りはびり小噺 審神者のご飯事情
わたしの中で珍しいブームが来ていた。
そう。イタリアンブームである。

石窯で焼いたチーズとトマトソースだけのシンプルなピザに、本丸の川で釣れたお魚の出汁がたっぷり入ったスープパスタ。本丸の出来立てトマトで作るカプレーゼに、にんじんや玉ねぎを足してコンソメを入れて煮込んで作るミネストローネ。ブルスケッタにはにんにくを少しだけ効かせて、パセリを散らす。じゅわじゅわとバターが溶けて、それはもういい匂いが本丸を包み込む。
和食と素朴な家庭料理が多いこの本丸だったが、たまにはこういった異国の食事もいいだろうと思い作ったら、とてもご好評を頂き調子に乗ってしまっている。

今日も今日とて、晩ご飯はイタリアンだ。
揚げニョッキとソーセージの盛り合わせに、チーズが少しだけ焦げ色をつけてぐつぐつ踊るラザニア。オリーブオイルと調味料を混ぜて、イタリアンドレッシングを作り、レタスに粉チーズと一緒にかけたサラダ。
揚げニョッキは個人的にとても良い出来である。じゃがいもと小麦粉を混ぜて作るパスタの一種なのだが、普通は茹でたりしてソースと絡めて頂いたりする。私は少しズボラを発揮して、少し硬めに作ったニョッキをそのまま熱い油でじゅわじゅわ揚げて、これまた皆さん大好きカレー粉と粉チーズをまぶして食べる。外はカリカリで中はほくほく。ソーセージと一緒に食べるといくらでも食べれちゃう。大学生時代にレポートのお供にいっぱい作って食べたっけ。懐かしいなあ。

沢山いる本丸の皆さんがお腹いっぱいになるように、たくさんたくさん作った。もうあとは、冷めないうちに皆さんを呼んで美味しく頂くだけである。…なのだが。

ーぱんっ!!

引き戸の開く音に、私は音のする方を見た。


「主の…

主のばかぁ〜〜っ!!!」
「もうっ!主さんは僕たちをどうしたいのっ!?」


出来立ての料理たちを見てわなわなと震え、その場で口を押さえて泣くのは加州さんと乱さんである。
ほかほかと出来たばかりのご飯達は美味しそうな匂いを放っていて、この現状に対してアンバランスすぎて少しだけ面白い。私はびっくりして、目を見開く。
なんだなんだどうしたとギャラリーも集まり、私はなにが起こっているのか正直分かっていない。頭にハテナを飛ばすばかりである。


「あ、あの?加州さん?乱さん??」

「あ〜…大将…今日もかぁ。確かにこれはこれは美味そうだなあ?乱?」


集まってきたギャラリーの中の薬研さんはくつくつと意地悪に笑って、乱さんの肩をぽんぽんと叩く。
きっ!と乱さんは薬研さんを鋭く睨んで、加州さんと顔を見合わせた。


「主!!主はなんっっにもわかってないっっ!」
「そうだよっ!俺たちの苦労も知らないで!!」


血の涙。とはこういうものを言うのだろうか?
物凄い剣幕で2人はわたしに詰め寄る。左腕は加州さん。右腕は乱さん。すごく強い力で腕を掴まれる。痛くはないけど勢いがすごい。わたしも流石に冷や汗がたらりと伝う。



「「イタリアンは、太る!!!!」」



2人は満を辞して大きな声で口を揃えた。


……なるほど!!
味に不満があるだとか、そういうことじゃなくてよかった、と胸を撫で下ろすのも束の間。…なら、今日のご飯どうしよう??と

「え、えっと、ならお二人用にカロリーの低い湯豆腐メインのお夕飯を別に作りましょうか?お豆腐なら幸いまだ明日の朝餉用にとっておいてありますし…」


湯豆腐であれば、すぐに作れるし、それにカロリーも塩分も控えめだ。少し寂しいから小さめのおにぎりとお漬物なんかを添えて、お魚を焼けばすぐに夕飯が出来る。皆さんとスタートは遅れてしまうが…
そんな良かれと思った提案だったのだが、お二人の顔を歪ませてしまった。

「そういうことじゃ…そういうことじゃないんだよ〜〜っ!!」
「主さんは何にも本当に分かってない…っ!違うの、僕たちはイタリアンが嫌いなんじゃないの…っ!寧ろとってもとっても大好きなのっ!!だから!困るの!!」


???更にハテナである。お二人はきちんと本丸のお手伝いをしてくださっているし、太ってもいないし、なんなら私より細いくらいだ。

「イタリアンって怖いよね…とっても美味しいし、それに主が出してくれる料理って種類が多くて味に飽きが来ないから無限に食べられるし、それに野菜だって多いから痩せる気がしながら食べられる…でもそれがまやかしだって日に日に気付くんだ。そう、朝起きてまずびっくりするのが顔の油分。いつものヘルシー和食生活に比べててっかてかになるの、それに見て?必死に隠してるのにおでこのところ、そう!!俺今までニキビなんて出来たことなかったのにぽつんて!!ぽつんて一個だけニキビが!!!なんて失態!!こんなんじゃ愛されないぃ〜〜!!!」
「加州なんてまだいいじゃん…僕なんて見て??このニーハイのとこ。そう、今まで完璧なプロポーション誇ってたのにちょっとだけお肉乗っちゃったの。ほんとにショック。もう耐えられない。でも主さんのごはんは残さず食べたい…っ!!せめて、せめて今日は炭水化物抑えめにしてもらおうと思ったらもう晩ご飯出来てるんだもん…っ!!もう〜〜っ!!」


加州さんの指差すニキビらしきものはもはや小さすぎてニキビだと認識できないし、乱さんの足元はいつでもわたしなんかより全然細く華奢だ。
そんなに気にしなくてもいいとは思うのだが…困り果てたわたしは、イタリアンブームを終了させることをひっそりと心に誓った。





「…あるじさまっ!もうごはんははこびおえましたよっ!そんなじぶんのからだをゆうせんさせるものたちはほうっておいて、ごはんをたべましょう!ちなみにぼくは、おむらいすがだいすきです!」
と、今剣さんは笑いながらわたしの手を引く。

「ハイハイ清光とっとと席つきな〜あ、主。僕は和食が好きだよ」
加州さんをわたしから引き剥がして連行するのは大和守さんだ。

「ホラ乱。ラザニア大好きだろ?秋田。そっちの腕持ってくれ。…大将、俺はこの間食った煮付けが好きだぜ?」
「はーい!行きますよ!主さま!僕はなぽりたん?が好きですー!」
乱さんの腕を持ち、兄貴スマイルで薬研さんは笑い、秋田さんは天使のように笑う。

「ささ、主もお気になさらずに夕餉を共に。因みにこの長谷部は主の作ってくださるものであるならば泥でも食して見せましょう」
長谷部さんはわたしのエスコートをしながら、余裕のある微笑みでとんでもないことを口走った。


…うん。やっぱりちゃんと皆さんの好物の聞き取りが必要かもしれない。
そんなことを思った、ある日の本丸であった。










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