かぜひいた。


時間遡行軍による刀剣男士限定新型ウイルス流行について、という通達が政府から届いた。



その内容は、ある地域に出陣した部隊の中でウイルスに感染した刀剣男士が、この間の演練会場にいたとのこと。
そのウイルスに感染した場合、手入れでは治らず、風邪のような諸症状に悩まされるとのこと。
そして、刀剣男士の抗体でウイルス駆逐に掛かる時間は3日間、その間審神者は出来る限り同じ空間で過ごし霊力供給に努めなければならないということ。
尚、審神者には感染する事は今は確認されておらず、刀剣男士のみで感染するため、出来るだけ隔離してすごさなければならないということ。


そして、我が本丸で一番最初に確認されたのは、加州清光さんだった。



「あー…けほっ、こんなんじゃ、おれ、可愛くないね……」
「ふふふ、加州さん、加州さんはいつでも可愛いですよ。」


顔を不自然なほど赤く染めた加州さんのおでこの濡れタオルを取り、タライの中の冷たい水に浸し絞る。
布団の上で横になっている加州さんは、そう?と満更でもなさそうに笑った。

熱は38.7度。かなりの高熱だ。体も痛いだろうし、意識も朦朧としている筈の加州さんはわたしに気を使ってか多少咳をするくらいで、少しも弱音を吐かない。
本丸から少し離れたこの離れで、仲間とも会えず寂しいだろうに。

加州さんの症状が出てからというもの、わたしの生活はこの離れで行うことにした。出来る限り早く治してほしいと思ったからだ。

幸い、この離れはある程度しっかりした平屋のような作りになっていて、部屋もふた部屋あるし、台所もトイレも小さいながらお風呂もあった。困ることといえば、他の皆さんが寂しがるくらいで、それでも朝昼晩一回ずつ顔を出しているし、書類仕事ならここで出来る。生活していく分には差し支えはなかった。

とはいえテレビなどの娯楽はないし、加州さんは寝ているだけだからきっと退屈なんじゃないかな?と思う。



「加州さん、なにかしてほしい事はないですか?」
「してほしいことー?…んー、なんだろ」
「なんでも言ってください。お腹空いたとか、なにか飲みたいとか、身体をふきたいとか」


「から…っ!仮にも男の身体はこうとしないで!!主は女の子なんだから!」



加州さんは赤い顔を更に赤くしながら、少しだけ声を張ってぷんぷんと怒る。私を女の子扱いしてくださるなんて、我が近侍は本当に紳士である。

「もう女の子の歳は過ぎたんですが…ま、そんなことより。さぁ何なりと」


私がそういえば、やってほしいこと、かあ。と悩む加州さん。あ、と一言漏らし、少し恥ずかしそうに私を見た。



「な、ならおれ、とんとん…してほしーかも」



とんとん??


と頭にはてなマークを浮かべる。そして少し考えた後、ああ。と納得した。少し恥ずかしそうな加州さんにふふっと笑いながら、


「了解です、では、失礼しますね?」

加州さんの横になっている布団のさらに横に寝転がる。布団は私までかけてしまうと、とても熱くなりそうだからわたしは布団をかけずに。


そうして加州さんのかけた布団の上から、とん、とん、とん、と優しく叩く。場所は、だいたい加州さんの胸あたり。


これは、たまにいっしょにお昼寝をする今剣さんによくやるやつだ。子守唄と一緒に心臓の音に合わせて優しくリズムをとる。
昔、母にやってもらっていて、とても好きだった。




「ねーんねーん、ころーりーよ、おこーろーりーよ…」


歌はあまり得意な方じゃない。
でもご要望とあらば答えないわけにはいかない。

下手くそな子守唄を歌うこと早数十秒、加州さんはすや、と眠りについていた。





その数日後、全回復した加州さんがあの俺が頼んでやって貰った事は忘れて!!!!と私に頼むのは、未来の話。



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人間でいう風邪、というものにかかってしまったらしい。
初めての敵から受けた傷以外のものに、少し戸惑う。体があつい。頭もぼーっとする。兎に角節々が痛い。食欲もなくて、兎に角汗が出る。主の用意してくれた布団は、先程干した布団と取り替えたばかりだというのにもうしっとりと湿っていた。
ーでも、風邪もいいかも

そう思えるのは、主が横にいて、付きっ切りで看病してくれているからだと思う。


「加州さん、まだお熱ありますねぇ。飲み物、飲めそうですか?」
「あら、氷枕がもうぬるいですね、今氷を持ってきますね。」
「お粥、梅干しを添えてみました。口がさっぱりしますよ。ちょっと食べて、政府支給のお薬飲んで、少し眠りましょうか」

甲斐甲斐しくお世話をしてくれる主に身を任せるのは、とても心地がいい。風邪とやらもこの辛さを除けば悪くないかも、なんて思えるくらいだ。
いつも忙しそうな主が、俺のためだけに何かをしてくれている。そのことが申し訳ないような、嬉しいような複雑な気持ち。

少し眠って、目が覚めたら主がいる。主は俺の頭の布巾をまた氷水で絞って、額に乗せてくれた。
手がかじかんで赤くなっている。そんなことも気にせず笑う主が、どうしようもなく愛おしい。

「加州さん、なにかしてほしい事はないですか?」
「してほしいことー?…んー、なんだろ」
「なんでも言ってください。お腹空いたとか、なにか飲みたいとか、身体をふきたいとか」


「から…っ!仮にも男の身体ふこうとしないで!!主は女の子なんだから!」

…でも、この主は少し恥じらいというものを知らない。
たまに自分が女であるという事を忘れているような言動を普通にするので、困ったものだ。

「もう女の子の歳は過ぎたんですが…ま、そんなことより。さぁ何なりと」

注意すれば苦笑いする主。ダメだよ、女の子なんだから。そう心で思いながら、やってほしいことをぼーっとする頭で考える。

…この間、書類整理をしている時に自分の仕事を終えた今剣が主の元へやってきた。
主も主で短刀にすごく甘い。主に抱き着いたり隣でけん玉をしたりしていた今剣は、突然主の膝にあろうことか頭を乗せた。
そして主は少し岩融と夜更かしをしてしまって眠いらしい今剣を自分の布団に横にさせ、子守唄まで歌って寝かし付けていた。


ちょっと、仕事中なんですけど!?それでまた主が夜まで仕事する羽目になったらどーしてくれんの!?


そんなイライラを抱えてはいたけど、ぐっと我慢してその日の仕事のスピードを上げた。すやすやと眠る今剣を見て、
…実は、それがとってもとってもとーーーっても、羨ましかったり。

いやちがう、やってほしいとかそーゆーんじゃなくて、ちょっと気持ちよさそーだなーって思っただけで、いやほんと、それだけ、それだけなんだから!!

…でも、今ここにいるのは俺と主だけ。

布団を口元まで上げる。
意を決した。
それに俺は今弱ってる。風邪なんだ。体もあついし喉も痛いし、それに関節だって痛い。


「な、ならおれ、とんとん…してほしーかも」


主はとんとん…?と少し悩んだ後、あ、とそれに気付いていつものように優しくにっこり笑う。
そのとんとんはとても気持ちが良くて、俺は凄く深い眠りに着いた。



…ひどい羞恥心に追われるのは、それから数日後の話である!









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