「聞いてんのかてめぇ…」
「あ、すいません。何でしたっけ?」
副長に告げられ回顧したのは二週間ほど偵察していたある男の事。ある日突然死んだ人間…いや、本当は死んでなんかいなくて死んだフリをして地に身を潜めながら刻々と機を見計らっていた。そして数年経った今、尻尾を出したと言う訳である。最も、掴んだ情報のみであればそれほど大した事ではないはずなのだが…
「薬師、か…」
「それはあくまで表向き。蓋を開けりゃぁ違法薬物の生成及び斡旋。中毒性が酷いし売値も馬鹿高く攘夷浪士の資金源になってます」
「忍び込めるか?」
「はいよ、」
今回に限ってはかなりのリスクを負うかもしれない。新手すぎて肝心の中毒性とやらが明確に露顕していないから。下手したら死ぬかもしれない…それほどの闇なのだ。しかしこんな時ですら自らが可愛くて仕方なくなって、死する事に初めて悪情感を覚えた。あの夜の続きをしたいだなんて思ってしまうのさ。幾らなまえちゃんが俺を見ていなくても、って。