黙れアバズレ。 | ナノ

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「とーしろ。私の眼鏡を壊した罪は重いわよ」
「あ?それならあしらい終えたろ、」
「違う。後ろ………」

向かい合わせで書類の山を捌く十四郎にそう言った。振り向いた彼は今頃瞳孔ガン開きだろう。一時的とは言え普通の眼鏡を掛けていた所為か、私は毎日のように誘いを受けた。化粧も髪型もダサさ満載バージョンで仕上げていたのに…一端の隊士であれば十四郎に睨みを効かせてもらい、それでも駄目なら総悟に手を借りた。それで十分なはずだった。この男を除いては…

「ねぇ、どうにかならないの?」

音も無く入ってきた山崎さんはいつになく機嫌が良さそうでこちらとしては嫌な予感しかしない。十四郎でさえ手を焼いているのだから。

「やってらんねぇ…部屋戻る。テメーで何とかしろ…」
「ちょっと!一人にしないで。ねぇってば!」

私の嘆きも虚しく、山崎さんと二人になってしまった。


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「毎日毎日、飽きないんですか?」
「ひどいなぁ…」

副長が出て行って二人きりになったと言うのにみょうじさんは相変わらずだ。食堂での一件の後、彼女に言い寄る男はそこそこ居た。副長と沖田隊長によりソレは無くなったけれど、何をしても引き下がらない俺だけは諦めてくれた様で、こうして副長も去る程である。先程まで副長が座っていた場所へ腰掛け微笑みながら彼女を見つめた。然し乍ら、この女の表の顔を剥がすのに苦労しているのが実状だ。

「ねぇ、あれから…シた?」
「何がですか?」
「この間話したじゃん。セックス、」
「…ハァァァ!?仕事中に何て下品な、」
「どうなの?」
「し、てない……って言うかこの話やめません?」
「みょうじさんの事もっと知りたいから教えて?」
「山崎さんってこんな人でしたっけ?」
「やだなぁ、下の名前で呼んでよ」

背後に回ってさりげなく抱きついてから耳に息を吹きかける。本当に嫌なら力づくで引き剥がせばいいのに、そうしないのは何度も何度も失敗に終わっているからで…其れでも尚、微動だにしないみょうじさんと同じように無機質な機械に目をやると、画面は全て英語だった。

「え、何コレ………」
「古典的資料を先ずは現代和訳、更に英文に再翻訳したものです。紙は燃えてもこのデータさえ有れば大丈夫なので」
「そう言う問題!?」
「松平公には素晴らしい教養を受けさせて貰いましたのでこれくらいの策は練っておこうかと。まぁ最近はちょっと煩いのですけれど…」

途端、廊下からドタバタと響く足音が聞こえる。そして気配を察知したのか、みょうじさんはまた溜息をついた。
呼ばれずとも来たる人

(また面倒な事になりそう)

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