「俺、昨日したよ。」
昼休み、まるで友人の言葉が死刑宣告のように感じた。「何を」したのかなんて、友人の顔を見れば分かる。男としての自信がついたというか、一皮剥けたような顔つき。
そう、彼は初体験を済ませたのだ。
「どうだった?」
同じく童貞仲間である別の友人が感想を尋ねる。似た物同士が集まるとは言うけれど、漏れなく俺のまわりも童貞だらけだ。
「別に、何事もなく終わったよ。
でも、向こうも初めてなのに、俺のを舐めたいって言い出した時はびっくりした。」
「えろ。」
「へー、よかったじゃん。」
なんか腹立つな。
「別に」ってなんだよ。非童貞になった途端スカしやがって。
童貞仲間が減っていくことに焦りを感じるがなんとか平静を装った。
しかし、友達の生々しい報告は刺激が強く、興奮してしまったのが悔しい。
「いーなー!俺も早くしたい!」
「ふふっ。」
ハッと振り向けば、クラスの女子3人がこちらを見て笑っていた。
「矢巾童貞なの?」
「えーそうなんだー笑」
「彼女いたことないの?」
「あるけど、する前に別れちゃった。」
「えーかわいそー。」
この発言からして、彼女たちは非処女なのだろう。
明らかに人を馬鹿にした言動と表情にむかついたけれど、ここで女相手にキレたら、それこそかっこ悪いと思って開き直ってみた。
「新品のどこが悪いの?!
中古より新品の方が良いでしょ?!
むしろチャームポイントでしょ?!」
「「「きゃははは!!!」」」
あ、よかった。なんとか笑いを取れて。
女子達の心を掴むことができたという手応えを感じて、気分が良い。
「私、矢巾とならえっちしてもいいなって思ってた。」
「え!?」
なんだって?!
今の聞き捨てならない台詞を吐いたのは、清楚系美少女の名字。清楚系といっても、先程から俺を笑い飛ばしているあたり、非処女だ。
修学旅行の夜に童貞同士で「学年の女で誰がタイプ?」と語り合った時に数々の童貞の口からその名前が発せられた。それは同級生の美少女の中でも名字が処女っぽくて、童貞であっても攻略可能であるという期待値が含まれていたと思われるのだが、非処女という事実が明るみに出た今、童貞達の夢は見事に打ち砕かれた。
くそ…清楚系美少女じゃなくて清楚系ビッチの間違いだろ。
「俺がタイプってこと?」
「うん。笑 あ、でもそこまで新品にこだわるなら、次の彼女とした方が良いよね。」
いやいやいや…捨てられるなら捨てたほうが良いのが童貞だ。しかし、たくさんの人目がある中、そこで「させてよ」と食い下がれるほどプライドは低くはない。
「うん…。」
つい、硬派ぶってクラスメイトの名字の言葉に同意してしまったが、内心はかなり荒ぶっていた。
惜しいことしたかも!
童貞を捨てるチャンスだったのに!
くっそ、今からでも撤回しろ、俺!
えっちしたあああい!!!
ムラムラとした気持ちを抱えながら、じっと名字を見つめる。しかし、名字は俺に2回目のチャンスなんて与えてくれなくて、女同士で会話を再開していた。
もう嫌…。
これだから俺は童貞なんだ。うまく立ち回れないから、せっかく機会があっても活かすことができない。
でも、経験だけ積んだって仕方がないよね。
恋人とするから良いものなんじゃないの?
行為の良さなんて具体的には分からないけれど、誰でもいいわけじゃないんだ。
…と、童貞を捨てるチャンスを失ったばかりの自分を慰めたが、ずっとしたくてたまらなかった行為を目の前の美少女とできる機会を逃してしまったことは、その日1日落ち込むくらいには引きずってしまった。
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