06
「うぉりゃぁぁぁ!」
「うるせェ」
「うぉりゃぁぁぁぁぁ!」
「うっせーっつってんだろーがよォォォ!テメェ聞こえてンだろ!?アァ?静かにしねェと犯すぞ!」
「………すんませんそれだけはご勘弁を」
マジで嫌そうな顔された、クソッ。つーか何言ってんだ俺は…
「つーか何言ってるんですか副長は…」
「………。」
「レディに向かってそれは失礼だと思いますけど」
ぷいっと顔を背け書類整理に戻るみょうじ。確かに言い過ぎたがテメェもテメェだろ。山崎と別れてから人が変わったように…と言うか別人だし。
「みょうじって何でそんなに変わったんだ?」
「変わったんじゃなくて元に戻っただけですよ」
「どういう事だ?」
面倒臭そうにするみょうじに俺は何か隠されてると業務上支障が出かねない、と適当に言って聞き出す。
「元レディースなんですよ私…」
「は!?」
「総長やってました」
「いや、そこじゃなくて…」
「それで親に言われたんです。家の格式が分かってるのか?お前が娘で恥ずかしい…だから女の子らしくして花嫁修行でもしてこい…って、」
机を挟んできちんと正座し、俺の目を見て真剣に話した。つーか家の格式って何だよ。コイツ良いとこの子なのォ!?
「ここでなら私を知ってる人もいないし、家事も食事も色々鍛えられるかなって選んだんですけど…退の事好きになっちゃって」
「それがどうかしたか?」
「問題ありすぎですっ!勢い余って告白したら付き合う事になっちゃったし…」
振ってくれたら諦めがついた、自分を好きになってくれたのは嬉しいが所詮は猫を被った仮の自分。別の誰かを演じてるみたいで気持ち悪くて…と表情が暗くなった。
「それで素の自分出したら振られたのか?」
「それがね、副長…出す前なんです。何ででしょうね?」
「は?」
意味が分からない…どう考えても山崎はコイツに惚れていた筈。コイツが他の隊士と話そうならば黒いオーラを放っていたくらいだ。
「だからもう隠すの疲れちゃって…」
「みょうじ、山崎は…」
「副長ー!お茶持ってきましたよー」
「チッ、…そこ置いとけ」
襖の奥から声が聞こえ、タイミング悪く山崎が茶を持って来る。今の話を聞かれていたかもしれないと思うと胸糞悪ィ。目の前のみょうじは好きな奴が来て喜ぶどころか同じく舌打ちした。
「はい、副長どうぞ」
「悪ィな、」
「悪いと思うなら怖い顔しないで下さいよ。はい、みょうじさんもどうぞ」
「………。」
“みょうじさん”…山崎が呼んだその呼び名に、俺はみょうじの絶望とも言える表情を見てしまった。
アイツの絶望と俺の不快感(オイ、大丈夫か?)(…うぅ、)(書類やっとくから休め)(副長ごめんなさい…)(後で山崎殴っとく)