乱数くんのセフレです



ーー婚活、というものを知っているだろうか。
私もそろそろ結婚を考えなくてはならない年齢に差し掛かりつつあるのは重々承知である。だが、どうしてもそれをやりたくないというか、めんどくさい気持ちが私にはあった。

某日、飴村乱数くんのATMだった私は、飴村乱数くんのセフレに昇格したばかり。
会う回数もかなり増え、お呼び出しも嬉しいことに増えた。

看護婦という職業柄、夜勤明けだったり日勤と夜勤の合間に会ったり、変な時間帯に会っているからかキチンとしたデート、というものは全くしていない。

まぁセフレとはその名の通りセックスをする為のお友達な訳だし、このお粗末な身体でも乱数くんの性欲の捌け口になれているのであればそれはそれで全然アリだ。
なにより彼と肌を重ねることが出来る事は乱数くんにベタ惚れしている私にとって最高のご褒美であった。
シャワーの後の濡れた髪とか、そのまま組み敷かれる幸せとか、優しい手でわたしの頬に触れる乱数くんの触り方がヤケにエロいとか。わたしの上に乱数くんがのしかかり、下から見上げる乱数くんのいつもと違う色っぽさ、とか。そんなのが、違う時間は他の女の子に向けられていたとしても、今の時間だけはわたしのもの。わたしだけの、もの。目がハートにならざるを得ない。


そんな訳で、お陰様で私は今の現状にかなり満足しているし、今は一生それでいいとも思っている。
だから、婚活なんてするつもりもなければ他の男性を探すつもりも全くなかった。
本当だ。無かったのだ。



「ーーアハッ!オネーサン達楽しんでるぅ?」
「きゃーっ!乱数くんもこっちきて飲もうよぉ!」
「うーん、それが僕今日お手伝いさんなんだよねぇ……

……彼氏に友達と遊ぶってウソついてクラブきて合コンしてるどっかの誰かと違って、ね?お ね え さ ん ??」


ーフロアに大音量で鳴り響く音楽、ズンズンと心臓に響くのはベースの音、踊らずに二階の黒い革張りのソファに腰掛けて、楽しむのは気の合った男女の逢瀬、バーカウンターで注文したカクテルも入り、独特のもったりとした雰囲気に酔いしれながら交流を深め、良いムードが漂ったら連絡先を交換する。その後は勿論御察しの通りだ。

「…あ、あはは、は、」

私は今なぜかクラブ主催の大型合コンに来ていて、そして目の前には私の愛しの飴村乱数くんが、物凄い笑顔で額に青筋を浮かせながら、運営スタッフのお手伝いとしてこの場に立っていた。
わたしは、何故かとても責められた気分でソファに座りながら空笑いしかできない。喉がカラカラだ。ごっくごっくと喉を鳴らしながら何故かいつもよりヤケに甘ったるいモヒートを煽る。


…いやいやいやいやちがうのほんとに違うのこれは友達にこのイベント女2人で行けばかなり安くなるしお酒も美味しいしなにより彼氏欲しいから付き合ってって半泣きで頼まれたから仕方がなく来ているだけでいつもはこんなところ絶対来ないし、たまには乱数くんの事ばかりに構ってないで友達とも遊んでよ!って言われてちょっとたまには乱数くん以外と遊んでみようかなって思っただけで、そもそも私は今日クラブに行くとは聞いていたけどこんな合コンみたいなことになるとは夢にも思わなかったっていうか、いやほんとに、決して乱数くんを騙したとかそういうんじゃなくって、それに乱数くん以外に身体を許す気はないしお金だって貢ぐ気はないし、

あぁもう、まさか、乱数くんがこの場にいると思わなかった!!!


「……今すぐいつものとこ、僕ももう抜けるし、なまえも抜けて来て。来れなかったら僕、怒っちゃうかも。」


友達はきゃっきゃと今日見つけたお気に入りの男性との会話に夢中だ。私のお相手さんは、いない。
先ほどお相手さんに乱数くんは何かを言っていて、それを聞いた瞬間、初めて会った彼は血相を変えてこの場を立ち去った。
何を言ったのだろう。なんだかとても怖い。ばいばーいっ☆と乱数くんは彼に手を振って、瞬間、グリンと真顔で私の方に向き直る。びくっと条件反射で反応してしまった。いや、とても、雰囲気が怖くて、

ボソッと耳元で私に囁く、乱数くんの声はとんでもなく低い。いつものキャピィっ☆とした明るさは全く無い。
ーー怒っている。乱数くんは、恐らくとんでもなく怒っている。

少し固まった後、友達に了承を得て私はいつもの場所へと向かった。
友達は相手が見つかったからかとっとと行けというオーラを醸し出していた。なんて薄情だろうか。



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「言い訳なら聞いてあげるよぉ?このウワキモノ。」


いつものラブホテル。乱数くんはソファに座って足と腕を組み、相変わらず額には青筋を立てていた。
わたしは床に正座している。膝の上には手をグーにして置いて、冷や汗を拭うこともせずにそこにいた。乱数くんと目を合わせることができないので、ベットの下を兎に角見つめる。
先程までそこそこ高いヒールを履いていたから、少しだけ足が痛いけどそんなことを言っている場合ではない。

ーーこんなに怒る!?ただのセフレの合コン発見しただけで!?

