G級系審神者

ーーモンスターを狩り続けて早15年。
幼い頃に小さな鳥竜を倒してからというもの、時間の流れはとても早かった。
初めて刀を握ったのは10歳の頃。15歳の時には大きな竜も倒せるようになり、20歳には古龍種の討伐にも参加した。
様々なクエストに参加したし、様々な種類のモンスター達を討伐し、時に捕獲してきた。

25歳。私は村に1人しかいないG級のハンターだ。

小さなこの村では用心棒としての役割も兼ねていて、村長含む村人達にはそこそこ慕われている。と、思う。
大きな龍に生まれた村を焼かれ、災害孤児だった私をたまたま拾い、育ててくれた村長には頭が上がらない。

村長、改めじーちゃんの教育方針はとんでもなくスパルタで、今思うとおぞましいものでもあるが、それのおかげで私はここまでのハンターになる事ができた。普段憎まれ口しか叩くことはないが、尊敬もしている。

…だけどさぁ、じーちゃん。

「この任務は中々にハードなんじゃない…?」


大きく目の前に聳え立つ家。
明らかに私の世界とは違うその構造物に、私は冷や汗をたらりと流した。

事の発端は、約一時間ほど前に遡る。




____________________



「おいジジイ!!アンタまた私のこんがり肉を食っただろう!!いい加減いい歳なんだから肉じゃなくて野菜を食え!!」

村の中でも大きな家に、私の声が響き渡る。
ある程度任務で稼いだお金をじーちゃんに渡しているのだが、私のじーちゃんは遠慮する事なくそのお金を使いまくる。
家も改築したし、たまに賭け事にも興じる。
本人曰く、老い先短い我が人生!貰えるのであれば貰って使うが道理じゃろう!!≠ニの事だ。いっそ清々しくて私は嫌いじゃない。
お陰様で私の住んでいるこの家もかなり住み心地が良い。
そんなじーちゃんは今日も私がストックしておいたこんがり肉をすべて平らげたらしい。

…大目に見て10本は作ったというのに。この爺さん本当は化けてるだけでもっと若いんじゃないのか??と心から思う。

「ふぉっふぉっふぉ、お前が目に見える冷蔵庫なんかに入れておくのが悪いんじゃ。お前のバカさを呪うんじゃな!!」
「もしゃもしゃ肉を食いながら言うな!返せ私のこんがり肉ーーーーー!!!」

抜刀してじーちゃんに飛びかかる。
思いっきり振り回してもひょいひょい、と私の肉を持ちながらかわされ、尚も肉を食い続けるこのジジイ、もといじーちゃん。ヤケに素早くて、このハンターの私でもなかなか捕まえられない。たまに太刀の先っぽに乗ったりする。…おちょくられている。むかつく。めちゃめちゃむかつく。


「そうそう、儂はお前に任務を与えようと思い呼び出したのじゃ、そこに直れ。」

食べ終えた骨をぽーいっとゴミ箱に捨て、定位置に座るじーちゃん。ゴミ箱には大量の食べ終えた肉の骨が入っていた。
この野郎、全て食いやがった…!!いつか必ず奪い返してみせる…!!
心に誓いながらも無くなってしまったものは仕方がない。藁で出来た腰掛けに座る。

「お前に今から特殊任務を言い渡す!!異世界の神々を鎮め、場合によっては戦い勝利を収めるのだ!」



……………このジジイは何を言っているんだろうか。ついにボケたんだろうか。



「ボケておらんし、真面目も真面目じゃぞ?大真面目じゃ。」
「当たり前のように考えていることを当てるな。…なんでいきなりそんな任務に?」

このじーちゃんが突然任務を言い渡すのは今に始まった事ではない。
昔から刃毀れした双剣を握らせたと思えば今から大型魚を狩って来いだの、少しだけ切れ味のいい大剣を握らせれば大型獣を捕獲しろだの、大森林でハチミツ10リットル取ってくるまで帰ってくるなだの、唐突であるのはいつもの事だ。
だが、異世界。その単語は初めてだった。


「何、儂は昔より異世界との交流があってなあ。
古くからの知人が長く続く戦争に負けそうだが、力を借りていた神を怒らせてしまったと。
そこで、話に聞くお前の強い孫を貸してくれ、と涙ながらに頼んできた。
儂は、友人の頼みを断れなんだ。頼む。どうか行ってやってはくれんか……?」

