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誰も居ない筈の部屋から声がする。してはいけない声がする。そう、其処は私の部屋な訳で。
「でね!僕達の結婚式の為にって思って、こっそり◯クシィ借りに来たでござるよ!」
「はぁ…」
何言ってんのトッシーィィィ!誰もアンタと結婚しないから!式なんて挙げ無いからァァァ!
「でも、おかしいでござるよ」
「何が?」
「結婚式と言えば、白でござろう?それなのにみょうじ氏…」
「黒いドレスばっかり付箋してる、でしょ?」
やめてェェェ!って、ん?何で私がソコだけに付箋してるの知ってんのよ。
いつか来て欲しいと願った。退と結婚式を挙げれる日を。そんな事を思って、こっそり買った筈なのに…何でこの男には見透かされていたんだろう。もう駄目だ、これ以上聞いていられない。これ以上、私を混乱させないで…
「で、何してんの?アンタら」
「あわわわわわ、みょうじ氏ィ!?」
「はーい、不法侵入でしょっ引きますよー!このヤロー!」
睨み付けたらトッシーはあっさり去った。一人、退を置いて。
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焦るな、冷静になれ、俺。ちゃんと気持ちを伝えなきゃ、と胸が騒めく。
「なまえちゃん、俺…旦那の処行ってきた」
「ふーん、で?」
「今迄、忘れてて…ごめんなさい」
「別に良いよ。私も可愛子ぶってたしね。お互い様、って事で」
お互い様なんて可愛いもんじゃない。そんな事を聞きたい訳じゃ…
「若い頃の想い出は、綺麗なままで居させてよ。でないと、昔の私が可哀想じゃない」
「そんな、」
「これ以上こんな想いをするのは私だけで良い、」
そう言って背を向け、スルスルと着物を剥ぎ出した。背中には今迄見たことが無かった痕、何これ。
「それどうしたの!誰にやられたの!?」
動揺して冷静さを欠き、詰め寄る。
「あぁ、そっか。見せた事無かったもんね」
くっきりと残った傷と背中越しの彼女の言葉が耳に響いた。
昔の、名残よ(…貴方を護った時の、ね)