菩薩系番外 鶴丸相手

審神者にはあまり休みらしい休み、というものはない。何かやることを探せばやることは出てくるし、1日でも休めばその分仕事は溜まる。

今日も今日とて私は日課の刀装作りに励み、出陣表を作り、指示を出し、そして皆さんの朝昼晩のご飯を作る。お洗濯や掃除なんかは皆さんで回して下さるようになっただけ、仕事量は減りありがたい。
そう、最近は刀剣男士の皆さんも増えて、出陣の回数も政府からの依頼も増えた。
…少しだけ、少しだけだがクタクタである。

皆さんとの1日を終え、私は審神者用お風呂から上がる帰り道。少しだけ本丸の居住スペースから離れたところにある女風呂は露天で、貸切だ。普通のお風呂にしか入ってこなかった私にとって、それはとても贅沢な時間なように感じる。


「(お部屋に帰ったら報告書を書いて、それから明日用の朝ご飯のお米を炊いておきましょう。遠征もそろそろしないと資材が足りなくなるやもしれません。皆さんの練度も均一にしたいですし、編成は…)」

温まった頭でやる仕事をまとめる。
涼しい夜風が頬を撫ぜるのがとても気持ちよくて、部屋に戻ったら眠ってしまいそうだ。

自分でもわかる。ぼんやり歩いていた。


「…っわ、」


だから気がつかなかったのだ。その不自然なこんもりと盛られた土に。
急な急降下、案外深いその落とし穴の中には、やたらとふかふかしたものが敷かれている。ぽすん、とその上に転がる。
…柔らかい。どこも痛くない。

「ふふ、どうだ?驚いたか!」

頭上から声がする。落とし穴の中を覗いているのは、やたらと嬉しそうな鶴丸さんだ。
…いや予想はしていました。こんなことするの、鶴丸さんくらいしかこの本丸にはいないですもの。

「…驚きました、久し振りに鶴丸さんの落とし穴に引っかかりましたねえ」


ふかふかとしたそれに身を預けながら、鶴丸さんを見上げる。なんだか悔しいような、こんなことをしてくれるようになってくすぐったいような。
その言葉に満足したのか、ふふん、と笑って鶴丸さんは落とし穴の中に飛び降りた。


「よ、っと…おや、主は風呂上がりか?なんだかいい匂いがする」
「ええ、いいお湯でした。それにしてもこのふかふかしたものは…新しい藁、ですか?」

すんすん、と私の髪の匂いを嗅ぐと、そのまま一緒に空を見上げる形で横に寝転がる。
私は自分の下に敷かれているものが藁だ、という事を漸く認識した。


「そうだ!馬小屋の藁を新しくするとかで長谷部に運びを頼まれたのだが、運び込む前に主に驚きを提供しようと思ってな!!

…最近、忙しないだろう?偶にはこういう時間も悪くないんじゃないか?」


ほら、と鶴丸さんは空を指差す。

この本丸は、本当に綺麗になった。

「綺麗な満月と、星ですね…」


見上げれば、街灯なんて一つもないこの本丸にを照らす月と、星。
瞬くそれらはすごく綺麗だ、

…そういえば、最近星を見る余裕なんてなかったような気がする。
やけに忙しくって、なんだか余裕がなくなっていたのかもしれない。

「主、我らは贅沢な暮らしも特別な何かも求めない。」

ぽつり、鶴丸さんがつぶやく。


「だから、どうか側にいてくれ。」


わたしはその言葉に、驚きながらも頷いた。

その後鶴丸さんと星を楽しんで、帰りが遅いわたしを探しに来た近侍の長谷部さんと加州さんに湯冷めする!!!とこってり怒られた後、わたしはまたお風呂へと逆戻りをするのだった。
…先ほどまでとは違う、少し暖かい気持ちを持ちながら。


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bkm
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