じーちゃんはヨヨヨ、と芝居染みた泣き真似をし、その目にはキラリと一粒の涙が浮かんでいる。
でも、私は知っている。その涙は最近私が発見した目の薬にもなる薬草から抽出された雫だと言うことを。というか隠す気もないのかめっちゃ目薬見えてる。


「で、その人から何貰う予定なの?」
「異世界からベップ≠ニいう温泉を特殊な装置で送ってくれると………あ。」

「あ、じゃねーよクソジジイ!!私はアンタの温泉の為に神と戦わなきゃいけないのか!!ふざけんな!!」


やはりである。このじーさんは本当に私の事をなんだと思っているのだろう。


「ええい!!この祖父を舐めるな!お前が嫌だと言ってもぜーーーったいに行って貰うもんねーーーっ!!縛!!」
「っぎゃあ!なにすんだ!!」

キンッと淡く光りながら私の周りを縛るのはじーちゃんの術式だ。
このじーさんは本当に何者なのだろう。
時たま私が本気で嫌がる任務の時はこう言った謎の術で縛り、謎の転移術で任務の場所へと送り届ける。

「さあ、行け、我が娘よ。神々を鎮め、我が家に温泉を授けるのだ。」



「…任務が終わったらぶっ殺してやるから首洗って待ってろよこのクソじじい…っ!!」



こうして、冒頭へと戻るわけだ。



_____________________



「さて…どうしたもんかねぇ。」

とりあえずこの謎の屋敷に入り、今現在は探索を進めている。兎に角暗い。汚い。歩みを進めるが、未だ小さなモンスターですら発見できていない。

これはどうしたもんか、その謎の神様たちを鎮めればこの任務は達成らしいのだが、そのじーさんが言う神様とやらがどう言ったモンスターなのかも知らなければ、回復薬も少ない。
装備は一応餓狼種装備一式を纏ってはいるし、いつも使っている自慢の太刀もしっかり背中に携えているので戦えるは戦えるが、敵を確認しない事には始まらない。

探索を続けている矢先。
すぅ、と目の前に小さな物体が現れた。


「遠い異世界の地からお越し下さいまして、誠に有難う御座います。戦士様。当本丸の担当管狐、こんのすけにございます。政府より戦士様のサポートをするように、と承って参りました。どうぞよろしくお願いいたしま…すうぅぅぅう!?」

ーーー狐に向けて思いっきり太刀を振るう。
ビュンッとわたしの自慢の太刀はしなりながら狐を目掛けて振り下ろされるが、狐は案外すばしっこくて、ひょいっとかわされてしまった。
代わりにバキバキっと音を立てながら廊下が簡単に壊れた。…うーん惜しい。


「なななな、なにをなさるのですかぁ!!ヒュッとしました!心がヒュッとしました!」
「随分と流暢に喋る狐だなぁ。
いや、ご飯食べてなくて体力無いから削ぎ取って生肉にして携帯食料にしようかなって。」

カエルやら鹿の肉なら食べた事はあるけど、果たして狐は食えるのだろうか??
いや、でも焼けば肉なんてどれも同じな気がするから大丈夫か。
呑気に考えれば狐は焦ったように命乞いを始めた。

「ああああ、あるじさま!
こんのすけは食用ではございませんっ!!主様のお世話をするキツネにございます!!政府より派遣される管狐は一本丸につき一匹!!こんのすけを、食えば本丸の生活は儘なりませぬぞ!?」
「……あぁ、なるほど。この世界のオトモ的なポジションか。それなら殺すと倫理的にアウトだな、辞めよう。」

初めての狐肉、ちょっと食べてみたかったがオトモを食うわけにはいかないので、太刀を鞘に納める。

「異世界より最強の戦士がこの本丸の復権にお越し頂けたと伺っていたのですが…これは本当に大丈夫なのでしょうか…」

ブツブツとキツネ、もとい、こんのすけはなにかを呟いているが太刀に手を掛ければびくっと震えて頭を下げた。ふむ、コイツなら色々と知っていそうだ。
こんのすけの首の皮を掴み持ち上げる。ぷらん、とこんのすけは嫌がるでもなく持ち上がった。

「オイ、こんのすけとやら。
私はなんの事情も知らず、頭の狂った祖父によってここに送り込まれた。私ができるのは戦って敵を粉々にする事だけなんだが、敵はどのような奴だ?回復薬一個で足りるか?
流石の私も古龍が来たら回復薬10個は欲しい。だがこの場には薬草も生えていない様だ。
敵の様子を教えろ。」

