らぶはぐ | ナノ

余裕がないのはどっちだ

ここは繁華街のホテル。その一室の浴室に俺となまえちゃん。彼女は湯船に浸かり俺はシャワーの前。お互いバスタオルは身につけているものの…一体全体どうしてこうなった………!


「そんなに見ないでよ」
「結構体鍛えてるんだなぁって思いましてね」
「そこ?」
「えぇ。そーゆーとこも大事なんですよ?」


たぷたぷよりは良いでしょうだなんてにっこり笑うもんだから日頃から鍛えてて良かったかもなんて…まぁ殆どはミントンの素振りだけど。


「ちょっと!なにしてんの!?」
「洗髪して差し上げようかと…嫌でした?」


シャンプーを泡だてて俺の濡れた頭にわしゃわしゃって…ついでに頭皮マッサージもしときますね、なんて。なまえちゃんはおろか他の人にもされた事はないし(まぁ床屋は別として)何とも言えない感じが込み上げてくる。バスタオル一枚だから当然変な感情もね。


「山崎さん結構凝ってますね」
「そうなの?」
「鍛えてる人は凝りづらいって言うのに…すごーくかたいですよ?」


今この状況でかたいとか言わないでェェェ!違う意味でそうなってるから!恥ずかしすぎて心臓破裂しそうだからァァァ!…と、宛ら男子高校生みたいな俺、三十越えて何やってんだか。なまえちゃんはシャワーヘッドを取ろうとしたらしく背中に胸が当たりタオル越しとは言え興奮してしまう。ほんとうにほんとうに、どうしてこうなった………!!!このままじゃ気が狂いそうだ。



***



お節介かもしれないんですけどね…と私は続けた。本当に好きな人が出来た時どうするんですか?って。


「それってもしかしなくてもこの間の話の続きだよね?」
「はい。単刀直入にその事です。次彼女さんが出来たとして童貞だって言えます?その歳で」
「心臓ひと突きだね、それ」


少し直球過ぎたかなぁと反省するも、この人は押さなきゃ進まないだろうから更に続けた。ご迷惑でなければ、そして…


「私で良ければ、お手伝いしましょうか?」
「は…?自分が何言ってるか分かってんの?」
「もちろん大真面目です。だめ、ですか?」
「ちょっと待ってよ、………マジかよ」


顔すごい赤くして可愛いなぁ。らしくなくうぶなところも照れて顔合わせてくれないところも全部。ますます貰いたくなっちゃう…駄目な女だ。それにあなたは隠してるつもりかもしれないけれど知っているんですよ…だから尚更。それから、ね?と小綺麗な和紙を手渡した。そして今に至る。


「ちゅ、ん。はぁっ…」


浴室を出たあとバスローブを羽織り、そのままキスをした…あ、これはもちろん私から。幾度か重ねたあとは彼からも…最後までした事がない割には上手だった。考えてみれば今いないかもしれないだけで、今までいなかった訳じゃないのだからと。
だんだん心地良くなってきて、ぼんやりと思案しはじめた。知るはずもない過去の子たちを想像して少し後悔したりとか。


「んっ。ね…いま、特定の人いるんですか?」
「いないよ。好きな子はいるけど……」
「じゃぁ、いまだけは私のこと…その子だと思ってください、」


自分で言って悲しくなった。自ら望んでこうなったけれど、いざ抱き合って舌を絡めたりなんかしたら可愛くて仕方なくなって。まぶたを開けたりするんじゃなかった…薄っすら開けた先には見た事もない彼の必死な顔があって、愛おしくなってしまった。時折漏れる色っぽい声も初々しいったらありゃしないのだから。じっと見つめてしまった、見入ってしまった。いや、魅せられてしまった。この三十二歳ドウテイはとんでもない男なのかもしれない。これ以上見てはいけないと瞼を閉じようとしたところタイミング悪く目があってしまった。それでも逸らせられないのが不思議でたまらなかった。


「随分良い趣味してるね」
「こここここ、これは…」
「余裕、ない?これじゃどっちか経験者か分かりゃしないや」
「ふふ、確かに」


笑って触れるだけのキスをして、どちらからともなく求め合った。ゆっくり時間をかけて縋りつき、こじ開けたくちびるの先をむさぼる。そんなキスだけで私はぶっ飛びそうになり、それほどに情欲を掻き立てられた。


「…ぁ、う……長い、です」
「ごめんごめん。可愛くて、つい」


ついって何よ、ついって。経験者としてこれ以上先導される訳にはいかないと彼の肩を突っ撥ねて押し倒した。
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