デスノ 跡継ぎ 番外 | ナノ
Valentine2007
昨日からケイは忙しくて、自室に籠っていて私もワタリも立ち入り禁止状態だ。
仕事を頑張るのは良いが、世界よりもケイの方が心配になってしまう。
トイレに行く為だけに部屋から出てきたのだろうケイと廊下で会った時、少し甘い、良い香りがした。
仕事中に甘い物を食べる癖がケイにあったのだろうか?見ていた限り、確か無かったはずだ。
でも、今までが食べなかったからと云って、常に食べないわけではない。
甘い物を食べたくなったのかもしれない。
跡継ぎ
バレンタイン
今日も昨日同様、ケイは部屋の中。
扉はまるで隙間なく閉ざされた壁だ。
仕事を思えば当然なのだけれど、入ることが許されないのは悲しい。
リビングで本を読むことしかやることがなくて、ワタリから本を借りて読む。
散った葉が風に舞っているのが窓の向こうに見えた。
駆け抜ける葉に揺れる窓。外はまだまだ寒い。
トントンと、階段を下りてくる足音が聞こえて、勝手に体が緊張する。
ワタリは一階の実験室にいるから、この足音はケイだ。
思わず振り返って、入り口を見てしまう。
入ってきたのは、やっぱりケイ。
ケイは私と目が合うと、口の端を少しだけ上げた。
「L、L」
名前を呼ばれる。
柔らかくて、暖かい毛布のような声。
女性にしては少し低いけれど、耳に心地良いケイの声に名前を呼ばれるのが私はとても好きだ。
この数日ケイは自室に籠りがちで、あまり一緒にいられなかったから、嬉しい。
駆け寄ると、しゃがんでいたケイに微笑みを向けられる。
胸の辺りがほわっとして、でも同時にぎゅうっと苦しくなる。
「L、手を出して」
訳も分からず手を出すと、後ろに手を隠していたケイが私の手に可愛くラッピングされた物を置く。
「これは?」
「今日は何日だったかな?」
「2月14日です」
「それは何の日かな?」
「……あっ!」
バレンタインだ。好きな人にプレゼントを渡す日。
すっかり忘れていた。
「好きな人に渡す日なんだって」
ケイは微笑んでいる。
「このイベントに参加するのは初めてだ。楽しいな」
ケイは幸せそうに笑う。
どうしよう。
私は何も用意していない。
「L?」
「済みません、ケイ……」
「ん?」
「何も用意してなかったです」
「それは勘違いだ、L」
「え?」
「もう貰っているよ」
頭を撫でてくれる手が優しい。
でもその優しさは、少し切ない気持ちにしてくれる。
嘘をつかないで欲しい。
私はケイに何も与えてなんかいない。
でも気遣ってくれている優しさを嘘だと言って拒絶をする度胸は、無い。
「L」
「……」
「君の存在が、私には最高のプレゼントだよ」
前にしゃがんで、少し私を見上げてケイは言う。
「いつもありがとう」
それはこちらの台詞。
いつも優しくしてくれてありがとう。
いつも一緒にいてくれてありがとう。
いつもいつも、たくさんありがとう。
気持ちをどう伝えたら良いのか分からなくて、ケイに抱きつく。
ケイは後ろによろめいて、尻餅をついた。
こんな風に抱きつかれたら邪魔なはずなのに、腕は私を受け止めるように抱き締めてくれて。
「ありがとう、御座います」
沢山の気持ちを込めて、言葉を紡いだ。
沢山の好きと沢山のありがとうを君に
〜戯言〜
勿論ケイさんはワタリにも渡しています。
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