「は、はぁ…粉々にはして頂きたく無いのですが…。
こちらの本丸の皆さんは所謂ブラック本丸出身者でして、人間を酷く嫌い、憎んでおります。
刀解しようにも手入れをしようにも、皆さんで一斉に襲いかかってくるので政府も太刀打ちできないのです。ですが放置をして堕ち神になられても困る。
なので、最強の戦士であらせられる戦士様にはこの本丸の刀剣男子の皆さんを少し動けない状態にして頂きたく…。
刀解や手入れの交渉などは、こちらで致します。ですので兎に角襲われないような状況を作って頂きたいのです。

もう、送った審神者が二人半殺しにされています。危険と思われましたらご無理をなさらず離れに避難して頂きたく…」

あ、離れはアレでございます。
とこんのすけは指を指す。縁側の向こう側を除けば、掘っ建て小屋としか言いようの無いボロの小屋がひっそりと建っていた。
……決めた。帰ったらジジイは簀巻きにして川に流してやる。

「よく分からない単語も多いが、兎に角私は刀剣男子とやらを襲ってこなくなるまでボコボコにすれば良いんだな?了解した。どこにいる。」
「皆さんが集まっているのはこちらでございます。」

こんのすけの指差す方向へと歩みを進める。
…瞬間。



「…首落ちて、死ねっ!」

背後を取られていたらしい。
こんのすけを庭の生垣らしきものへとポイっと捨てて刀を手に取るが、思いっきり首を目掛けて一刀される。避けつつ間合いを取るが、相手の太刀筋は重く、私の首の装甲は少し掛けてしまった。
抜刀して目の前の敵を見る。若い、男。青い羽織に長い髪の毛は結い、酷くイライラした様子で私を睨みつけていた。

「…殺したと思ったのに、なんで死なないんだよ。」
「すまんな、一発でやられる程落ちぶれてはいない。」

どうやら先ずはコイツが相手らしい。体制を整えたらすぐ様戦闘が始まった。
がきんがきんと鈍く刀同士が当たる音が響く。こいつ、結構早い。それに硬い。肉質が柔らかいモンスターの方がよっぽど楽だ。
まるで土砂竜の背中を切っている時のように弾き返される。
細い見た目とは裏腹にかなり鍛えているらしい。
少々手こずりながら相手の行動パターンを見つつ、攻撃を受け流す。

「オラオラオラァ!!これで終わりかよ!?」

私が劣勢の様に見えたその闘いは案外呆気なく終えた。

「ちょうしに、のるな。」

攻撃パターンはある程度理解できた。
見切りを発動させた後に兜割りで相手の頭を思いっきり割る様に叩き切る。
普通の人間なら真っ二つになるんだろうが、彼はどうやら本当に神様であったらしい。ダメージは受けつつもそこまで大怪我ってわけでも無い。代わりに何故か服が弾けた。パァンっと。そして彼はその場に崩れ落ちる。うん、何故だ。


「戦士様、お見事でございます!!大和守安定をこんなに容易く討ち取るなど!!」
「やまとの…?まぁいい。コイツの他にもいるのだろう。倒した奴らをまとめといた方が良いなら連れて行くが、どうすればいい?」


で、ではこちらに!と縁側へと誘導されたので、俵担ぎにしてやまとなんちゃらを縁側へと運び落とす。
…案外強い気がする。やはりこの狐を買うのが先だろうか。
じっと狐を見れば何かを察したのか狐は部屋へと案内を始めた。
察しのいい狐は嫌いだよ。


_______________



「悪い、僕も結構邪道でね!」
「五分も斬り込みゃ人は死ぬ、ってなぁ!」
「ナウマクサンマンダバサラダンカン!」

部屋に辿り着いたはいいものの、話を聞かず襲いかかってくる敵の数は案外多く若干私も死にそうになりながら戦い続ける。

ひょろっこいのとちっこいのは早めに気絶させられたが、この謎に筋骨隆々な男2人と、さっき気絶させた中に居た髪の長いのを殴った瞬間からめちゃくちゃ強くなったひょろっこいのが少し面倒くさい。
先程三日月の目をした奴に兜を割られ、そのせいで頭から流れる血を拭う。
アイツもアイツでめちゃめちゃ強かった。もう少し楽しんで戦いたかったが、そんな余裕なかったので早くに気絶させてしまった。悔やまれる。

