「矢巾ー。座ってー。」
「なんで?」
「ほっぺにちゅーしてあげるー。」
「え!なんで?!」

俺が童貞である事実が名字達にバレてしまってからは、色々と仕掛けられるようになった。スカートの裾をじりじりと引き上げる様子を見せつけられたり(ぎりぎり見えない所で寸止めされた)、腕に抱きついておっぱいを押し付けてきたり(これは嬉しい)、とにかく童貞イジリが酷い。

毎日のドキドキの展開は童貞には刺激が強く、「恥ずかしいからやめて」と思うこともある。でも、日常化したイジリがなくなってしまうのも寂しい気がして、つい彼女達に振り回されることを選択してしまう。今日だってなんでかは分からないけれど、これからキスをしてくれると言うし、とりあえず言われた通りに椅子に座ってしまう俺はなんやかんやこの状況を楽しんでいるんだと思う。

椅子に腰をかけると、左側に名字、右側にもう1人女の子が立つ。更に俺たちを撮影するように、1人がスマホをこちらに構えていて、「いいよー。」と合図を送った。

「せーのっ。」

名字の掛け声と共に2人の顔が近づいてくる。
夢のような状況にドキドキが止まらなくて、ちゅっと唇が頬に触れた瞬間、思わず「あああ…っ!!」と嬉しい悲鳴をあげてしまった。

「「「きゃはははは!!!」」」

彼女達が爆笑する声が教室中に響き、瞬く間に注目の的になる。
なんだなんだと集まってくるクラスメイト達に、撮影した動画を見せていた。

「昇天してんじゃん。笑」
「いいなー矢巾。」
「これ、TikTokに投稿しようかな。」
「いいんじゃん?バズりそう。笑」

クラスでは特別目立たない俺も、一躍人気者となり、気分が良い。
SNSでバズれば、人気に拍車がかかりさぞかし承認欲求が満たされることだろう。

こんな感じに俺へのイジリが繰り広げられるものだから、クラスメイト達には俺が童貞であることは広まってしまった。

更には名字達からのイジリを喜んでしまっているので、本物の清楚系である同級生の女子からは敬遠される始末。

あれ?俺、童貞卒業からどんどん遠ざかってない???


毎日は楽しいが、悲しい事実に気がついてしまった。
このままではいけない。童貞卒業に向けて何かアクションを起こさなくては。

今までできたらいいな程度に考えていた、彼女という存在を久しぶりに作るかと決意した。



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