ちっこくなったさにわと来派

カーテンから光が差し込む。昨日は少し窓を開けて寝たので、外からは心地よい風が入ってきた。土と葉の混ざった、朝の匂い。どうやら今日はかなりの晴天だ。私は目を擦って、まだ暖かい布団から出てひとつ伸びをした。


「…あらまあ。」

身支度をしようと部屋の姿見を見て、そんな間抜けな独り言を呟いた。
ビックリ仰天とはきっとこのような時にこそ使うべき言葉である。
鏡に映る自分の姿を見て、ぺたぺたと頬を触り、自分の手のひらをまじまじと見つめる。
確かに、いつも来ている寝間着もぶかぶかで、肩からずり落ちてしまっていた。
朝起きたら、私は何故か、小さな少女になっていた。



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「「「あ、あ、

あるじ!??!」」」


「そうなんです…わたしはしょうしんしょうめいの、さにわなんです」


なかなか上手く回らない口に、苦笑いをする。皆さんは案の定とてもびっくりしていて、そりゃそうだ、私もすごくびっくりしている。
原因不明のこの現象。こんのすけさんによれば、他の本丸でも起きているらしい。

原因究明と対処法はまだ確立されておらず、どうやら政府が対応して原因がわかるまでは当分はこのままの姿でいるしかないらしい。タイムパラドックスの乱用が原因か、はたまた時間遡行軍の陰謀か。
それにしたって兎に角動き辛い。
審神者服は着れないので、一番体系の近い今剣さんの内番服のスペアをお借りして、ぶかぶかな割烹着を腕まくりする。

皆さん反応は様々で、


「…あの、あかしさん。あたまをなでるのすこしながくないですか?」
「んー?いや、つい可愛らしくてなあ、」

「なんか主さんちっちゃいな!俺と一緒に牛乳でも飲むか!?」
「あ、じゃあいただきましょうかね?」
「でしたらホットミルクに致しましょうか、小さいとはいえ女子、体を冷やしてはいけないでしょう」
「ありがとうございます、いちごさん。」


「ですが…これでは生活に支障が出てしまいますね…こんな時こそ主お世話係であるこのは せ べ が…っ!」
「はいはーい、今日の近侍は来派だから。長谷部は引っ込んでて。ね?主」


私の頭を撫でくり回す明石さんに、自分の飲んでいた牛乳をん!と渡す愛染さん。
それを温めてくれる一期さんに張り切る長谷部さん。そんな長谷部さんをひょいっと持ち上げて退かす蛍丸さん。

…あ、そうか、今日の近侍は来派の皆さんだ。


「…でしたら、らいはのおさんかた。すこしだけ、おてつだいをしていただいてもいいですか?」




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「あー…主はん、そないな持ち方したら危ないで、やるから貸しや」
「えっ…」

お味噌汁の味噌を入れるのも一苦労だ。台座を使っても、背伸びを少ししなければコンロに届かない。

小さな手の倍の大きさはあるおたまに四苦八苦していると、明石さんはひょいっと私を持ち上げておたまを奪い取った。
私はぽかんとする。

…いつも家事なんてやりたくない明石さんが率先して…っ!

感動すら覚える。だってあの明石さんがお味噌解く日が来るだなんて信じられないからだ。

「次、何したらええん?危なっかしくて見とられん、自分やるわ」
「お、おねつでもありますか?」
「何言うとんの」


ポンポン。いつも蛍丸さんや愛染さんにしているように私の頭を優しく撫でる明石さんは圧倒的にお兄ちゃんで、わたしはついぽかんと口を開けた。



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「あるじー、これどうすればいい?」
「あ、それはこちらのこやにしまっていただけますか」
「まっかせてー」

ひょいひょいと割った薪を大量に薪小屋に仕舞っていくのは蛍丸さんだ。時折薪は足しておかなければ厨の火が足りなくなってしまう。今日が生憎にも補給する日で、ちゃっちゃかと斧で割ってしまう予定だったのだが、蛍丸さんが手伝ってくださるとのことなのでお言葉に甘えてしまっている。

自分より重そうな大量の薪を軽々と持ち上げる彼はやはり大太刀なんだなあ…としみじみ思いながら、私は小さめの薪を割ろうと斧を持った。

「はい、主はこっち」

ひょい。体が浮き上がるのを感じる。

私の脇に手を差し込み、軽々と持ち上げた蛍丸さんは、手頃な切り株の上に私を下ろした。そっと斧を取り上げるあたり流石である。でも、一緒にいて何もしないわけにはいかない。

「あ、あの、ほたるまるさん。わたしもすこしはおてつだいを…」

そういいかけて、蛍丸さんは人差し指を自分の口元に添えて、しー、のポーズをした。かわいい。ついそう思ってしまい黙る。

「きっとさ、誰かが主は今日くらい休んだほうがいいって言ってるんだよ。だからそこで俺が薪を割るの見てて?それで終わったら、ちゃーんと褒めて欲しいな」


…はい、そうします。
そう思わずにはいられないほど、彼の微笑みは小悪魔的だった。



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結局のところ今日一日、元には戻らなかった。
この身体はだいぶ不便で、色々な方に手助けをしていただかないといけないので、早く元に戻りたいものである。

「主さーん!!髪の毛ぷーしてやるから早くこっち来いよ!」

そう生き生きと私を呼ぶのは圧倒的にお日様な彼、愛染さんだ。
来派でも一番末っ子だからか、私の面倒を見るのがやけに楽しいらしい。割愛したが先ほども愛染さんと粟田口の皆さんと一緒にお風呂も入り、愛染さんには頭を洗っていただいた。(決して素っ裸ではないので安心して欲しい。どこから入手したのか幼児用の水着を見に纏い、皆さんも海パンであった)

ぷー、とは、どうやらドライヤーのことだ。わきわきと指を動かし、ボスボスと座布団を叩く愛染さんは私の髪を乾かしてくれるらしい。
座り慣れた自室の座布団に素直に腰をかける。いつもより低い座高に違和感を感じながら、私はおとなしく髪を乾かされることにした。


「なー、あるじさんー」
「はい?なんでしょう?」
「オレさ、主さんがずっとこのままでも全然いいぜ!分かんねーけど…妹ってこんな感じなんかな!」


それはちょっと…と濁すと、それを察した愛染さんはえー、と残念そうな声を上げた。
だって皆さんにご飯を作って差し上げたいですし、掃除もお任せしたっきりは申し訳ないですし。そう言いたいのをつぐんで、

「ずっとこのままだったら、またかみをかわかしてくださいね、おにいちゃん」


そう言って苦笑いをした。



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次の日、何も反動なく戻った後の皆さんの見たことのない残念そうな顔は、私は忘れられそうにない。






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