最後の回復薬を飲んで最後の仕上げだ。
気刃斬りでブンブンと振り回せば、アイツらも限界だったのかその場に倒れこんだ。
あと一発、食らわせれば気絶するだろう。
私は血の気の多い男の前へと歩みを進め、しゃがむ。

…気絶させる前に、聞きたいことがある。一つの疑問があったのだ。


「おい、お前ら。何故そんなに人間を憎む?何がそんなにムカつくんだ?私には分からん。こんなにも強いのなら、虐げるものなどすぐに消せるだろう。」

そうなのだ。こんのすけの話ではコイツらは人間に虐げられ、そのせいで話しもできないほどに人間を嫌っていると。
だが、私をこんなにも血みどろにしてボコボコに出来るモンスターは今やそう居ない。体はとても痛いが、私自身、久し振りにとても楽しく戦わせて頂いた。

だからこそ、謎だ。
強さがあるのにも関わらずなぜ大人しく従っていたのか。

「………あぁ?そんなの、俺らだって知らねぇよ。

契約した審神者は問答無用で主人になる。
そうなったが最後、俺らに自由は無い。
戦わせてくれるんだったらそれで良かった。
アイツは、俺らをここに閉じ込め、戦わせるどころか強制的に褥を共にさせた。毎日毎日毎日だ。朝晩飯もなく、性を吐き出すしかない生活だ。
戦わない刀など、なんの価値がある?それは俺らにとって最大の屈辱だ。俺らは美術品でもなんでも無い。もう、人間に使われるのは真っ平なんだよ…!

…だからこそ、ここに来る人間は全て消す。二度と、あんな屈辱を味わうのは御免だ。」


成る程、主従の契約を交わすと逆らえなくなるのか。

目付きの悪い男は酷く悔しそうで、苦しそうであった。それはきっと今つけた傷のせいではない。この本丸とやらの男どもは、どうやら戦うのが生き甲斐らしい。
本能を強制的に抑えられ、辱められる毎日は人間を心から憎む理由たり得るのだろう。
私だって、今更戦いを制限されたらと考えるとゾッとする。
小さな頃から戦いしかなかった、何かを殺め、何かに殺められそうになる。その緊張感が、最早生き甲斐となっているのだ。それを奪い取られたら、私だってそいつを憎むかもしれない。


「だが、てめぇみたいな奴に、扱われるなら、刀も、本望だろうなぁ…」


すこしうっとりとした表情で、震える手で、私の刀に手を伸ばす。
…なんと、こいつは見所がある!
そうだろうそうだろう。この太刀は私が狩った獣の牙で私が丹精込めて打ったものだ。ここまでのレア度になるまで時間と鍛錬を繰り返し、漸く手に入れた代物だ。

「お前の名はなんという?」

私の自慢の太刀を褒めてくれたお礼に、コイツの名を私の心に刻もう。人の名前を覚えるのはとても苦手だが、コイツは強かったし、いい奴のようだ。覚えておくに値する。
ボロボロの男は目を見開いた。


「俺、は、同田貫正国。
俺たちは武器なんだから、強いのでいいんだよ。質実剛健ってやつ?」

「そうだな、武器は強く有るべきだ。お前の考えに私も賛成だよ。同田貫正国。」

私がそう言えば、彼は嬉しそうに笑って気絶した。
…とどめを刺した覚えはないのだが。
だが同田貫正国、覚えておこう。刀をしまい、立ち上がる。
これで任務は終わりなはずだ。筋肉僧とカネサンカネサン言っていたひょろっこいのはもう気絶していた。きっとこれで全てのはずだ。
高みの見物を決め込んでいたこんのすけを見やる。さぁ、これで、私は帰れるんだろう?


「せ、せ、せ、戦士さま!!同田貫正国と契約を交わしたということは、審神者をされるということでございますか!?!?」


キツネはキラキラとした目で私を見ていた。
……何を意味の分からないことを言っているんだこのキツネはやはり食ってやろうか。








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G級系審神者
1人で古龍討伐も余裕でこなす超戦闘体質。
ギルドでは英雄視されているとかいないとか。
なんやかんやで同田貫正国と契約をしてしまいズルズルとなんやかんやで審神者になる。
爺ちゃんにはベップのみならずユフインの湯も提供されることになった。


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