内心そう思いながらも、口を開くに開けず押し黙る。乱数くんは痺れを切らし、組んでいた足を解いて前のめりになり、手を伸ばして私の顔をひっ掴んだ。ぐい、と顎をに手を置かれ無理矢理目線を合わせられる、

くそう!!顔がいい!!不覚にもどきっとした!!


「ねぇ、浮気しといて弁解もないのぉ?早くなんか言えばぁ?僕、好きな人に嘘付かれて浮気されて結構傷付いてるしムカついてるんだけど〜…なんとか言えよ」

一気に低くなった声にぞくっとする。

恐怖でも、性的な意味でも、だ。
果たしてわたしはいつからドMになったのだろうか。それでも、加虐的に冷たい目線とその口調に腰が疼いた。それは乱数くんの調教の賜物であると思う。

…先程から、気になっていることがある。クラブでも、彼女、今は、好きな人。そんなパワーワードが乱数くんの口からぽんぽんと出てくるのだ。んん????わたしは、ただのセフレでは??乱数くんの無数いる女の子のうちの1人では???

どうしても確かめたくて、震える唇をおずおずと開いた。


「あの、乱数くん、その、先程から、彼女とか、好きな人とか言ってくれてるけど、わたしってただのセフレでは……??
乱数くんの遊び相手のうちの1人だよね…??
いや、セフレでも勿論嬉しいし文句はないんだけど、そう言われると、その、


勘違い、するっていうか、」

たどたどしく言葉を紡ぐ。

目線を外せたらいいのだが、強く顎を掴まれてるせいか一切目線を外すことができない。
そう言えば、乱数くんは目を見開いた。
は?こいつ、なにいってんの??
そんな表情を浮かべていて、状況を理解できていないようだ。

「…え、なに、なまえまさか、
僕のセフレの一人って思ってたの??え?ちょっと待って、は?」

わたしの顎から手を離し頭を抱える乱数くん。
わたしは、もしかしたら、嬉しいことになっていたのやもしれない。


「あんだけどろっどろに甘いセックス彼女じゃない子にすると思ってるの…?え、なまえ、バカなの…??
僕最初に言ったよね、1番好きだって、」
「いやほんとにいつも気持ち良くして頂いて嬉しい限りですが、それはATMの中で一番好きって、そういう事じゃないの…?」


「はぁぁぁあ…

…オーケーわかった、なまえには直球じゃないとダメって事だね。了解。」


盛大に大きな溜息をついてからわたしの方に向き直る。目線を合わせれば、さっきの怒っている表情は緩んでいた。多分、呆れ切って一周回って怒りが薄くなっているんだろう、
そのままわたしの肩に両手を手を当てて。

「 僕、なまえが好き。一番好き、だから、僕と付き合って?」

答えは、イエスでしょ?
呆れたようにそういった乱数くんは少し遠い目をしていて、わたしは目を見開いて。
どうやら物凄い誤解をわたしはしていたようだ。乱数くんはなんとわたしを好きでいてくれて、わたしを彼女だと思っていて、わたしのことが一番だって………?

脳が追いつかない、まったくもって追いつかない。でも、

「い、いえす」

ノーである筈もない。
どんどんと顔が熱くなる。ユデダコだ。ユデダコリターンズだ。
初めての夜のようにまたびっくりするほどの笑顔になった乱数くんは、その小さな体のどこにそんな力があるのか、わたしを横抱きにしてぽいっとベットに放り投げる。

ぽすんとその柔らかな布団に体を沈めれば、いつもよりニコニコと、笑みを浮かべる乱数くんはわたしの上に乗る。


「勘違いはわかった、許してあげる。

だけど、嘘をついて浮気したことはまだ許してないし、謝ってくれてないよね??」


プチプチとカラフルなシャツのボタンを外しながら、最高に黒い、怖い笑顔をいただいた。



そこからはお察しの通り。おしおきセックス は朝まで続き、わたしは腰と喉を破壊された。
こうして、わたしはATMからセフレになり、セフレから彼女にまで昇格したようだ。
……腰と喉と引き換えに。




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