詰め合わせ | ナノ
イグニスと勘違い



オレが玉砕覚悟でイグニスに告白したのは一週間ほど前の事だった。自慢じゃないが、オレはイグニスへの想いなら誰にも負けない自信がある。イグニスの容姿も声も性格も仕草も何もかも、全てが好きだ。めちゃくちゃ好き。きっとこの恋心はいつまで経っても冷める事はないだろうし、それどころかどんどん熱く燃え上がっていって放っておいたらとんでもない事になるだろう。そこでオレは考えたのだ…このままイグニスへの恋心をずるずる引き摺って生きていくくらいなら、いっそ思い切りフられて綺麗さっぱり潔く諦めよう、と!!

で、この恋を終わらせるべくイグニスに告白をしたわけだ。シンプルイズベスト、ただ一言「好きです!!」とだけ。ちなみにその様子はノクトとプロンプトに木陰からこっそり見守られてたらしい。イグニス以外の三人にはイグニスのこと好きだって打ち明けてあったからな…オレが「ちょっとイグニスにフられてくる!!」と宣言してどっか行ったのが心配でこっそり着いてきてくれてたようだ。あ、ディオラスはその時女の子ナンパしに行ってたらしい。薄情な奴め。

おっと、話が逸れてしまった。とにかくイグニスにフられる為に告白したんだけど、返事はまさかの「ああ、俺も好きだ」だった。あっ、これライクとラブを勘違いされてるやつだ! と瞬時に察したオレは「違う違う! オレが言ってるのはライクじゃなくてラブの方なの!!」と言い直した。だがしかし、イグニスは「俺もそのつもりで返事をしたんだが…」と平然と言葉を返してきた。えっ!? マジで!!? 混乱のあまりパニクって言葉が出てこないオレ。

やっとの事で「あ、う、えっと、こ、ここ恋人になっていただけるのですか!!?」と恐る恐る問いかけてみたら、イグニスは「それ以外に何かあるのか?」と呆れたような顔をしていた。ヤバい、もうヤバい以外言葉が出てこない。オレはもうこの世に悔いはないぜ! その後は木陰から飛び出してきたプロンプトが「ソラ良かったねえええ!」ってめっちゃ嬉しそうに祝福してくれた。何お前、可愛いかよ…! イグニスはノクトとプロンプトに見られてた事に気付いてたらしく、大きな溜め息を吐いていた。

…とまあ、そんなこんなでオレは愛しのイグニスとまさかの恋人同士になれたわけなんだけども…最初はそりゃあもう浮かれまくっていたオレも、一週間経っても何も進展がないところでおかしいと気が付いた。イグニスはまるであの告白がなかったかのように、今までと変わらない距離感でオレに接してくる…それは何故か。

オレは察した。…これはアレか、旅の最中にオレをフってしまったら仲間内の雰囲気が悪くなるから仕方なくオーケーしただけで、イグニスは本当はオレなんか好きじゃないのでは?? っていうか何で最初にその答えに至らなかったんだオレは! イグニスがオレなんか好きなわけないじゃん、バカ!! イグニスに気を使わせるとか最悪じゃん、何やってんのオレ!!

というわけで「ちょっとイグニスにフられてくる!!」と二度目の宣言。側に居たプロンプトが「えっ、ソラ!? ちょっと、何で!?」ってあたふたしながら止めようとしてくる。ええい、止めてくれるなプロンプト! オレはイグニスに気持ちを偽らせてまで恋人同士になりたいわけじゃない!!


「…さっきから何を騒いでいるんだ。ソラ、プロンプト」


そこへナイスなタイミングでイグニスが現れてくれた。イグニスはプロンプトに羽交い締めにされたオレを冷めた目で見つめている。またこいつらはアホな事やってるな、みたいな目だ。違う、違うぞイグニス…今回のはプロンプトとふざけてじゃれあってるわけじゃないんだ。


「イグニス! 話があるんだけど!」

「何だ?」

「イグニス、頼む! オレをフっ――」

「わーー! 待って、ソラ待って!? ちょっと、落ち着きなってば!」

「離せよプロンプト! オレは落ち着いてんの!!」

「…ソラ、用件があるなら手短に言ってくれないか?」

「分かった! イグニス、オレをフってくれ!!」


よし、言えた! 目の前のイグニスは眉を寄せ、理解出来ないとでも言いたげな表情を浮かべている。オレを羽交い締めにしていたプロンプトは「あーあ…もう知らないからね!」とオレを離し、その場から逃げるように立ち去っていった。


「…フってくれ? それは…俺と別れたいという事か?」


眉を寄せたまま、イグニスは状況を確認するようにオレに問いかけてくる。別れたい? いやいやいや、まさか! 別れたいわけないじゃん! 別れたくはないけど、イグニスがオレの事を好きでもないのに無理して付き合ってくれてるんなら別れたいだけで…あれ? つまり、これって別れたいって事か??


「えーと…そうなる、かな?」

「そうか。…原因は何だ? 俺が素っ気なかったからか? それとも他に好きな奴でも出来たのか?」

「えっ? ち、違うけど…」

「ちゃんと理由を言ってくれ。俺に原因があるのなら、出来る限り直す努力はする。…だから、考え直してくれないか」


…ん!? え、考え直して…って、別れるのを? あれ?? なんかその言い方だと、イグニスはオレと別れたくないように聞こえるんだけど…気のせいだよな?


「イグニス、もう気を使ってくれなくて大丈夫だから! 無理してオレと付き合う必要ないって!」

「は…? ちょっと待ってくれ、ソラ。何の話をしているんだ?」

「えと、イグニスは旅の最中の雰囲気が悪くなるのが嫌で、仕方なくオレと付き合ってくれてるだけだろ? オレに気を使ったりしなくていいから、思い切りフってくれていいぜ! そしたら諦めるし!!」


オレの言葉にイグニスはしばらく目を丸くしていたが、やがて深い溜め息を吐いた。それから「お前は俺の話を聞いていなかったのか…」と呆れたように言われる。


「話?」

「俺も好きだと言っただろう」

「断りきれなかったから仕方なくそう言っただけだろ?」

「俺がいつそんな事を言ったんだ?」

「え…言われては、ないけど。でも、恋人になってバカみたいに浮かれまくってたのオレだけじゃん。イグニスは今までと全然態度変わらないし…それで、オレと無理して付き合ってくれてるんだなって思った」


ボソボソと思っていた事を告げると、イグニスは「なるほどな…」と納得したように呟いた。え、何に納得したの?


「ソラ…言っておくが、俺は好きでもない相手と付き合ったりはしない」

「え!? でも、好きでもないオレと付き合ってるじゃん!!」

「お前は"好きでもない相手"じゃないからな」

「…んー??」

「はあ…後は自分で考えてくれ…」


「お前が理解するまでこの話はお預けだ」とだけオレに告げ、イグニスは頭を抱えてどっか行ってしまった。それと入れ替わるようにプロンプトが戻ってきて、「ソラのバカ、鈍感!」と怒られた。え、何でオレ怒られたの??

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