「なァ、なんで俺に抱かれるんだ?」
「またそれ?何回も言わせないで、」
「最中くれぇ好きとか言えねーのかよ、可愛くねぇ…」
回数を重ねる毎に要求されるそれは言わないし、今後も言うつもりもない。それ以上望むなら関係を切るだけ。だって私には……
あァ?何だそれ。――薬指に光るそれを見て彼は言った。
私、後家なのよ。――と、私は滔々に答える。
だからあなたを好きにならないし愛の言葉も囁かない、そう付け加えて。表情ひとつ変えないものの声が変わった。
「惚れてたのは俺だけかよ…」
「うっそぉー!?」
「茶化すな、」
だとしたらこれ以上続けていられない。甘えていられない…駄目なんだって。操を立てるとかそんな綺麗なものじゃないけれど。
「ごめんなさい。十四郎の気持ちには応えられない」
「死んだ男が忘れられねーってのか、」
「そうね…今はそう言う事にしておくわ。だからもう、あなたに私は抱かせない」
そう言う事、と簡単に言いくるめてしまったけれど本当は違うの。十四郎に抱かれても淋しさは埋められなくなってしまった。目の前にいない彼を思い浮かべてしまった。死んだあの人ではなく、山崎さんを。彼を欲して私の心はまた空っぽになってしまって笑えてきちゃう。あの夜の続きを…あの人に抱いて欲しいって、そればっかり。だけどまだあなたには教えられないの……こんな女でごめんなさい、今までありがとう。そう心の中で懺悔した。部屋を出たところを見られていたなんて、思いもせずに……