最近イグニスの様子がおかしい。どうおかしいのかというと、二人きりになるとそわそわしだすし、やたらとどうでもいい事で話しかけてくるし、そっとオレに手を伸ばしてきたかと思えば遠慮がちにオレの手を握って指先を絡めてきたりする。おかしい…イグニスは今までオレとは一定の距離を保って接してきてたのに、最近はその距離が物凄く近くなってきた気がする。どうしたんだろ。新しいレシピが思い付かなくて悩み過ぎて変な行動とってんのかな。
「えー…ソラ、それ本気で言ってる?」
プロンプトと二人きりになった時にイグニスの様子がおかしい事を相談してみたら、何故かドン引きされた。…何で? オレが頭の上に疑問符を浮かべてたら、プロンプトは呆れ果てたように深い深い溜め息を吐いた。
「ソラの話を聞く限り、イグニスなりに頑張ってアピールしてるっぽいのに…。イグニスかわいそう…」
「アピール? 何の…?」
「冗談抜きで本当に気付いてないの!? イグニスの様子がおかしいのって絶対ソラのせいだよ!?」
「えっ、オレのせいなの??」
「そうとしか考えられないって! イグニスはソラのこと好きだって言ったのに、ソラがその言葉を信じてあげなかったからそうやって態度で示そうとしてるんでしょ!?」
「イグニスめちゃくちゃ健気じゃん…」と続け、プロンプトはオレに責めるような視線を向けながら本日二度目のわざとらしい溜め息を吐いた。なんかオレが悪者みたくなっちゃいませんかね、プロンプトくん? でもでもだって、イグニスがオレの事を好きとか常識的に考えて有り得ないじゃん??
「でもほら、イグニスがオレなんかを好きになるはずないし。常識的に考えて」
「ほらまたそういう事言う! それってどこの常識!? ソラは自分に自信がないみたいだけどさ、ソラってすっごく魅力的でいい奴なんだからね!? たまにどうしようもなく馬鹿でムカつくくらい意固地で物凄く空気読めない時あるけど!」
「誉めてからのディスりをありがとう。でも嬉しい」
「イグニスの言葉とか態度もそうやって素直に受け取りなって。言ってなかったけど、ソラに別れ話された後、イグニスかなり落ち込んでたんだよ?」
「えっ、マジ?」
「マジ。慰めるの結構大変だったんだから」
「ちゃんと信じてあげてね。二人のこと、上手くいくように応援してるから」と続け、プロンプトは真剣な表情を浮かべてみせる。…オレはいい友達を持ったな、うん。それは間違いない。とりあえず今からイグニスに謝りに行って、そこでイグニスの話を聞く事にしよう。そうしよう。
「頑張る。あんがと、プロンプト」と礼を言うと、プロンプトは「どういたしまして」と笑顔を見せた。…何この子、天使かな?? 今度お礼にプロンプトがシドニーと仲良くなれるよう協力してあげよう。うん、それがいい。
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