はベッド代わりにしてはどうかな」
「ソファを……良いんですか?」
この家では、マナー違反だと思ったのだろうか、Lはそのような事を言った。
確かにケイはソファや床に寝転がったりしないし、私もはしたない事はしない。
だからLは暗黙の了解として、だらしない事をしてはいけないと思ったのだろう。
しかし、ソファで寝るのも駄目という事は無い。
床を転がるのも、子供なら微笑ましい光景だ。
「駄目な事なんて無いさ」
ほら、とケイはソファを叩く。
促されるようにLはソファに乗った。
ケイはLの頭をゆっくりと倒して、自分の太股の上に乗せる。
ケイの膝枕に驚いたのはLだけではない。
私も驚いた。
ケイは人に膝枕をしてもらった経験が無いだろうのに、自然な動作でやってみせる。
「枕よりもは、寝心地が悪いだろうけど」
「ケイは、足が痺れないんですか?」
「痺れないよ」
小さい子供が大人の心配をする姿は、見ていて淋しさが胸に痛みを与える。
ケイはLにストールを掛けると、Lの髪を梳いて、おやすみ、と言う。
Lは最初こそ緊張して目をパチパチとさせていたが、次第に瞼は降りてきて、すぅすぅという息遣いが聞こえてくるようになった。
ケイは髪を梳く手を少しずつ遅くして、そして手を離した。
私は足音に細心の注意を払って、Lが寝ているソファに近づく。
背もたれの方に回り、屈み込んで見れば、そこには安堵しきった表情で寝ている小さな子供が居た。
「可愛いだろう?」
テレビから漏れる音よりも小さい声でケイが言った。
ケイを見れば、幸せそうな表情。
「えぇ」
ケイは笑った。
私からすれば、ケイもLも、同じくらい可愛い子供だ。
ケイはテレビの音量を少しずつ下げていった。
「今年は色々ありましたね」
「家族も一人増えた」
「今年一年、幸せでしたか?」
問えば、ケイは笑みを浮かべた。
それが答えだった。
年越しまで、後五分となった頃。
ケイは心地よさげに眠っているLを起こそうか起こすまいか悩んだ末、Lの肩を揺すった。
「……ん」
「後五分で新年だよ」
「……」
目を力強く擦るL。
その手を制したケイは、Lの目を手で覆った。
「寝てていいよ」
「駄目です。起きます」
Lは慌てたようにケイの手を掴んで上体を起こした。
私はLに紅茶を出す。
「ありがとう御座います」
嬉しそうにティーカップに口をつけるL。
ケイはテレビの音量を上げた。
Lは紅茶を置いて、テレビを見る。
「もうすぐですね」
「じきに新年だ」
ケイはLの髪を梳く。
Lがケイの隣に座ったので、私がLの隣に座る。
Lは私を見て、口を少しもごもごとさせた。
「ケイ、ワタリ」
「ん?」
「はい」
Lは私の手を握った。
もう片方の手は、ケイの手を握っていて。
「今年は沢山お世話になりました。沢山、ありがとう御座います」
「こちらこそ、沢山ありがとう。私の家族になってくれて、嬉しかった」
「あなたたちのお世話をするのが、私の最大の喜びです。健やかに過ごしてくださり、ありがとう御座います」
ケイはLの頭を撫でる。
私はLの肩を抱いた。
テレビ画面が、パッと明るくなる。
花火が打ち上げられていた。
『NEW YEAR』の文字と人々の歓声。
私たちは、笑った。
「今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ、今年もよろしく」
「よろしくお願いします」
笑顔で迎えられたこの一年、幸せに過ごせると思った。
〜戯言〜
子供の頃は、早寝が多くて、日付を跨ぐまで起きていられる大晦日はワクワクする日。
それに、普段言えない沢山のありがとうを言えるチャンスです。
Lはありがとうを言いたくて、どうしても起きていたかったのです。
本編では決して迎えられない新年。
パロディとして楽しんで頂けましたら幸いです。
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